戦略投資で強い特許ポートフォリオの構築を。グローバルを舞台に挑む知財渉外の最前線
知財渉外部に所属し、M&Aや投資案件のデューデリジェンスに携わる林 悠子。オリンパスが企業変革を推進する中、グローバルなオペレーションのもと特許権に関わる契約・渉外業務の最前線に立ち、企業価値の向上に貢献してきました。これまでのキャリアで大切にしてきたこと、知財渉外の仕事への想いを語ります。【talentbookで読む】
知財渉外部門でM&A業務を担当。グローバルな視点で価値・リスク評価に取り組む
――所属する部署やそこでの仕事の内容について教えてください。
知財は大きくふたつの部門に分かれていて、ひとつが特許を出願する部署。もうひとつが訴訟など他社の特許権侵害に対する権利行使や他社から訴訟を起こされた場合の対応、そのほか契約、交渉業務などを担う部署です。
私はそのうちの後者、知財渉外部門に所属していて、中でもM&Aに関する業務に携わっています。企業買収や投資を実施する際のデューデリジェンス、すなわちターゲット企業を知財面から価値評価・リスク評価することが主な仕事。R&DやFinanceなど他部署と連携しながら、相手先の企業の特許や商標をはじめとするあらゆる知財資産を調査したり、他社特許を侵害していないかどうかなどのリスクを分析したりしています。また業務フェーズによっては、社外の弁護士と一緒に業務を行うことも。関連するメンバーはアメリカなど海外が中心です。
――どんなところに仕事の意義を感じていますか?
従来、知財部門は各地域の研究開発の一組織でしたが、2023年3月現在はグローバル法務部門の一部。競合他社への優位性、市場でのリーダーシップを維持し続けるべく、強力な知財ポートフォリオを構築することをめざし、グローバルな視点で知財活動に取り組んでいます。真のグローバル・メディカル・テクノロジーカンパニーへと飛躍しようとするオリンパスにとってきわめて重要な立ち位置にいると自負しており、大きなやりがいを感じています。
また、他社との連携や買収(M&A)といったインオーガニックな成長促進は、グローバルかつスピーディな事業成長の重要なファクターの1つです。このようなM&Aプロジェクトメンバーの一員として、知財渉外部門で行うリスク評価はミスが許されないため、取りこぼしがないよう細心の注意が求められます。重責を感じる反面、外の世界を知る中で経済や業界のダイナミズムのようなものが感じられるところにも、この仕事の醍醐味があると思っています。
開発職として入社した後、知的財産部を経て知財渉外部へ
――開発職として入社後、どういった経緯で知財の仕事に携わるようになったのですか?
最初に所属していた部門では、生化学血液検査機器の開発を担当していました。開発部門では担当知財のメンバーと一緒に働いていたので、当時から知財にはなじみがあったんです。知財業務に興味がある旨を知財の方に伝えたところ、すぐに誘ってもらえて。社内公募制度を利用して知的財産部へ異動しました。
異動後は、大学で学んだ生命科学の知識も活かしながら、血液検査機器、バイオ系ライフサイエンス事業の知財活動に3年ほど、バイオ系テーマのほかスコープをはじめとする開発テーマの出願戦略活動、特許クリアランス活動などに6年ほど関わりました。
知財と言うと法学系のような印象を受けますが、実際は技術を知らないと務まらないため、ほぼ全員が理系。知財や特許については開発の人も学ぶべきとされるなど、開発とはまったく畑違いというわけではないんです。必要な知識はOJTをベースに身につけていきましたが、私がなりたいと思っていたのは、知財の窓口ではなく知財の専門家。業務外でも懸命に勉強して弁理士の資格を取得しました。
――知財渉外部への異動の経緯は?また、知的財産部と知財渉外部の業務の違いについても教えてください。
新製品の開発にともなう特許出願に約10年携わったところで、仕事の幅を広げたいと思うようになり、当時の部長の後押しもあって2015年に知財渉外部に異動しました。
知的財産部では担当する開発部門に合わせて特許活動をしていましたが、知財渉外部では全社が管轄。社内のあらゆるところから上がってくる知財訴訟や契約マター、ライセンスマターなどをすべて担当します。そのため、プロジェクトにアサインされるたびに製品開発の背景やユーザーであるドクター、製品が使われる病院や共同研究先の大学などの施設について学んだ上で、ライセンス交渉したり、契約をレビューしたり。
また、知財ではアメリカ、日本、ヨーロッパ、中国などの法律や制度を学びます。さらに、知財渉外部では出願に関する判例だけでなく権利行使などの判例にも通じていなくてはいけません。社外の関係者も変わります。たとえば、知的財産部では国内の特許事務所と関わることが多いのですが、知財渉外部が連携するのはアメリカの弁護士。異動後、英語ベースでのやりとりが格段に増えました。
コミュニケーションがボーダーレス化したことでアウトプットの品質が向上
――企業変革プラン“Transform Olympus”の推進によって働き方はどう変化しましたか?
