オンライン化がもたらしたのは採用のグローバル化 課題を乗り越えコマース事業の成長を加速させるのは「Value」の浸透
海外と日本の双方向に商品を提供するグローバルコマース事業をはじめ、複数のEコマース事業を手掛けるBEENOS株式会社。ITベンチャーとして1999年に創業し、インターネットの歴史とともに進化を遂げてきた同社は、グループ会社全体の方向性として「ネクスト・チャイナ」となり得るアジア圏に向けた展開を強化し、事業拡大に向け邁進する。
コロナ禍をはじめ環境変化が目まぐるしい今、同社の事業成長に必要となるのはどのような人材なのか。また、ポストコロナに向けて求められる採用戦略のあり方について、執行役員でCHROの宮坂英三さんに伺った。(取材・文:千葉郁美)
事業拡大に重要なミドルレイヤーの獲得が急務
――御社は長年ECサービスを提供され、海外と日本の双方向に展開するグローバルコマース事業を中核事業としてさまざまなECサービスを手掛けてこられました。新規事業のほかアジア圏でのサービス拡大など、さらなる事業の成長が期待されますが、事業戦略を実施していく上で重要な「人材」に対して、どのように取り組まれてきたのでしょうか。
当社はもともと、「ネットプライス」という社名で1999年に創業し、インターネット黎明期から国内ECサービスを手掛けてきました。事業成長とともに取り組んできた新規事業の一つとしてグローバルコマースに参入し、現在では当社の中核事業として事業拡大に向けて取り組んでいます。
ここ10年で事業領域や規模が大きくなりました。さらにコロナ禍によりEC業界全体が活況となり、事業の成長スピードが加速し、新規事業が積極的に立ち上がっていることもあり、人材不足を強く感じています。
社内から事業責任者などが複数名生まれるなど、人材育成の強みもある反面、課題としてはミドルレイヤー層の薄さが挙げられます。過去に新卒採用を積極的に行わなかったことも起因していますが、以前は即戦力を求めて5年間ほど少人数のキャリア採用しか行なっていませんでした。
事業の領域も規模も急拡大している現在、当社のことをよく知り事業を牽引していけるだけの経験や熱量を持ったミドルレイヤー、主に30代前半の世代が不足しているという状況です。
こうしたことから採用力強化は急務として取り組みを進めていまして、即戦力採用と新卒採用両方を実施し、事業のグローバル展開を踏まえて、採用もグローバルに行っています。また業務委託と合わせて副業人材を柔軟に取り入れていこうと考えています。
――過去に新卒採用をやってこなかったことが、現在の事業運営に少なからず影響しているのですね。ハイスキルな人材を必要とする場面も多いのではないかと想像しますが、人材の獲得に向けて、具体的にどのような取り組みを進めて行かれるのでしょうか。
求める人材を獲得するためには人事体制の強化だけではなく、事業サイドと人事サイドと連携を深めることが重要になると考えています。リモートワークでコミュニケーションが取りにくい環境でどうお互いが意思疎通を図るのかもありますし、グローバル人材の場合では価値観の違いや仕事の仕方の違いなど要件では提示できない部分で課題があります。これからさらに多様になっていくことを見据えて、求める人材に対する目線合わせやオンボーディングをどうやっていくかなど、今まで以上に重要度が高まっていますし難易度も上がってきていると感じています。
そうした課題に対しては、当社の指針である「Value」と連動させた人材要件への理解が重要と考え、取り組みを強化しています。我々が大切にするものを一度見直し、再定義するプロジェクトを昨年から走らせました。この共通認識をしっかりと浸透させていくために、マネジメント層に限らず従業員やこれから入社をしていただく方々まで、しっかりと理解と共感をいただけるようにしていきます。さらにマネジメント層の強化のために、経営陣・マネジメントに共通するポリシーを制定し公開しています。
また、世界で通用する採用体制を作るために、報酬関連でもストックオプションや従業員持ち株会等、通常の給与以外のものを充実させています。
人材育成とオンボーディングの課題
――御社の採用体制についてお聞かせいただけますか。
キャリア採用については、現場からの採用ニーズを人事部で受けて、現場とコミュニケーションを密に取りながらそれぞれの要望に沿った人材を求めています。
新卒採用を再開してから約5年間に入社頂いた新卒ビジネス・エンジニア職については、一定の成果が出てきたように感じています。反面、先にお話ししたとおりそれ以前は採用してこなかったという経緯があり、特に事業サイドでビジネス系の職種を中心に採用を実施しています。僕ら経営陣を含めてしっかり育てていく姿勢を示し、共感度を上げながら現場を巻き込んでいこうと取り組んでいます。
――人材育成についてはどのような取り組みをされていますか。
当社は目標を持って自分で考えて「やりたい」という人を抜擢して、出来る環境を与えていくことが得意な会社です。たとえば、ビジネスアイデアを役員に提案しビジネス化に挑戦する「ビジネスチャレンジ」という仕組みは、アルバイトや業務委託を含めた全従業員が参加できる取り組みです。これに通れば挑戦者が事業責任者となれます。
こうした、権限を持たせた中で経験し自ら考えて学ぶという風土があり、そこを超えてきたメンバーが結果的に事業責任者になっていたりするので、今後もそうした自立した人材を育てていきます。
人材育成の仕組みとして新入社員研修はすでにあるものの、ベースのスキル研修などはより充実させられるところがあるので順次設けています。もっと投資してもいい部分だと考えていますが、カリキュラムがあっても結局は本人達のやる気がなければ活用されないものになってしまうので使ってもらいやすく意味のある制度にすべく試行錯誤しています。
――さきほど事業部とオンボーディングについての目線合わせのお話がありましたが認識されている課題はどういったものですか。
