JR西日本発、新たな価値を生み出すデジタル企業「TRAILBLAZER(トレイルブレイザー)」発足(前編) | キャリコネニュース
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JR西日本発、新たな価値を生み出すデジタル企業「TRAILBLAZER(トレイルブレイザー)」発足(前編)

JR西日本グループでは、将来にわたって価値を創造することをめざし、重点戦略のひとつに「デジタル戦略による多様なサービスの展開」を掲げています。前編(本記事)ではこれまでの歩みを、後編では高度デジタル人財の活躍を促すために設立した新会社の全容を、TRAILBLAZER(トレイルブレイザー)で代表取締役社長を務める奥田と取締役の宮崎が語ります。【talentbookで読む】

【動画公開中】JR西日本発 新たな価値を生み出すデジタル企業発足TRAILBLAZERって何!?

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YouTubeでは奥田と宮崎がJR西日本グループのこれまでの取り組みや展望について紹介していますので、ぜひご覧ください。

ここからは動画でお伝えしきれなかった内容も含め、JR西日本グループのデジタル戦略についてくわしくお伝えします。

アフターコロナの世界を描く、JR西日本のデジタル戦略

──今回はJR西日本のデジタル戦略を主導するおふたりにお話をお聞きします。これまでどのような取り組みをされてきたか教えていただけますでしょうか?

奥田: 2020年の10月にJR西日本グループとしてデジタル戦略を打ち出し、その1カ月後にデジタルソリューション本部を立ち上げました。お客様と鉄道の接点を変えていくアプリの開発や、鉄道の運営管理において熟練が必要だった属人的な業務を、先端技術を用いて受け継ぎやすいものにしていくなど、鉄道とテクノロジーを掛け合わせるプロジェクトを推進しています。

取り組みをはじめたきっかけとなったのは、新型コロナウイルス感染症の流行でした。それまでの30年来、JR西日本は順調に成長してきたのですが、コロナ渦で人の移動や消費が減り、鉄道や周辺事業に対する需要が一気に減少したとき、社長の長谷川から「コロナ後の新しい世界に向けたJR西日本グループの姿を描け」という指示が出たのです。

社内から人材を集めて、どのような戦略を打ち出すべきか3カ月ほど検討を進めました。リモートワークやデジタル空間での消費活動など、コロナ渦をきっかけに広まりはじめた新しい生活様式は、アフターコロナでも継続するということを前提に、どう会社を立て直していくかを議論していったのです。

──鉄道会社としてはかなり大きな舵取りだったのではないでしょうか?

奥田:そうですね。ただ、コロナ渦となる2年ほど前から技術ビジョンというロードマップを敷いていました。こうした検討がなければ、デジタル戦略をたった3カ月で打ち出すのは難しかったでしょう。

技術ビジョンの成果として、特に重要だったのが、宮崎たちが主導するデータアナリティクスのチームを組織していたことです。当時からデータを利活用して仕事を改革していくことをミッションとしていました。データアナリティクスのチームを迎えたことで何とかプロジェクトのスタートを切ることができたのです。

──当時のデータアナリティクスのチームにはどれだけのメンバーがいたのでしょうか?

宮崎:当時は私を含めて4人しかデータサイエンティストがいませんでした。まずやってみようということで細々とはじまった組織だったのです。それがコロナ渦によって立ち位置が大きく変わりました。ともすれば反乱軍のように見られていた組織が正規軍に昇格したようなイメージですね。

奥田:私が所属していたMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)の検討チームと宮崎のチームが一緒になってデジタルソリューション本部が立ち上がったのです。当初は40人もいないチームでしたが、今では220人を超えるほどに拡大しました。

未来を想像し、オンラインとオフラインを融合させる

──組織の拡大は、具体的な成果があってこそのことだと思います。どういった事例を創出されてきたのでしょうか?

奥田:はじめに取り組んだのは、従来のお客様との接点を増やすためのアプリ開発でした。これまでのわれわれの事業といえば、鉄道を走らせ、駅や線路の周辺にビルを建て、ショッピングセンターやホテルを営むといったように、リアルな鉄道を中心とした街づくりを行うこと。これをデジタル空間にも広げていこうとする試みですね。

奥田:たとえば、移動生活ナビアプリ「WESTER(ウエスター)」は、JR西日本のサービスをご利用いただくごとにポイントを付与するための会員サービス機能を担っています。

tabiwa by WESTER」は、JR西日本エリアの旅行スポット情報や経路情報を得られる観光ナビアプリです。鉄道・バスなどが乗り放題の周遊パスや観光・グルメのチケットの購入ができるなど、旅に必要なサービスを詰めました。

リアルなサービスだけだと、来ていただいたときにしかお客様とつながることができません。しかし、アプリをインストールいただければ、24時間365日つながることができるのです。お客様からお預かりした大切なデータは、新しいサービス開発に活かしています。デジタルの力で、リアルのサービス開発力とマーケティング力の双方を高めてきたわけです。

──オンラインとオフラインをうまく融合させることで、実績を出してきたのですね。やはり時代の流れがそこに向かっていると考えてのことでしょうか?