以前はすべてのやりとりがメールベース。リアルタイムのコミュニケーションは朝の電話会議くらいでした。ところが、2019年に企業変革プラン“Transform Olympus”がはじまって以降、コロナ禍の影響もあり、Teamsが社内の標準的なコミュニケーションツールになって、24時間ずっと世界とつながっている感覚があります。海外のメンバーとは常時チャットしていて、Teamsによる電話や会議が突如として始まることも少なくありません。
時差を考慮して、自律的に働く時間を設定して、スムーズに業務が進行するようにしています。かつては“日本vs外国”という感覚がありましたが、いまはどの国の人と話しているのかさえわからないときがあるほど、国境がなくなったと感じています。
それにともなってコミュニケーションの取り方、働き方も大きく変わりました。たとえば、日本語で話す内容をそのまま英語にするだけでは相手に通じません。議論の背景にあることからきちんと説明するなど、海外のメンバーの話し方を観察して取り入れることから始める必要がありました。
一方、海外ではフランクで効率的なコミュニケーションが好まれるため、チャットでの軽い会話を通じてプロジェクトをスピーディーに進められるようになりました。事前に資料をつくり込んだり、会議の前に根回したりすることに時間をかける割合が減り、仕事がしやすくなったと感じています。もともと私は海外で挑戦したいと思っていたので、日本で働きながら、そうやって海外のメンバーとやり取りすること自体も楽しいですね。
――具体的な業務プロセスについて教えてください。
たとえば、アメリカの弁護士とやりとりした後、先方が寝ているあいだに日本のチームで資料に手を加えたり、国内の弁理士にコンタクトし評価を依頼したりして、目を覚ます前に成果を送付。その後またディスカッションして就寝し、日本の深夜帯に開催されるミーティングで上がった話題を翌朝に共有してもらってまた作戦を考えるという具合に、24時間をフルに使った働き方をしています。
国単位で別々に行動していたときは、たとえばOCA(Olympus Corporation of the Americas)サイドが何をやっているのか、こちらからまったく見えないことがありました。ダイレクトにコミュニケーションできるようになってからはアセスメントの精度が向上し、良いアウトプットにつながっていると感じています。
アメリカ駐在へ。対面によるコミュニケーションによって信頼関係の構築を
――今後の展望を聞かせてください。
ビジネス、マーケティングなど他部門ともダイレクトにコミュニケーションを取っていきたいと考えています。見せ方も含め彼ら、彼女らがどんな情報を求めているかがもっと理解できれば、期待に沿ったアウトプットを提供してこれまで以上に役に立てると考えているからです。
近々アメリカ駐在を予定しているのもそのため。海外のメンバーとのやりとりでは、表現が直接的すぎたり、あるいは逆に消極的すぎたりするなど、 オンラインではとくに情報伝達不足によるコミュニケーションエラーが発生しやすいと感じています。対面によるコミュニケーションを深めることができれば、もっとお互いのことを理解して信頼関係を築いたり、より人間らしい付き合いができたりするのではないかと考えています。
――林さんと同じように働く女性にメッセージをいただけますか?
子どもがいるために海外駐在をあきらめる女性は多いと思いますが、私は家族とともに駐在をすることを決めました。新たな環境に不安が一切ないわけではありませんが、幼いうちから世界が見られることは子どもにとってもメリット。グローバル化が進む社会の中でのびのび生きていけるための教育機会をつくってあげられたらと思っています。
海外に行きたいと考えている女性に伝えたいのは、その意志を根気強く伝え続けることが大切だということ。同期の男性社員が入社1年目に海外赴任した際、「私も行きたい」と上司に伝えたところ、女性であることを理由に退けられたことがありました。もはやそんな時代ではありませんし、とくにいまは世界がめまぐるしく変化しています。できるだけ早く行動してほしいと思います。