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DXで持続性のある地域へ。ヒト・モノ・コトをつなぐプラットフォーム「Smart GOTO」

少子高齢化や人口減少が進み、交通弱者や買い物難民の増加など多くの課題を抱えている日本。トヨタ自動車では自治体や地域事業者と連携し、DXを用いた実証実験を行っています。2023年9月1日に開かれたイベント「Toyota × AWS Cloud Day」では、新しい地域の在り方を創造する取り組みが紹介されました。【talentbookで読む】

地域を悩ませる、少子高齢化と人口減少

日本では、1997年に子どもの数が高齢者人口を下回って以来、少子高齢化が進んでおり、人口も2008年をピークに減少が続いています。この傾向はとくに地方において顕著で、公共交通をはじめさまざまな問題が起こっています。

先進技術開発カンパニーの先進プロジェクト推進部では、深刻化する地域の課題を改善するため、DXを用いたソリューションを開発し、実証実験を行っています。

「地域にあるヒト・モノ・コトをつなぐ地域の生活サービスプラットフォームSmart GOTOを開発しています。このプラットフォームを活用し、自治体や地域事業者と一緒になって課題を解決することで、持続性のある地域づくり(SDGs No.11)を推進していきたいと考えています」

開発の手順としては、モビリティーカンパニーである強みを生かし、まずは移動課題の改善に着手。そこから情報、買い物、観光と、地域の課題に応じてプラットフォームの機能を段階的に構築し、実証実験を進めてきました。

「現在はWebアプリケーションをつくって、地域の皆様にご利用いただいています。地方ではご高齢の方が多く、その方々がメインのユーザーになりますので、高齢者が使いやすい端末も準備し、誰一人取り残さない地域のDXをめざしています」

プロジェクトの実証実験が始まったのは2021年。長崎県の五島列島にある新上五島町の協力のもとスタートしました。

「世界文化遺産にも登録されている美しい町ですが、一方で将来の日本、とくに過疎化が進む地方の縮図のような町でもありました。高齢化率の全国平均が29%のところ、町の高齢化率は44%、自治体が国の援助を受けずに運営できる力を表した財政力指数は0.23です。財政力指数は健全な地域で0.7程度ですので、離島ということもあり、かなり国の援助を受けている形です。

また既存の交通機関を維持する為に、赤字補填を行っているような状況で、役場もかなりの危機感を抱いておられました」

町の課題解決と活性化を望む新上五島町役場と、こうした状況をなんとかして改善できないだろうかという先進プロジェクト推進部、双方の思いがマッチし、実証実験が始まりました。

DXで、必要なときに、必要な人だけを運ぶ交通手段を構築

今泉たち先進プロジェクト推進部が最初に取り組んだソリューションが、地域公共交通のDX「おでかけサービス」です。

人口減少と少子高齢化によって、従来の路線バスの定時定路線の考え方が合わなくなってきており、提供サービスと住民ニーズのミスマッチといった課題が地域にはあります。

「地方の公共交通は定時定路線の路線バスが主体ですが、本数が限られており、とくにメインユーザーである高齢の方からすると、家からバス停までが遠く、買い物をしても重いものを持って帰れないなどの不便さがあります。

一方、運営側の課題としては、人口減少と少子高齢化によって、実際の乗車は1人か2人で、規模が必要な定時定路線運行を維持するのが難しい状況。さらにその維持費を一部自治体が負担するケースもあるようです」

不便だから使わない、使わないから運賃収入が上がらない、その結果どんどんミスマッチが広がっているという負のスパイラルは、多くの自治体が抱えている課題だと今泉は語ります。

「そこでわれわれは、必要なときに、必要な人だけを運ぶデマンド交通の仕組みをつくり、提供しようと考えました。

利用者はWebアプリを使ってクルマを予約でき、その予約はWebを介して運行事業者に届きます。運行事業者は、その情報に合わせて配車。利用者は、端末の設置場所である自宅や、近くの公民館から乗ることができ、他に利用者がいる場合は、AIが最適なルートを計算し、必要最小限の運行で目的地に送り届けるという仕組みです」

これにより、より無駄のない運行が可能となります。

また、利用者に高齢者が多いことから、使用するアプリにも工夫が施されています。

「より多くの方にご利用いただくためには、予約の操作が簡単でなければなりません。タブレット端末には、必要最低限のボタンを表示し、4つのステップで予約を完了できるようにしています」

「またご高齢の利用者にはあらかじめQRコードのついたカードを配布。乗車の際の本人確認や運賃のやりとりなど、ドライバーの手間を省けるようにしました。乗降時はQRコードをクルマに設置したQRリーダーにかざすだけで、利用の確認から運賃の支払いまで完結できるようにしています」

これらの仕組みによって、生活利便性が向上する方向ではありましたが、地域DXをご理解いただくことが大切であったため、サービス開始前には役場とも連携しながら地域での説明会を実施し、利用促進につなげました。

