残業が減らない理由を”社員の努力不足”と決めつけ、精神論を突き付ける経営者。ブラック企業アナリストの新田龍さんに印象を聞くと「部下やアルバイトに精神論で叱責することは、飲食に限らず、一般にブラックと呼ばれる業界や企業で多くみられる」と指摘する。
そうした企業では以下のようなサイクルに陥っていることが多いという。
・報酬水準が低い、個人向け商売のために休みが不規則など労働環条件が悪い
・そのため、コーチングなどの精神論に頼らないコミュニケーションスキルを持った人が就職先に選ばない
・現場も多忙なので、相手が納得いくまで説明する時間的余裕がない
・結果的に精神論の指導に対しても素直かつ愚直に頑張れる従業員しか生き残れず、そういう人が出世している
また、こうした精神論によって、「長時間労働こそが美徳で、組織への貢献」「休むことは気合が足りず、周囲にも迷惑をかける行為」「考えるより行動すべき」といった価値観が企業に定着しがちだという。新田さんは
「これらが個人の信条に留まっているうちはまだ良いが、それが組織を縛る不文律のようになってしまうケースが多く見受けられる」
と指摘した。
経営陣がすべき改善策「事業の見直し」「仕事に集中できる環境整備」
残業削減を目指す大戸屋のように、生産性や業務効率を追い求める企業や店舗では「現場や個々の従業員の頑張りだけ」に期待してしまうケースは多い。しかし、そもそもの仕事量が変わらないのに「業務効率を上げろ」と上から言ったところで現場は疲弊するだけだ。
新田さんは、業務効率を上げるために管理職と経営陣が行うべきこととして、
・本業が今のままでいいのかを見直し、儲かる事業を志向する
・不要なタスクや無駄な作業を止め、価値を産む仕事に集中できる環境にする
という2点を挙げた。
大戸屋の持株会社である大戸屋ホールディングスが11月に発表した2019年9月中間決算では、上場以来初の赤字を記録した。労働環境だけでなく業績も厳しい、という状況だ。新田さんは、大戸屋の事業については「客単価」「回転数」「座席数」いずれもが中途半端とした上で、
「現状路線のままでは先行きは悲観的。大胆に方針転換し、『店内調理からセントラルキッチン方式にする』『高回転率の席割や自動化やセルフサービス化』などにまで踏み込む必要があるだろう」
と提言した。生産性の高い事業形態へシフトすることが、労働環境の改善にも繋がっていきそうだ。