「転んでも、ただでは終わらせない」 ──デンソーの社外研修トレーニーでの学び | キャリコネニュース
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「転んでも、ただでは終わらせない」 ──デンソーの社外研修トレーニーでの学び

▲社外修行トレーニー出向先で語る林 聡一朗

若手社員のキャリア育成の一環として、外部の企業に一定期間出向し、まったく異なる業務を経験する社外修行トレーニー制度。林 聡一朗は、モノづくりを軸としたデンソーの新規事業創出という夢を叶えるため、スキルアップを目的として同制度に志願しました。社外を経験したからこそ得られた自らの成長を語ります。【talentbookで読む】

モノづくりを通じて、“人を感動させるコトづくり”をめざす

2018年にデンソーに入社した林は、パワトレイン機器技術2部(現:メカトロニクスシステム開発部)に配属され、電動クラッチのアクチュエーター開発に携わることになりました。大学時代は化学を専攻していたため、機械設計はまったくの未経験。それでもモノづくりの道を志したのは、“人を感動させるコトづくりに携わる”という人生のテーマを追求する上で正しい道だと信じたからでした。そうした想いの原体験は学生時代に打ち込んだ「よさこい」にあったと言います。

林:約150名にも上る大きなチームのリーダーを務め、全国を飛び回りました。それぞれのチームが、それぞれの地域の魅力を題材に演舞を作り上げ、自分たちの踊りを通じて人々を感動させる。そんな、よさこいの文化には、何の変哲もない一人ひとりの人間を、街や世界を盛り上げる表現者に豹変させる“うねり”があります。私は、よさこいを通じて多くの人の人生に関わり、影響を与えてきたと思っています。

社会人になっても、同じように仲間と情熱を共有し、“人を感動させるコトづくり”に取り組んでいきたいと考え、就職活動をしていました。

就職活動を進めるにあたり、あらためて自分の好きなことを振り返ったと言います。

林:私は、いろいろなモノに凝縮されている作り手の想いやメッセージに感動することが多く、人が携わるからこそ価値が出るモノづくりに興味があるんだと感じました。そして、それを実現できる会社を探し続ける中でデンソーに行き着いたんです。

そんな林にとって、入社3年目で任された新規事業を立ち上げるというミッション。思い描いていたやりがいのある業務に携わることができ、毎日、充実した日々を送ることができていたと言います。

林:自動車業界が大きく変化する中で、アクチュエーター開発で培った技術を生かした新事業の考案を任された時は、自分がやりたいことと会社からのミッションが重なり、気持ちは高まりましたね。

しかし、やっと、自分の想いが形になりそうだと手ごたえを感じはじめた時に、量産設計品の品質対応業務担当に異動が命じられ、“前に進める”業務から、“守る業務”に変わります。

“なぜ自分が変わらなければいけないんだ”とモヤモヤを抱えながら過ごしたと言います。

林:自分のやりたいこととのギャップにモチベーションが低下し、思い描くような働き方ができない日々が続きました。そのせいなのか、トラブルが立て続くようになり、対応に追われる日が続いたんです。

しかし、この業務担当が、林の転機になりました。

林:トラブルの対応をする中で、われわれの立ち上げる製品の量産工程に関わる取引先や関係各社が、想像よりも多いことを初めて目の当たりにしました。しかも、取引先の皆さんは、デンソーの設計者からの難しい依頼に対しても、迅速に責任感を持って熱心に寄り添い、協力してくれたんです。

サプライチェーン全体でワンチームになれることはもちろん、製品をひとつ作る上で、こんなにもたくさんの人を巻き込んでいるのだと実感したと話す林。自分のやりたいことや先のことを考えているばかりで、モノをつくる“現実”を何も知らなかったことに気づかされました。

そして、これだけの取引先や関係各社とのつながりや、デンソーの技術者がいるからこそ、社会に影響力のあるモノやコトを創出できるだろうと確信を深め、より一層の成長を志望するようになります。そんな林が目をつけたのが、外部の企業で経験を積む“社外修行トレーニー”です。