やはりコミュニケーションの問題です。コロナ禍でリモートワークへ切り替わって、1年くらい経過した頃に「新しく入った人は、業務はできているが何かいまひとつピンときていない」というような、ズレが生じている状態を聞くようになりました。
対面であればちょっとした違和感があったらその場で相談して解決できたり、些細なことなら、例えば隣の人のモニターを覗き込んだりしてわかることがあったりします。受け入れ側にしても、対面であれば困っていることを察して声をかけてあげることができるわけですが、オンライン上だと「ちょっとしたこと」で話しかけるタイミングが起こりにくい。
結果的に業務の進み具合が遅くなってしまいます。こうしたことが起こらないようにするためにも組織を挙げてコミュニケーションやマネジメントの強化を進めていきたいと考えています。
オンライン化で海外在住の優秀な人材の確保が容易に
――ここ数年は、コロナ禍をはじめ環境変化が著しい中での採用活動だったかと思います。特に面接のオンライン化など選考方法の変化が大きいかと思いますが、こうした環境変化は御社にどのような影響がありましたか。
採用活動では、これまでよりもかなり遠方にいる方とも出会えるようになったので、結果的に採用枠が広がりました。海外からの面接もできますし、リモートで海外勤務をしてもらうこともできるようになりました。海外向けの事業の中で現地在住の優秀な人を採用できるようになったのは大きなメリットです。
――海外の人材まで裾野を広げることができると、母集団形成の幅が大きく変わりますね。グローバル人材を採用する上で課題感はありますか。
グローバル人材を現地採用するにあたっては、現地の労務関係や給与をどう払うか、といった個別対応が当然必要になってきます。とはいえ、優秀な人材を獲得するためには必要な投資だと認識した上でより体制を強化していきたいと思っています。
リモートワークにおけるコミュニケーションには課題感を拭えません。特に海外在住の方とリモートワークとなれば基本的に対面する機会がありませんから、マネジメントの難易度が相当上がります。ですので、人材要件として自立心のある方を求めています。
採用後についても、国内での採用も同じことですがオンボーディングや「Value」の浸透は今後も注力していかなければいけないと考えています。
事業内容と働く環境が変化する中、自立度の高い人材が求められる
――今後のグローバル展開や事業拡大に向けて、御社が必要とするのはどのような人材像なのでしょうか。
前提のプロ意識に対してよりシビアに向き合いつつ、組織のパーパスやミッション、バリューとマッチする「自立和尊」を体現できる方です。言われたことをやる、というのは誰もがやっていると思いますが、その中でもう一歩自分の意思で踏み込んでやれる人、やってきた人を採用していきたいという考えがあります。
大きな組織で同じ事業を長らくやってきましたので、体系化したカリキュラムやキャリアパスはあるものの、事業がどんどん変化しています。これまでのロールモデルを踏襲するのではなく「自分がロールモデルになる」くらいの気概がある方、自立度が高い方を採用していこうという方針に変わってきました。コロナを経て事業の成長が加速したことにより、ハイキャリア ハイレイヤー、次の経営層を獲得しようという気概も増えています。
コロナ禍によってマーケットとの関係も大きく変わり、働き方にも変化が生まれたことでより高い自立度を求められている。立ち位置においても多様性が広がっているので、自己主張ができることに加えて相手の言葉を聞く力も求められています。
リモート環境において、個人でパフォーマンスを発揮できる人とチーム力でパフォーマンスを上げる人には差が見えてきてしまいます。やはり他社との競争の中で事業を進めていくわけですので、スピード感を求めている以上は個人の力が重要です。
――最後に、今後の採用戦略についてお聞きします。コロナ禍が収束に向かい、少しずつ平時の生活を取り戻しつつありますが、昨今懸念されている課題は新型コロナに限らず地政学的問題や人材不足など幅広くあります。そんな先の読めない時代において、どのような採用戦略が必要だとお考えでしょうか。
人材獲得において、競争が激しくなっていくことは疑いようがありません。僕らが欲しい人材は他社が欲しがることは間違いありませんから、コストをかけながら採用活動を進めていくことが必至だと考えています。ただ、こうした採用の業務が未来永劫続いていくかというとそうではなく、事業が変わってくれば変化が起きると考えています。
繰り返しになりますが、人事体制を整えていくことは前提として、事業だけではなく採用もグローバルシフトを強化し、競争に打ち勝っていかなければなりません。
また、働き方が多様化していく中で、社員じゃない働き方も断然ありだと考えています。現在も業務委託の方に多く参画していただいていますが、パフォーマンスの高い方がたくさんいらっしゃいます。活躍されている方の中から社員になっていただくといったことがもっとスムーズに行えるようになるといいと思っています。
そして、ベースとして「Value」の浸透を実現です。全従業員の根っこに「Value」があるというところまで浸透させ、かつ溢れ出る状況を作り出すこと、今後当社への入社を志望される方にもしっかりと伝わる状態を作っていくことが、一番重要だと考えています。
【プロフィール】
宮坂 英三(みやさか・えいぞう)
執行役員 兼 CHRO(Chief Human Resources Officer)
1998年より大手アパレルメーカーにて海外ライセンスブランド業務を経験。その後大手コンサルティング会社にて人材育成・店舗運営のコンサルティング業務に従事。2005年より海外フィットネスチェーンの日本での事業立上げと店舗拡大を担う。
2008年当社に入社し、tenso株式会社の設立に参画。翌年、同社の取締役に就任。その後同社の成長を支え、越境EC領域における業界ナンバーワンへ導く。
2018年より当社社長室室長を兼務。2019年より上級執行役員として人事・広報・秘書部門を統括管理し、2022年、執行役員 兼 CHROに就任。