食の課題解決にビジネスで挑むオイシックス・ラ・大地 サステナブルな社会づくりを目指す「グリーンシフト戦略」とは
「Oisix」「らでぃっしゅぼーや」「大地を守る会」の3ブランドを展開するオイシックス・ラ・大地株式会社。有機栽培野菜など安全性と環境負荷軽減にこだわった食品のEC事業等を通じて、食にまつわる社会課題の解決に取り組んでいる。
創業当初から一貫してサステナブルな商品の提供にこだわる同社は、2020年11月に新たな経営戦略として「グリーンシフト戦略」を掲げた。この戦略は会社と社会にどのような影響を与えるのか。また、同社ではどのような人材が活躍しているのだろうか。グリーン戦略室の三輪千晴さんとHR本部の小川佐智江さんにお話を伺った。(聞き手・文:藤間紗花)
生活者の暮らしを変えうる「グリーンシフト戦略」
――御社では、環境への配慮を強く意識した「グリーンシフト」に取り組んでいるそうですが、具体的にはどういうものなのでしょうか。
三輪さん:当社は「これからの食卓、これからの畑」を企業理念として、豊かな地球の未来とともに、食の課題を解決していくことを目標としています。その取り組みの一環で、2020年11月に「サステナブルリテール(持続可能型小売業)」を目指して「グリーンシフト戦略」を策定し、5つの施策を掲げています。
1つめは、農業において多大に発生しているCO2排出を抑制すべく農業生産でのグリーン化を推進すること。2つめは、自社配送車のEV化など配送車のグリーンエネルギー実証実験を開始すること。3つめは最近話題の「脱プラスチック」などパッケージをよりグリーン化させることです。
そして、4つめはフードロス削減、5つめは「フードロスを価値に変える」ことです。この2つは、現在当社が特に注力している取り組みです。
――ミールキット「Kit Oisix」をはじめ御社のサービスに使い捨てパッケージは不可欠ですが、パッケージのグリーン化はどのように進めるのでしょうか。
三輪さん:ひと口にプラスチックといっても、実はさまざまな種類があります。これまで一般的に包材として使用されてきたプラスチックは、ポリエチレンなど石油由来の合成樹脂ですが、これを例えばサトウキビなどの植物を原料とした「生分解性プラスチック」に置き換えることで、環境負荷を減らす取り組みを行なっています。
ポリエチレンに比べコストがかかることもありますが、グリーンシフトを実現させるためには変えていかなければならない部分です。現在は、主力商品である「Kit Oisix」を中心に切り替えを進めている最中です。あわせて、プラスチック袋のサイズを小さくしたり薄くしたりしてプラスチックの使用量を減らす施策も進めています。
――フードロスについては、現在どのような取り組みをされているのでしょうか。
三輪さん:5つめの施策に挙げた「フードロスの価値化」という考え方をコンセプトにした「Upcycle by Oisix」というブランドを立ち上げています。アップサイクルとは「創造的再利用」とも呼ばれ、従来捨てられていたものに新たな付加価値をつけて生まれ変わらせることを指します。
例えば、冷凍のブロッコリーを作る際、これまで花蕾の部分を商品とし、茎の部分を廃棄していました。「Upcycle by Oisix」では、こうした従来廃棄していた未活用の食材に着目し、チップスに加工するなどの工夫をして販売しています。
――こうしたアイデアなどは、どの職種の方が生み出しているのでしょうか?
三輪さん:私が所属している「グリーン戦略室」の商品開発担当が主導しています。グリーン戦略室はグリーンシフト戦略の策定に合わせ、経営企画本部に「新規事業開発準備室」として設置されたのが始まりです。サステナブルな領域の新規事業により注力していくため、2023年春に現在の部署名に変更となりました。
当社には現在、3つのメインブランドがあるのですが、カーボンニュートラルやフードロスの削減、食のサステナブルを推進する活動を横串で行う部署となっています。グリーンシフト戦略に基づいた活動のほか、設定目標を全社員に向けて発信・周知していくのも私たちのミッションです。
――「グリーンシフト」を通じて、どのようなことを目指していますか?
