複数内定を持っている人は早く「辞退」の連絡を! 礼儀は二の次、とにかくスピード
コロナ禍の不況で企業が採用数を抑制し、就職活動をする新卒学生には厳しい「買い手市場」(企業側が強い市場)になると言われていました。ところがフタを開けてみると、企業はそれほど採用数を減らしていないようです。
3月にはパナソニックが「短期的な経営状況で大きく増減させない」として、昨年と同数の900名を採用すると発表。しかし学生の不安は払拭されず、コロナ前と比べて就職活動量が大幅に増えました。年平均10社程度だった一人あたりの受験社数が、今年は20~30社は当たり前という状況です。(人材研究所代表・曽和利光)
「今年の採用は楽勝」とはならない理由
この状況を企業側からみると「今年は受験者が増えたから採用は楽勝」と思えることでしょう。しかし、そう簡単にはいきません。就職をする学生の人数は、景気とは関係なく毎年ほぼ一定です。自社の応募者が増えたのは学生の絶対数が増えたからではなく、一人あたりの受験社数が増えただけのことです。
そして学生は、最終的には1社しか行くことができません。ところが、たくさん受けていれば複数内定を持つ学生も増えるため、結果として「辞退」もたくさんしなければならないというわけです。企業側はせっかく見つけた良い人材を逃さないように頑張らないと、どんどん辞退されてしまうでしょう。
せっかく内定が出た会社に辞退を伝えることは、学生にとっても辛いことです。特に今年は不安から始まった就職活動。最初に内定をくれた会社には、強く感謝の念を抱いたことでしょう。しかし、日系大手などの人気企業は比較的遅めに採用活動を開始することが多く、最初にもらった内定をそのまま受諾する学生は多くありません。
後の方で行われる第一志望の採用の決着がつくまでは、もらった内定を保持しながら受諾(入社確約)しない状態でいる人が多い。そして、第一志望企業に受かってしまえば、結局、先にもらった会社は辞退するのです。
中小企業には採用人数の余裕がない
初期に自分を評価して、内定を出し、安心を与えてくれた会社に対して、内定辞退の連絡をするのはとても辛いこと、苦しいことです(逆にそう考えない人は、もう少し感受性を高めてはどうかとさえ思います)。そのため、内心では辞退の意思が決まっていても、なかなか当の会社に言い出せない人が多いのです。
会社からの連絡もスルーして、音信不通になってしまう人もいます(この時点で採用担当者は辞退を予測しますが)。そうして、苦しんで苦しんで、しかし、連絡しないわけにもいかないので、どこかのタイミングでようやくメールなどで「辞退します」と連絡を入れることになります。
こういう学生の気持ちは痛いほどわかりますが、もし複数内定を持っている学生さんがこれを読んでいたら、お願いがあります。それは「もう辞退の意思が固まっているのであれば、可能な限り早く辞退連絡を入れてあげてほしい」ということです。
特に初期に内定をくれた企業が、採用数の少ない中小企業であればなおさらです。日本は99%が中小企業ですから、数人しか採らない企業がとても多い。しかも、人員計画は企業の利益に直結しているため、採用目標は絶対的で「一人ぐらい多くてもいいか」ということにはなりません。
どこかで別の学生が泣いている
そのため、中小企業は内定をたくさん出すことができず、一定数の内定を出したら、後はどれだけ良い人材が来ても、不合格にするところもあるのです。辞退をするつもりなのに、連絡を入れずに「とりあえず保持」している人がいたとすれば、その代わりに本当は入社できたかもしれない人が落とされてしまうわけです。
これは社会的にも会社にとっても、そして落とされた学生にとっても悲劇ですよね。こういうことを防ぐためにも、迷っているのであればともかく、そうでないなら一刻も早く内定辞退の連絡を入れましょう。内定は企業側からは基本的には取り消せないので、1社内定保持していれば安心ですから。
内定辞退を悩んでグズグズしている理由の一つに、「どうすれば相手に失礼のないように辞退の連絡ができるか?」という問題があります。礼儀正しい人であれば、確かにそう思っても致し方ないでしょう。この気持ちもわかります。
ただ、採用担当者の本音は一つだけです。「辞退をするのは仕方ないので、とにかく早く教えてほしい」です。礼儀は二の次です。「申し訳ございませんが内定を辞退させていただきます」という簡単なメールでもいいのです。そうすれば採用枠ができて、目の前で自社に入社したいと思ってくれている学生のための席が空くのです。
複数社の内定を長期間保持している学生をたまに見かけます。繰り返しますが、迷っているなら仕方ありません。しかし、そうでないのであれば、まだ内定をもらえていない就職活動に苦しんでいる学生のためにも、早く内定辞退の連絡を入れましょう。
【筆者プロフィール】曽和利光
組織人事コンサルタント。京都大学教育学部教育心理学科卒。リクルート人事部ゼネラルマネジャーを経てライフネット生命、オープンハウスと一貫として人事畑を進み、2011年に株式会社人材研究所を設立。著書に『コミュ障のための面接戦略 』 (星海社新書)、『組織論と行動科学から見た人と組織のマネジメントバイアス』(共著、ソシム)など。
■株式会社人材研究所ウェブサイト
http://jinzai-kenkyusho.co.jp/