「ベンチャー企業のゼネラリストとして生きていく」 悩みに悩んで40代からの再成長を選んだ元大手コンサル社員の話
入社するなら知名度のある大手企業か、それとも成長中のベンチャー企業か。就職先や転職先を考えるときに、誰もが通る選択肢だ。周囲からのすすめもあって、最終的に「やっぱり大手」となる人が多い中、自分の意思でベンチャーを選んで働きがいをつかんだ人がいる。
あるアラフォーの30代男性は、日系のSIerを経て大手外資系コンサルティングファームに転職。そこで出会った「働き方」から40代以降の自分のキャリアを見直し、新しい環境を選んだ。それはどういう考えに基づいていたのか、詳しく話を聞いた。(キャリコネ企業研究Resaco編集部)
「スペシャリストでは生きていけない」という判断
――これまでどういうキャリアを歩んできたのでしょうか。
新卒で日系SIerに入ってITインフラのセールスを10年ほどやった後、大手外資系コンサルティング会社に4年ほどいました。前職ではセールスとして入社したのですが、半年ほど経ったタイミングで「新しい事業本部を立ち上げる」ということで、上司からの誘いもあって異動しました。
そこから、セールスでもプロジェクトでもなく、新規事業を立ち上げる組織の運営側の一員として活動を始めました。ファイナンス(売上実績の分析、事業予測等)から、セールスの案件管理やグローバルへの報告、イベントの開催など、新しい事業と組織を立ち上げるための仕事は「何でもやる」経験をしました。
スタート時には小さな組織ということもあり、会議室を執務室に執行役員と同じ部屋で1年半近く働きました。プレッシャーもかなりありましたが、事業立ち上げに必要な戦略立案から、セールス、マーケティング、採用活動などを一から組み立て、形にしていく様子を間近で体感できたことは、貴重な財産となっています。
――いつの間にか、かなり畑違いの仕事になったのですね。
コンサル業界への転職自体もチャレンジでしたが、気づいたら想像もしていなかった仕事をしていました。痛感したのは、コンサルティングファームにおける数字、特にグローバルに報告する数字がいかに大事かということ。そして、経験のない仕事でもすぐにキャッチアップし、決められた業務や役割をやり切ることの大切さです。
――その後、転職されたのはどういう理由だったのでしょうか。
30代後半になって、40代からのキャリアをどうしようかとかなり悩んでいました。最後の1年はプロジェクトに入っていたこともあり、その領域のスペシャリストでいくのか、セールスに戻るのか、事業運営側にいくのか、どうしたらいいのかと。
悩んだ末に、自分はひとつの領域を追究するスペシャリストではなく、状況に合わせて物事を進めていくゼネラリストとしてのキャリアを突き詰めていこう、と考えました。そして会社のビジネスに近い距離で貢献でき、これまでの経験やスキルを活かせる環境でチャレンジしたい、と強く思うようになっていきました。
大切な役割を担える経験にやりがい感じる
――転職先はどのようにして知ったのですか。
キャリアについて以前から相談していた前職の先輩が、ベトナム最大手のソフトウェア企業が日本で立ち上げたコンサルティング会社、FPTコンサルティングジャパン(FCJ)という会社に転職していて、話を聞いたのがきっかけです。
そこで、FCJが事業を立ち上げるタイミングにあると聞いたことが、転職の決め手となりました。実際に入社してみると、なにも整備されていないことに驚くとともに、すごくやりがいを感じたのを覚えています。
なんでも自分たちでやらないといけない分、必要としてもらえる環境があることが嬉しかったですね。実際、入社した当日に会議に招集され、2日後にはお客様のところで提案を行っていました(笑い)。
――大手ファームへの転職も、選択肢にあったのではないですか。
ある技術領域でスペシャリストになれるのであれば、BIG4などの総合ファームへ転職する選択肢もあったのかもしれませんが、特定分野の知見や深みがない私のような特殊なキャリアでは戦っていけない、と冷静に分析して判断していました。
それに、次の40代をどう過ごしたいかと考えたときに、環境を大きく変えたいと思っていたので、次も大手だと「結局いまと何が変わるんだっけ?」というところがクリアになりませんでした。
――転職後のミッションは何ですか。
インフラやアプリケーションなどの運用保守を行うマネージドサービスというソリューションのセールスを担当しています。これはDX(デジタル・トランスフォーメーション)やSAP、Salesforceと並んで、FPTのグローバル全体のキープログラム(注力事業)となっている事業です。
DXなど上流コンサルティングのフィーは数ヶ月の案件で数千万円になるので、それなりに高額ではあります。しかし、マネージドサービスは5年や7年という長期の案件で、数十億円という大きなビジネスになります。
こういった領域をオフショアを活用して事業化するのが、私たちのチームのミッションです。1年後、2年後にビジネスをどう大きくしていくか、そのためにどういうチームを立ち上げるか、といったことを自分たちで考え、実行に移していくので、自分も事業の大切な役割を担う貴重な経験ができているところが、とてもやりがいを感じています。
もちろん、大手コンサルティングファームの方が、やりがいがあるという人もいるでしょう。でも私としては、まずは最前線に立たせてもらうチャンスがあり、自分の頑張りによってビジネスが拡大している実感を持てる環境の方が合っていると思います。
オフショアを使ったコスト競争力で大手に挑む
――クライアントは以前と違いがありますか。
BIG4などの総合ファームはコンサルタントの単価が高く、かなり規模の大きな案件しか受けなくなっており、いまの会社の方が幅広い案件を手掛けられます。ただし最近は、当社も大手を狙うようになり、「大手に依頼している開発や運用業務を、オフショアを活用してコスト削減しましょう」と提案して切り替えてもらうケースも出てきています。
