相次ぐ過労自殺の背景に世代間ギャップか 「マネージメントを知らない管理職たちが若者を追い込む」
若い世代の過労自殺が社会問題となる中、40~60代からは「残業100時間ぐらいで自殺なんて」という声もある。その世代は出来たのに、今の若者は心身ともに弱くなったということなのか。よく、「昔は頑張れば上昇する希望があったから」と聞くのだが、それだけでは納得できない。
そんな疑問を感じていたところ、11月5日の「ニュース深読み」(NHK総合)は、若者の過労自殺問題について特集し、今と昔の働き方の違いについて指摘していた。(文:okei)
IT化する以前はまだ時間的に余裕があった?
昨年度の20~30代の過労自殺での労災認定は、未遂を含めて36人。警察庁の調べでは、仕事が原因の自殺は955人にものぼる。番組アンケートで20~30代が長時間労働の苦しさを訴える一方、こんな声があった。
「残業100時間ならむしろ少ない。この程度で自殺するようでは社会人としてやっていけない」(43歳男性)
「甘い!私のころは仕事も遊びも全力投球だった」(51歳女性)
「長時間労働はどこの会社でも普通に行われている。サラリーマンの世界ではそうしなければ仕事は終わらない。生き残れない」(60代男性)
この世代はバブル景気の頃に入社し、バリバリ働いてしっかり稼ぐという成功体験がある。しかも、この人たちを育てたのが1970年代高度成長期のモーレツ社員たちだ。ゲストの桂文珍さんは、世代を代表して「当時は『何を買いたい』など目標が目の前に見えやすかった」と語る。「頑張った分だけご褒美ある」と信じて働けたのだ。
視聴者からのメッセージに、「昔は先方に書類を届けるときに休息がとれた」とあったように、インターネットや携帯電話が登場する以前には、比較的のんびりした時間の猶予があった。いいか悪いかは別として、子育てや介護は女性に任せきりでもさほど批判は受けなかったし、1960年代は老人が少なく、人口増加で後輩や部下がどんどん増えていた。
「生き残るための後ろ向きのモチベーションしか保てない」という時代
一方、いまの20~30代はもの心ついたころにはバブルが崩壊しており、少子高齢化やワーキングプアで大変だと言われながら育った。2000年はリストラの嵐、断続的な就職氷河期で大変な苦労をしている。奨学金返済に追われる新社会人も増えており、仕事が辛くても簡単にはやめられないという考えは15年前よりも強い。
現在は、グローバル化で世界を相手に競争し、IT化で24時間対応という過剰サービスがやめられない状態にある。企業は人件費を抑えるため40%が非正規労働者で、慢性的な人員不足。1人あたりの業務量が膨大になっている。正社員は若手のうちから即戦力を求められ、真面目で優秀な人ほど重責がのしかかる。過労自殺した電通の高橋まつりさんもその一人だ。
加えて、「世代間ギャップ」が更なる足かせとなる。東レ経営研究所・研究部長の渥美由喜さんは、いまの管理職の問題点を「マネージメントを全然教わっていない。周りを振り回して当たり前で、俺に合わせろという働かせ方しかできない」と指摘する。
「本来は、仕事以外の個々の状況に目を配りながらやる気を引き出して、チーム力の最大化というマネージメントを学ばないといけない」
すべてではないだろうが、こうした管理職や経営トップが、逃げ道を知らない若者たちを追い込んでいるのだ。労働問題に詳しい川人博弁護士も、こう指摘していた。
「今は生き残るため、後ろ向きのモチベーションしか持てない精神状態で働いている」
そんな、いまの若者たちが置かれた厳しい状況を考えることなしに、「俺の時代はこうだった(だからオマエも頑張れ)」などと、軽々しく言ってはならないと感じる。