製造業コンサルティング会社に修行へ。実践的な経験を積む1年間

▲林が社外修行トレーニー先でお世話になっているオーツー・パートナーズの勝見氏(右)

デンソーの社外修行トレーニーは“異業種での経験を積む”というコンセプトをもとに、ベンチャーキャピタルやデータサイエンス、ロボティクスなどさまざまな業種の会社が候補として挙げられています。

林:自分がこの先、新しいビジネスを作り上げる力を身につけるためには、複数のビジネスモデルを学びたいという想いと、自分が直接関わることができない範囲の仕事を知る必要があると思っていました。その考えの中で、多くの顧客のビジネス課題に携われるコンサルティング会社は、私に非常にマッチしていると感じたのです。人事部からも「ぜひ顧客目線を学んでほしい」と言われたことも後押しになりましたね。

林の社外修行先となった株式会社オーツー・パートナーズは、製造業に特化したコンサルティング会社。「口も出しますが、手も出します」をモットーに、長年外部の企業からエンジニアを受け入れ、コンサルタントとして育成する支援を続けています。取締役の勝見 靖英は、デンソーに戻ってからも“活きる体験”を持ち帰ってもらうことを重視したと語ります。

勝見:コンサルならではの資料の作り方などを徹底的に伝授することもできますが、それでは、たった1年の出向期間がすぐに終わってしまいます。本人としても「何を学びに来たのか」とやりがいをなくしてしまうでしょう。

だからこそスキルがなくても現場に出てもらい、リアルな製造業のコンサルティングに挑戦してもらいたかったのです。1年の間に当社で価値が発揮できなかったとしても、デンソーに帰った後に、ここでの経験を思い返して役立ててもらえるような体験をしてもらいたいと考えました。

勝見の言葉どおり、林は実践的なプロジェクトにアサインされました。ひとつは、とある中小製造企業の生産効率をアップさせるもの。もうひとつは、大手上場企業が子会社を作って新事業を始めるにあたって、その組織戦略や製造体制の構築を助けるというもの。

林は、どのようにしたらお客様に納得のいくものを提供でき貢献できるのか。最大限支援するとはどういうことなのかを考える日々が続きました。

社外に出たからこそ学べる物事の考え方

出向先で日々得難い経験を積んでいった林ですが、とくに大きな学びを得たのは、ある事件だったのではないかと林の上司になったオーツー・パートナーズの河崎 雄介は言います。

河崎:私と林さんのふたりで担当したある案件は、別のコンサルティング会社との共同プロジェクトでした。そこで林さんは、もうひとつのコンサルティング会社のメンバーからきつめの注意を受けたんです。

その人が林に指摘したのは、コンサルタントとしての姿勢でした。たとえば、ひとりのコンサルタントがお客様に対してある提言をしたときに、同じチームのコンサルタントがまったく異なる意見を言えばお客様は混乱してしまいます。また、お客様のお悩みに対して答えを返すのではなく、「どうしたら良いでしょうね」と一緒に悩むようなことを、プロのコンサルタントは決してしてはいけないと言うのです。

▲出向中の林について語るオーツー・パートナーズの河崎氏(左)

林:私としてはお客様の感情に寄り添おうという気持ちで返していた言葉が、コンサルタントの暗黙の了解を侵してしまっていたんです。私なりに考えた上での発言でもあったため、当初は理解が追いつかず、自分の頑固な性格もあって、正直に言えば腑に落ちませんでした。

しかしその日の帰りに、なぜ注意されたのか、その理由やコンサルタントのあり方を納得行くまで河崎に教えられた林。自分自身の行いをあらため、求められる役割を意識して過ごすようになります。そして、どんなに些細なことも如実に汲み取り、お客様の役に立って価値を生みだすプロ意識が養われたと言います。

林:反射的に返答を返すのではなく、しっかりと相手の話を聞き、言葉を整理しながら発言をするようにしていきました。自分の考えや進め方に問題がないか先輩にアドバイスも求めることで、思考が深くなり、少しずつ仕事の質が向上している実感がありました。