三輪さん:フードロス削減の取り組みの効果は、1社だけでは大きくなりません。業界全体を巻き込み、他の企業様の力も借りることで世の中に大きなインパクトを与え、生活者のフードロスへの意識や行動を変える後押しをしたいと考えています。アップサイクル以外にも、生産プロセスにおけるCO2排出量を数字で確認する仕組みをつくり、お客様がサステナブルな意識で買い物ができるようにしていきたいとも考えています。
また、未来をつくっていくのは子どもたちですから、自ら行動できる意識づくりとして、小中学生向けの特別授業の実施や、学び場を提供する取り組みも本格的にやっていきたいと考えています。目標としては「当社の商品を使っていだくことで、普段の暮らしが自然とサステナブルになる」という人々を増やすことです。
新たな人材に求めるのは「コミュニケーション能力」と「変革を起こす力」
――新たな人材には、どのような方を求めているのでしょうか。
三輪さん:グリーンシフトを進めていくには、今までの事業活動をよりサステナブルに改善させることがとても重要になります。グリーン戦略室にジョインしていただく方としては、どんなに小さなことでもいいので、自分で何かを変えた経験や何かを世の中にアウトプットした経験をお持ちの方、新しい変革を起こしたいと考えている方が活躍していただけるのではないかと思っています。
――具体的に必要とされるのは、どのようなスキルですか?
三輪さん:「コミュニケーション能力」は重要です。当社にはひとつの部署だけで完結する仕事はほとんどありません。Oisixの販売ページを作る部署もあれば、どの商品をお客様にお届けするか検討する部署もあり、その2つの部署は必ず連携して業務を進めなくてはなりません。グリーン戦略室も同様に、脱プラスチックやフードロス削減等のさらなる成果を出すために、それらの部署と連携を取る必要があります。
もうひとつは「変革を起こす力」。当社にはもともとサステナブルの意識が高い社員が集まっているとは思うのですが、どのチームもメインミッションとして持っているわけではありません。そういった社員の立場になって配慮しつつも、サステナブル意識を底上げする推進力はとても重要だと考えています。
――現在、新卒採用とキャリア採用の比率はどのくらいですか?
小川さん:全体の2割から3割が新卒採用で、キャリア採用の方が多いです。キャリア採用では、企画やマーケティング、事業開発やレシピ開発、デザイナーやエンジニアなどの人材が活躍しています。いま特に採用を強化しているのは、企画・マーケ職とエンジニア職です。
世の中のDXが進む中で、エンジニアの獲得にはどの企業も苦戦していて当社も同様です。とはいえ当社は「食の社会課題をビジネスで解決する」というミッションを掲げる会社ですし、そこに共感していただける、魅力を感じてくださる方に向けて、きちんと情報発信することが重要だと考えています。
――新しいメンバーを受け入れる際に、工夫されていることはありますか?
三輪さん:私たちの部署では定期的に「合宿」と銘打って、通常業務から離れてグリーンシフトについての学びの機会とする日を設けています。その日だけは会社を離れて、ワークショップルームや地方の保養施設などで、チームみんなで未来について考え、語り合います。これによって、メンバーそれぞれへの理解も深まりますし、実行に移していく際にも目線を揃えて連携することができます。
サステナブル意識の高い人材が集まる理由
――サステナブルへの意識は、御社の採用基準のひとつになっているのでしょうか?
小川さん:いいえ、そこはマスト要件ではありません。しかし、当社に興味を持ってくださる方は、サステナブルへの関心度が高い方が多いです。「地球環境に配慮しなくても、おいしかったらそれでいい」という考えの社員はいないと思います。それはエンジニアも商品開発者も同じで、同じ理念・ミッションを見ているのは大前提かなと思っています。
――入社後にサステナブル意識を揃える取り組みなどはされていないのでしょうか?
小川さん:人事制度のひとつに、全社員必須で受けてもらう「畑の体感研修」があります。これはサステナブル意識の向上だけが目的ではなく、生産者さんの想いや食材の魅力を知ってもらう機会として設けているものでもあるのですが。
三輪さん:私も入社後にこの研修を受けて、カーボンニュートラルな生産に注力されている桃農家さんへ伺いました。剪定した桃の枝をバイオ炭にして農地に撒くことで、地中にCO2を固定する製法を実践している農家さんだったのですが、とても刺激を受けましたし、自分たちが届けている商品に誇りを持つこともできました。
こうした体験型研修や業務を通じ、当社のサービスを深く理解することによって、社員一人ひとりのサステナブルに関する知識はより深まり、感度も高まっていくのではないでしょうか。
三輪千晴(みわ・ちはる):オイシックス・ラ・大地株式会社 経営企画本部 グリーン戦略室 Upcycle by Oisix ブランドマネージャー。コンサルティング会社を経て、2020年入社。Kit Oisixの価格戦略などに携わった後、2021年より現グリーン戦略室で、全社のサステナブル推進、特にアップサイクル事業の戦略づくり、商品開発、マーケプロモーションを担当。
小川佐智江(おがわ・さちえ):オイシックス・ラ・大地株式会社 HR本部 人材スカウト室 採用広報セクション。食品卸業などを経て2017年入社し、採用人事としてキャリア採用・新卒採用すべての職種の採用に携わる。現在は採用広報をメインに新卒採用を兼務。