住んでいる人たちの役に立ちたい──DX推進で自治体職員の想いを支える | キャリコネニュース - Page 2
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住んでいる人たちの役に立ちたい──DX推進で自治体職員の想いを支える

都民のQOL(Quality of Life/生活の質)向上のため、区市町村のDXをサポートしている東京都。デジタルサービス局の中前とGovTech東京の西澤は、学童の申請に関わるBPR支援に取り組んでいます。民間から行政へと活躍の舞台を移した二人が、区市町村と関わる中で大切にしている想いとは。【talentbookで読む】

区市町村の担当者に寄り添いながら、学童クラブの申請業務改善をサポート

──お二人は区市町村のDX支援に携わっているとのことですが、現在どのような取組を担当しているのか教えてください。

西澤:二人で担当しているのは、区市町村のBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング/業務改革)支援で、主に学童クラブの申請受付業務の改善です。2023年9月から始まった取組で、電子申請のフォームを作るお手伝いなどをしています。

中前:区市町村のDX支援に関しては、私はそのほかにも、デジタルを活用した優れた取組を表彰する「Tokyo区市町村DXaward2023」、各自治体のCIOのコミュニティを形成する「CIOフォーラム」の企画運営に携わっています。

コスト削減やノウハウの共有を図るため、デジタルツールの共同調達事業も進めていて、自治体の垣根を越えたイベントや共同調達を通して、区市町村のDX機運を高めていきたいと考えています。

──直接的な支援だけではなく、DX推進のためのサポートを幅広く行っているんですね。学童クラブの申請受付業務のBPR支援というのは、一緒にシステムを作っていくような関わり方なのでしょうか?

中前:というよりは、業務改善の伴走支援のようなイメージです。学童の申請に限らず、自治体の職員さんたちは業務のやり方を変えていきたいと思ってはいるものの、「進め方がわからない」というケースが多くあります。

そこで、まずは現場の課題を洗い出して、その原因を分析します。そして、原因を取り除くためにはどんな施策が必要かを検討して、実証実験をしてみる。その効果が大きければ、本格的に導入していくという流れです。

西澤:自治体によって課題は異なるので、実証実験の内容も変わってきます。申請業務を電子化したい自治体、内部の点数計算を自動化したい自治体までそれぞれです。

──自治体の方をサポートする際に心がけていることを教えてください。

中前:システムやデータの話になるとどうしても専門用語で語りがちになってしまうので、伝え方に気をつけています。ワークショップを行う際は、どういうアプローチをすれば理解度が深まるかを事前に二人で相談していますし、「今どのくらい理解できているのか」を慎重に見極めながら進めるようにしています。

西澤さんのおかげで、一人で悩まずに進めることができているので、いつも頼りにしています。

西澤:たとえば、エンジニアにとっては要件定義設計をする際のテストはかなり重要な位置付けなのですが、そういった感覚も異なります。自治体の方に寄り添いながら理解してもらえるように進めるのは難しい部分もありますが、中前さんがうまく要望を引き出してくれるので、私も助けてもらっています。

三層分離や条例、制度の違い。さまざまな壁を超えるための道を自分たちで作る

──区市町村のDXを支援する際に、とくに課題に感じていることを教えてください。

中前:いろいろな課題が複雑に絡んでいるのですが、まずは「三層分離」という大きな壁があると感じています。

自治体のネットワークはセキュリティの観点から、マイナンバーを使ってアクセスする「個人情報利用事務系」、人事給与や庶務事務など統合行政ネットワークで扱う「LGWAN接続系」、メール閲覧やホームページ管理などを行う「インターネット接続系」の3つの領域に分けられています。それぞれが分離されているため、一気通貫で業務フローを通すことが難しいのです。

申請業務で言えば、市民の方が申請して受け付けるところまでは電子化できるけれど、その申請内容をシステムに移す際は手入力しなければいけない、ということが起こり得ます。これは、クラウドシフトの流れやガイドラインの改定もあり、徐々に改善されているのですが、現時点で課題となっている自治体は多いです。

西澤:あとは、デジタル化した後の運用も課題だと感じます。人事異動がある中で、スムーズに引き継いでいくための手順書なども整える必要があります。ツールを導入したものの運用できずに効果を発揮できないケースもありうるので、自治体の方が運用しやすい状態を作り出すサポートが重要だと考えています。

──確かに、手入力の削減や運用のしやすさはDXのポイントですね。学童申請のBPR支援は始動して数カ月経っていますが、ほかにはどんなことが課題になっていますか?