オーツー・パートナーズでの経験は、林のスキルのみならず、仕事へのスタンスにも影響を与えます。

林:とくに収穫だと感じるのは、効率的に早く仕事を進めることが必ずしも正しいわけではないということです。たとえばコンサルタントとしてお客様向けに提案を準備するにしても、必要なデータだけでなく周辺のデータも網羅的に探索し、資料についても非常に細部までこだわり抜く。

当初はコスパが悪いなと思っていたのですが、結果的にお客様にとって使いやすい資料やデータが揃うのです。一見無駄で、大変で、キリがないように見える作業が大事な時もある。細部へのこだわりの積み重ねが、お客様の信頼を獲得することにもつながると先輩の背中を見て学びました。

そして、自分たちが生み出すアウトプットにどんな「価値」があるのか、お客様にとって本当の「価値」は何か?ということを考えてから仕事できるようになったというのは大きな収穫でした。

挑戦を恐れず、よさこいの“うねり”で成長し続ける

オーツー・パートナーズで一回り大きく成長した林。しかし、それらは決して与えられたものではなく、林が本気で打ち込んだからこそ得られたものでした。

林:あれからも、私としては深く考えたつもりの意見でも、激しく打ち返される経験を何度となくしました。苦しさを感じる中で役立ったのは、3年前から始めた日記をつける習慣です。1日のうちに起きたことを言語化し、何を学んだのかを振り返っています。たった1日でも“何もなかった”という日を作りたくないんです。

転んでも、ただでは終わらせない──。

そんな想いで経験をリフレーミングしていくことが、私の強みだと思っています。

多くの学びを生かし、林がデンソーで挑みたいと考えるのは、やはり新規事業の立ち上げです。

林:当初からの目標の通り、モノづくりを通じて、“人を感動させるコトづくり”をめざします。そのために、新規事業の立ち上げに取り組み、事業部の強みを生かした新しい収益モデルを検討し、デンソーだからできる世界に必要不可欠な事業を事業部横断で構築していくことが夢です。

以前、新規事業の立ち上げに取り組んだときは、関わる物事や関係者を知らずに、狭い視野でしか提案ができていなかったのではないかと振り返っています。これからは外に出た経験を糧に、デンソーが持つ資本力や多様な人材を活かして、大きな影響力で新たな可能性を探っていきたいと思います。

そして、社外修行トレーニー制度での経験を通じて、自らのある特性に気づくことができました。

林:もともと大学時代の後輩の就活を支援したり、部内のメンバーのメンタリングをしたりと人を支えることに自然と精力を傾けてきました。コンサルティングの経験を経て、それは人がありたいと思う姿に一歩でも近づけるようフォローすることだと気づきました。

そして、デンソーにいるからこそ、お客様や世の中に対して同じようなフォローアップができると感じているんです。世の中が望む姿に少しでも近づいていくためのサポートにこそ、私の熱が注がれていくのだろうと予感しています。

デンソーへ戻る期日がいよいよ間近に迫りました。出向することで、社内のキャリア形成にはかえってマイナスではないかという見方もある中で、林はむしろ自らのキャリアに自信を深めています。

林:われわれの生み出す価値を逆算して仕事ができるようになったというのは大きな経験です。こうした考え方を身につけられただけでも、一歩も二歩も前に進んでいる感覚があります。

自らの現状を良しとせず、キャリアの突破口を社外に求め、高いスキルと強いモチベーションを携えて帰ってくるであろう林は、打ち返されても、そのエネルギーを自らのパワーに変えて進んでいく──そんな仕事への向き合い方は、彼が長年打ち込んできた「よさこい」の“うねり”に似ています。これからは、この“うねり”の先頭に立つに違いありません。

▲夜宵の代表を務め「祈織(いのり)」を舞踊する林

実際の演舞はこちらをご覧ください。

※ 再生ボタンを押すと音が出ますのでご注意ください

※ 記載内容は2023年9月時点のものです

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