奥田:そうとも言えますが、少しだけ考え方が異なります。社長から指令を受けたときに、何よりも意識したのが、わからない未来に対してわかったふりをしないことでした。わかったふりをすることで誤った戦略を取りかねません。一方で、わからないまま前に進んでも仕方がない。そこで、いくつかのパターンに分けて未来を想像したのです。

リアルの世界は、都心への一局集中が進んでいくのか、分散型の社会になっていくのか。あるいは余暇時間の消費はリアルに回帰するのか、このままデジタルに向かうのか。

いくつか観測の軸をつくったうえで、世の中がどちらに変わっていくのか注視し、戦略・戦術を変えていく必要があるというプレゼンをしたのです。

もちろん、そうした中でデジタルがさらに進化・普及することはもはや変わることのない事実。だからこそデジタル戦略を会社の中心軸に置くということは、社長とも認識を一致させたところです。

会社にとっては大きな方針転換でしたから、デジタルを活用していくという姿勢を社内に浸透させるためにも、社長がデジタルソリューション本部の本部長を兼務する形となりました。まさに大号令のもとで進めているところですね。

データを活かして顧客体験をより良くしていく

──アプリのリリースも終えて、少しずつJR西日本の事業にデジタルが浸透してきていることを実感し始めているのではないでしょうか?

宮崎:まさにそうですね。ただ、「われわれは後発だ」という意識を持ってアプリを開発したからこそ、成果が見え始めているのだと思います。

たとえば鉄道の経路検索アプリは真新しいものではありません。すでにいくつもの会社が提供しています。そこに対して同じ機能だけで勝負を仕掛けても、後発であるわれわれに分はないでしょう。ポイント機能を加えた移動生活ナビアプリとしたのもそうした背景がありました。

もちろんリリースしただけでは意味がありません。大事なのは顧客体験です。押し付けではなく、データから見えてくる顧客の利用動向を読み解き、今一歩惜しいと思われているような機能を、顧客が望む形に寄せていく。その繰り返しによって、われわれのアイデアは良かったのか悪かったのか、操作性をどう感じてもらえているか、宣伝の仕方はどうだったかという結果が数字に現れてきます。それこそデジタルの良さです。

今後ともアプリから得られるデータをもとに、なるべく勝率の高い仮説を立てて改善のサイクルを回していきたいですね。

──世の中にはさまざまなポイントサービスがあります。鉄道会社があえてポイントアプリをつくる背景には、信念のようなものもあるのでしょうか?

奥田:正直に言えば従来の事業への反省があります。これまでもショッピングセンターやホテル、コンビニなど複数の事業を展開する中で相乗効果を狙ってはいたのですが、会員サービスに関してはバラバラになっていたのです。ホテルは宿泊者のデータを、ショッピングセンターは買い物客のデータを個別に持っていました。

ただ、われわれの各事業のお客様は共通しているはずです。あるお客様が、われわれの電車に乗ってやってきて、われわれが経営するコンビニで食べ物を買い、その足でショッピングセンターに行き服を買う。各事業が個別にデータを収集していたのでは、そうした一連の流れが見えてこないのです。

コロナ渦で減った移動需要や消費活動を、今度は自分たちの手で上向かせていかなければいけないという状況となり、お客様の行動をこれまで以上につぶさに把握することの重要性を再認識しました。

ポイントアプリはそうした前提において、お客様の会員情報、つまりはIDをひとつに統合することを狙ったものでした。だからこそ、宮崎が言ったように、アプリを作っただけで終わりにしてはいけないのです。アプリを育て、新しい需要創出につなげていかなくてはなりません。

「IDの共通化」が新しい価値につながる

──これまで独立していたサービスをデータで連動させることで利便性を高めていくというのは、お客様の側にも立った施策だと感じます。しかし、決して簡単なことではありません。アプリをリリースするまでにはかなりの苦労があったのではないでしょうか?

宮崎:もちろんいろんな面で苦労がありました。とくに、はじめてグループ各社のデータを統合するときは、グループ間の調整にも技術的にも苦労しました。まだ成功体験を生み出せていないからこそ、データを統合して活用するイメージをうまく伝えることができず、なかなか賛同を得られなかったのです。いざデータを統合するというフェーズに移行しても、データの管理の仕方が違いますから、共通化させるだけで一苦労でした。

ただ、次第に成果が出てくることで賛同するグループ会社は確実に増えていきました。プロジェクトを進める中で、いわゆる鉄道会社らしい保守的な風土を壊してきたという実感がありますね。

奥田:まさにこうした苦労があったのは、ポイントの共通化ではなく、IDの共通化こそプロジェクトの本願だったからです。グループ各社にとって大事なデータだから慎重にならざるを得ない。そうであればこそ、魅力的な成果を見せることが、巻き込んでいく上で重要なのです。

ひとつ例を出すと、WESTERにも搭載した「マイグル」というAIを活用したスタンプラリーサービスは、社内に賛同者を増やす起爆剤となりました。

マイグルは、お客様自身が自分の趣向に合わせてスタンプラリーにおいてスタンプの台紙を作成できるサービスです。通常のスタンプラリーだと行きたくもない店に行かなくてはいけなかったりしますが、マイグルの場合はそうしたことがありません。

WESTERでマイグルをテスト利用してみたとき、スタンプラリーに参加していただいたお客様は、スタンプラリーに参加していない方に比べて圧倒的に買い物の回数が増えたのです。しかもスタンプラリーに参加したお客様は、キャンペーン後も引き続き買い物の回数が多くなるという傾向が観測できました。

こうしたデータが「納得感」につながるのです。一つひとつ地道に成果を積み重ねたからこそ、ここまでやって来られたのだと思います。

後編はこちら

※ 記載内容は2023年10月時点のものです

株式会社TRAILBLAZER

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