キャリコネニュースが7月8日に配信した「『昭和時代にサラリーマンをやりたかった』に反発相次ぐ』」という記事がネット上で話題になった。昭和時代を「終身雇用で安定」「誰でも家と家族が持てた」「努力なしで商品が売れた」などと賛美し、夕方には帰宅して家族団らんで「普通に働いていれば、それだけでよかった」などとうらやむ投稿者に対して、反論が相次いだという内容だ。
同日夜の5ちゃんねるにスレッドが立ち、この話題に「終身雇用だろ。テキトーにやってても将来安泰だったからな」「女子は一般職しかなく30代で退職迫られる」など次々とコメントが書き込まれた。。(文:okei)
「ちゃんと雇わないから国内に還元できなくて歪になってる」
過去をうらやんでも始まらないが、いまに続く経緯を振り返ることで分かることもある。スレッドの書き込みには、記事と同じように「机でタバコが吸えた時代。酒が飲めて、麻雀ができないと生きていけない時代」など、今ではありえない文化を指摘する一方で、素直に昭和の好景気時代に憧れを抱く人も散見された。
しかしその反動か、”平成や令和の厳しさ”を揶揄するように書き込む人も相次いだ。
「終身雇用なのはいいな。今はバイト、派遣、契約が多すぎる。ちゃんと雇わないから国内に還元できなくて歪になってる」
などのほか、今の立場がどうあれ、「派遣がいなかったという点では間違いなく良かったと思うはず」など、小泉政権下で派遣法が改正され非正規雇用が増加したことが、不景気やいまの苦しみにつながっていると批判する人も多かった。
不安定な低賃金労働者が増えると、社会全体が沈んでいく
派遣について、「昭和でもいた」「いなかった」と議論になる場面もあったので整理すると、昭和時代にも派遣会社はあったが、労働者派遣は公には禁止されていた。それが1986年(昭和61年)に労働者派遣法が施行され、派遣が13の専門職にのみ解禁。その後段階的に業種が拡大され続け、小泉政権下の2004年には派遣が禁止されていた製造業も対象となり、事実上なんでもありになった。
2002年に43万人だった派遣社員数は、2007年には140万人に急増。2008年のリーマンショックの折に派遣切りが相次ぎ一時期減ったが、現在は143万人と再び増加している(総務省「労働力調査」より)。派遣解禁が、爆発的に非正規雇用が増えたことの一因であることは間違いない。
角川新書『人間使い捨て国家』(明石順平著)には、なぜ派遣労働が禁止されていたかの記述がある。派遣労働者は、企業にとっては労務管理不要でいらなくなったらすぐ切れる、派遣会社にとっては「本来労働者が全部もらえるはずの報酬からピンハネして儲かる」という。
著者は「損をするのは、いらなくなったらすぐ切られる上にピンハネのため給料が低くなる労働者」だとし、
「不安定な低賃金労働者が増えすぎてしまうと、消費が伸び悩み、結婚も減り、少子化が加速する。(中略)長い目で見ると社会全体が沈んでいく羽目になるのである」
と警鐘を鳴らし、経済界の利益を優先してきた自民党と財界を批判している。
もちろん望んで非正規雇用という人もいるが、氷河期世代をはじめ、不安定な雇用を続けて結婚や安定した生活が難しい人は少なくない。スレッドのコメントには、若い世代から”仕事ができない50代以上”に厳しい声も数多く入っていた。派遣法改悪のような政治を許してしまったのも昭和のサラリーマンであり、それに対して様々な思いが渦巻くのは無理もないことだ。