お客様も昨今の厳しい状況の中で、そんなに高いところじゃなくていいんじゃないかと、徐々に気づき始めています。そういうお客様に対し、日本の中で閉じて行っていたやり方をオフショア側で業務が行えるプロセス、手順に整備していくことで、従来のコストを30%から60%削減できると提案し、大手の牙城を崩し始めているところです。
――御社が行う運用保守には、どのような特長があるのでしょうか。
少し前まで、日本企業のIT運用保守はSIerが行っているケースが大半で、ベンダーに任せきりでした。これに甘えたベンダーが、自社の社員を多めに投入したり、システムや業務をブラックボックス化して他社に移りにくくしていたケースがあったことも事実です。
このような運用をしていた会社が、いざコスト削減をしようとしても、身動きが取れません。そのような状況を打開すべく、当社では現状の運用業務をつまびらかにし、統一されたルールやプロセス、ツールを適用し、可視化や標準化を行います。
そのうえで改善策として、当社が得意なオフショア化に加えて、オペレーターの多能工化やチャットボット等を活用した自動化などにより、さらなる効率化を目指します。つまり単純な運用保守の移管ではなく、コスト削減などの改善提案も行うということです。
また、削減したコストを、新規ビジネスの立ち上げやDX推進など「攻めの投資」に回す提案もあわせて行います。投資予算の捻出に苦慮するお客様には、運用保守の見直しから入るようおすすめすることが多いです。
――運用保守の中にコンサルティングが組み込まれているのですね。
お客様に対する報告の仕方ひとつとっても、単純なレポートの中で、起こっている状況をきちんと分析し、次につながる示唆を出すことが可能ですし、新しい技術を取り入れることによりお客様の業務自体を変えていくこともできます。
コンサル業界の中で上流、下流といった言い方がありますが、どの工程においても考え方ひとつで取り組み方やその後の効果が大きく変わってきます。そういった観点でマネージドサービスにもっと注目が集まるといいなと思っています。
「何もないけど、みんなでやっていこう」という雰囲気が好き
――コンサルティングファームといえば欧米系が多い中、FPTグループはアジア系です。文化の違いを感じることはありますか。
オフィスの雰囲気が一番違います。前職のオフィスではほとんどが日本人でしたが、FPTジャパンでは東京オフィスで働く社員の9割弱がベトナムの方です。社内では英語やベトナム語が飛び交っているので、今の方がグローバルな会社に来た感覚があります。
社内の会議やチャットでは、基本的に日本語でコミュニケーションしてもらっていますが、オフショアとの会議などは英語やベトナム語が入り混じってきます。日本人メンバーは、トリリンガルのベトナムの方にサポートしてもらいながらディスカッションしています。
――どういうところにベトナムらしさを感じますか。
入社して1年経ちますが、ベトナムの方たちは「同じ会社の人は家族」という思いが強いように感じます。日本のオフィスで働くベトナムの方が特にそうなのか分からないのですが、一緒に働く人に対してとても親切で、とても温かみを感じます。
前職ではかなり殺伐とした弱肉強食の世界だったので、その反動かもしれません(笑い)。ここではみんながアットホームで、何か問題が起きても誰かを責めるのではなく、一緒にチャレンジして解決していこうという雰囲気が強いです。
他のファームから入社した人たちも、そういう雰囲気を何となく感じ取って、元にいた会社のピリッとした感じではなく「何もないけど、みんなでやっていこう」と協力してやっていく雰囲気が広がっており、入ってみてすごく好きだなと感じました。
一方で、ただ和気あいあいとしているだけでなく、ビジネスのスピードはとても速いです。アジャイルが基本の会社ですので、月単位やクォーター単位で組織が変わることは珍しくないですし、芽が出ないところはすぐに変えていきます。組織体やチームの役割も頻繁に変わるので、それに合わせて自分も適応していかないといけません。
自分も事業を担える役割を任されるようになりたい
――いまの会社のフェイズとしては、コンサルティングファーム出身の方に転職してきてもらいたい、という希望があったりするのでしょうか。
やはり、状況を分析して問題を構造化し、適切な戦略や対策を考えるといったコンサルワークにおいては、ファーム出身者に一日の長があるので、入社後すぐに活躍できると思いますね。とはいえ、会社にはゼネラリストとスペシャリストの両方が必要なので、いろんな方に来ていただきたいです。
コンサル未経験でも、技術領域として経験がある方であれば、仕事を通じてコンサル的なノウハウを身に着けられる環境ですし、技術的なスペシャリティは持っているけどコンサルワークに不慣れというSIer出身者でも一緒に働いていただければと思っています。
――今後のご自身のキャリアについて、どのように考えていますか。
入社する前は、自分のスキルが新しい環境で通用するのか不安でしたが、いまはセールスだけでなく、事業運営の仕事もやっていますし、プロジェクトに入ることもあります。幸い、いろんなところで必要とされ、ものすごいスピードでいろんな役割を担えるようになっているので、40代もさらに成長できそうな実感があります。
組織が小さいので、身近にいる経営層や事業をリードしている方々が、日々どういう考えでビジネスや会社を動かしているのか、肌身で感じることができます。この環境を活かして自分もその領域に近づき、いずれは事業を任されるポジションにいきたいと考えております。
そのようなポジションに就くためには、大手ファームではかなり時間を要することになります。しかしこの会社であれば、そこまで遠い未来じゃなくチャンスを与えてもらえると実感しているので、そのチャンスをつかめるよう、しっかりと経験を積んで、結果を残していきたいと思っています。