「無断欠勤を許容すれば、仕事の効率や品質も上がる」 子育てママのパートタイマーを応援する工場長に思いを聞いてみた
話題のきっかけは、8月12日付け朝日新聞に掲載された「『好き』尊重して働きやすく」という投書。筆者は会社員の武藤北斗さん(40)。この投書をツイッターユーザーが紹介したところ、ネットでたちまち話題となり、称賛の声が殺到した。
「ホワイトすぎて後光がさすレベル」
「これなら安い賃金でも従業員の忠誠心が養われそう 」
「社畜には信じられない働きかただな……」
好きな日に出社できて、休みの連絡は必要ない。おまけに嫌いなことをやらなくていいとは、確かに夢のような環境だ。しかし具体的な実現性を考えると、さまざまな疑問が湧いてくる。例えば、そのような働き方で生産計画との齟齬は出ないのだろうか。
ネットを検索すると、投稿者の武藤さんは勤務先のパプアニューギニア海産のウェブサイトで、投書への反応について補足情報を発信していた。そこでキャリコネニュースでは武藤さんに電話取材をし、さらに詳しい話と背景にある思いを聞いた。
「休みの質」を大切にしようと考えた
武藤さんによると、会社は以前から「子どもが熱を出したときには当日欠勤してもいい」と伝えていたという。しかし従業員からすれば、「今日はお休みします」とは決して言いやすいものではない。そこで武藤さんは、逆転の発想を取ることにした。
「病気の子どもを置いて、お母さんは仕事には行けないですよ。ならば休むときに、いかに気持ちよく休めるかという『休みの質』を大切にしようと考えたんです。ちゃんと休めば、ちゃんと働いてもらえる。だから逆に『好きな日に連絡なしで出勤できる』ことにすればよいと思ったんです」
さらに今年からは、新たに「嫌いな作業をしない」という取り組みもスタートさせたが、担当がうまくバラけて特定の業務に集中することはないようだ。どうせバラけるなら、会社が押し付ける必要はない。また同社では、「作業を早くしろ」と指示しないともいう。
「作業スピードには個人差があります。スピードよりも、みんなで協力して仕事をしているか、一生懸命やっているかの方が大切です」
会社のブログによると、採用時に特別な面接をしているわけではないが「一生懸命仕事をする人だけ」が残っているといい、「そういう意味では優秀なパートさんに恵まれています」と書いている。職場の雰囲気がそうさせているのかもしれない。
仕事を「週や月という長いスパン」で見ればいい
武藤さんは、こうした働きやすさを重視したアプローチは従業員が働きやすくなるだけでなく、会社のためでもあると話す。結果的に品質向上につながるためだ。
しかし、社員個人のモチベーションが上がるのは理解できるが、このような働き方で会社全体として必要な生産量は計画的に確保できるのだろうか。この点は、同社が冷凍食品を扱っており、原料と製品が冷凍状態であることがポイントとなっている。
「弊社では月間での出荷量は決まっていますが、『今日絶対に出荷しないといけない』という制約はありません。人手については、一日単位で見ると不足することはありますが、週や月という長いスパンで見れば困ることはあまりなく、特に問題はありません」
人手が足りないと判断した際には、解凍する量を調節すればいい。とはいえ、会社と社員の信頼関係が崩れてしまえば、週や月単位での生産が間に合わなくなるだろう。武藤さんも投稿で、会社は「疑い合うこと、縛り合うこと、競い合うこと」から抜け出す時期に来たと指摘している。
フリースケジュールの適用はパート従業員のみだが、急な休みで社員にしわ寄せが行くことはないのだろうか。この点について武藤さんは、2人の社員は「大きな負担に感じていない」と言い切る。同社の社員は基本的には18時に退社でき、土日祝日も休みだ。
「子育て中のママだけ特別扱い」の批判に反論も
武藤さんは投稿記事で、「夫や子どもとの時間を優先できる生活になった」と従業員から好評であることを明かしたうえ、「これこそが自分の仕事に誇りを持ち、人生を前向きに生きるこれからの働き方ではないでしょうか」と記している。
すべての業種で適用するのは難しいかもしれないが、働く人の働きやすさを考え、実現化に向けて動くという取り組みはもっと増えてほしいものだ。
なお、会社の取り組みについて、ネットからは「子育て中のママだけ特別扱い」に対する批判もあったという。これに対し、武藤さんは「ママさんさえサポートできない社会になんの未来があるでしょうか」と反論している。
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