おでかけに付随する情報も提供することで生活を豊かに

そして現在は「おでかけサービス」以外にも、同様の端末を使った各種のサービスを展開しています。

「各種情報の提供は『まちニュース』で行います。役場や店舗、船会社など、地域の情報を一元管理した掲示板のような役割で、地域のさまざまな情報が一括でわかるというサービスです。

また買い物についても専用ページを設け、地域の小売店や宅配事業者と連携したeコマースを展開しています。高齢者の方にとっては運ぶのが困難な、飲料やお米などの重い商品の購入に重宝していただいています」

さらに島を訪れる観光客向けには、観光情報サイト「mobipa」を開設。地域のスポット、コース、移動手段、アクティビティなどの観光情報を一つのウェブサイトにまとめ、一括で予約、決済できる機能をSmart GOTOプラットフォーム上で提供しています。

徐々に機能を追加し、サービスの充実を図っているSmart GOTOですが、これら一連のシステムはすべて、トヨタの共通クラウドプラットフォーム「TORO」で運用されています。

クラウドを用いて、保守運用の大幅な工数削減とより堅牢なシステムを実現

Smart GOTOのシステムは、当初はサーバーの上にWebアプリを立ち上げ、データベースについてもサーバーの上に立ち上げるという、簡単な形でスタートしました。ここで課題となったのが、保守運用の効率性と可用性や耐障害性でした。

そこでサーバー環境をTOROプラットフォーム(※)に移行。今後の展望を見据え、システムの強化を進めました。

※ TOyota Reliable Observatory/Orchestrationの略。トヨタの全社基準に適合した開発生産性の高いクラウドプラットフォームのこと

「まず保守運用の工数を削減するため、TOROプラットフォームで使えるAWSのマネージドサービスとCCoE(※)サービスを活用しました。

このSmart GOTOのシステムは、実際にお客様が使うサービスなので、当然ソフトの更新は夜間に実行しなければなりません。また実際にサービスを運用していると、突発的な修正が発生するため、その都度夜に対応しなければなりませんでした。そのため、作業者は、計画的な業務遂行ができない状況がありました。

その課題を改善するため、CCoEが提供しているCI/CDパイプラインを導入しました。これはソフト更新をトリガーに、自動で更新を反映させる仕組みで、異常があれば反映を止める、トヨタでいうところの自働化の考えが入っているパイプラインです。それを実装した結果、開発や保守運用の工数を劇的に削減することができました」

※ Center of Excellenceの略。クラウド戦略を遂行するために必要な人材や知見、リソースなどを集約した全社横断型の組織

また可用性や耐障害性については、バックアップ環境を構築することで対応しています。こちらは、AWSのマネージドサービスを活用し、実現しております。

このように当初のシステムの課題を克服していった結果、現在は運用上の工数を大幅に削減した、より堅牢性のあるシステムになっています。

「立ち上げ当初こそ、クラウドのメリットを活かしきれていない構成でしたが、今では必要な機能を素早く、簡単に実装できるといったクラウドの大きな利点を有効活用しています。またAWSはマネージドサービスもあり、CCoEのサポートが受けられるのも心強いところです」

サービスを各地に広げ、より多くの地域の課題解決に貢献する

SmartGOTOのサービスは、新上五島町の実証実験でも好評で、開始から約1年後にとったアンケートでは、大多数の方が「便利になった」という回答をいただいています。

「学生さんからは『Smart GOTOで帰宅ができるようになり、送迎する親の負担が減った』という声をいただきました。またご高齢の方では『移動販売では買えなかった重たいお米などが手に入るようになって嬉しい』という声もいただいています。地域住民の方から多くの共感を得ており、地域の生活が変化し始めていることも実感しています」

対象区域2,300人のうち、登録者は1,000人。現状で約43%の方に登録いただいている結果から見て、地域のインフラとして浸透してきていることがわかります。また1日あたりの利用者は105人。以前の路線バスの運行時と比較して、約1.2倍に増えています。

新上五島町から始まったSmart GOTOですが、2023年の7月からは、東北の南三陸、沖縄の宮古島の2カ所でもスタートしました。

「今後は、このサービスをさらに多くの自治体に広げていきたいと検討しており。ますますクラウドの拡張性や柔軟性が生きてくると考えています」

また先進プロジェクト推進部では、仲間づくりも進めています。

「社内外の地域課題解決に取り組んでいる方々と連携しながら、新上五島町のように喜んでいただける地域を一つでも増やし、持続可能な地域づくりに貢献できればと思っています」

モビリティーカンパニーの強みを生かし、地域課題の改善に取り組むトヨタの先進プロジェクト推進部。DXを用いた取り組みが、日本が抱える地域課題に、一つの回答を示しています。

※ 記載内容は2023年9月時点のものです

トヨタ自動車株式会社

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