中前:私たちがサポートしている自治体は転入者が増えているところが多く、学童申請数も増加しています。子育て支援は待ったなしの一方で、職員数は減少していて、さらに働き方改革も進めなければいけません。

システム以外も含めたいろいろな課題の過渡期に直面していて、身動きが取れない状態に近いのかなと思います。自治体の職員さんは通常業務と並行してBPRに取り組んでいるので、負担をかけない方法を模索しているところです。

西澤:先ほど、自治体によって課題が異なるとお話したのですが、これは条例や制度が違うことが背景にあります。他の自治体の事例を横展開しようと思っても、難しいんです。その中で、どうやって共通した課題をすくい上げて、いろいろな自治体で共有していくか。進むべき道を自分たちで作っていく難しさがありますね。

自治体職員の喜びが市民の喜びへ──困りごとの解決に愚直に取り組めることがやりがい

──西澤さんはSIer、中前さんは電機メーカーから東京都に転職されています。民間企業から行政へ転職した理由を教えてください。

西澤:前職ではアプリ開発やAI-OCR製品の保守運用などに携わっていましたが、製品を使うユーザは限定的だったので、もっと広い範囲の方に関わりたくなったためです。

東京都は広域自治体であり、都市部から島しょ部まで62の区市町村があります。それぞれ個別の事情がある中で、自治体に合わせてサポートできる点はおもしろそうだと感じました。

中前:私は、前職でお客様の課題をシステムで解決する仕事をしていました。仕事にはとてもやりがいを感じていたのですが、民間企業ですから、どうしても売上を求められます。

そんな中、東京都がデジタル人材を募集していることを知りました。行政であれば、困っていることをデジタルの力で解決することに愚直に取り組めるのではないかと感じたんです。

もちろん、税金を使う以上は民間企業より厳しい目を持たれることは理解しています。でも、第一に「市民のため」という使命を抱いて仕事をしてみたいと思いました。

──実際に東京都で仕事をしてみて、どのようなやりがいを感じていますか?

中前:やはり、純粋に自治体を支援できること、そして、自治体の職員さんが喜んでくれることが市民の方の喜びに変わるということが、一番のやりがいです。

自治体の職員さんは本当に、「市民の方たちの役に立ちたい」ということを一番に考えています。私たちはいつもそこに感動しているので、なんとかその想いを支えたいと思いながら課題と向き合っています。

西澤:私は入庁して半年ほどでGovTech東京に派遣されることとなり、はじめのうちは戸惑いもありました。ですが、自治体を取り巻く環境が異なる中で、よりよい方法を考えながら進めていける部分にはやりがいを感じます。

──行政ならではの文化や慣習で戸惑ったことはありませんでしたか?

西澤:行政の仕事は法律や制度に基づいているので、独自の用語も含めて理解していくことは、少しハードルが高いと感じます。

中前:そうですね。あとは、決定までのスピード感は戸惑いました。何かを決めるまでに、何回もレク(説明・報告)を繰り返して一歩ずつ進めていく必要があるんです。民間企業のように、ある程度根回ししておいて決裁権を持つ人にプレゼンするという手順で進められない部分は大変ですね。

ボトムアップの共同化で、市民に喜んでほしいという職員の想いをかなえたい

──民間と行政の両方を経験しているお二人から見て、東京都でDXに取り組むには、どのような人が向いていると思いますか?

西澤:東京都は、今私がいるGovTechやデジタルサービス局以外にも、本当に活躍のフィールドが広く、仕事内容も多岐にわたります。キャリアの築き方もさまざまなので、臨機応変に動ける方が向いていると思います。

あとは、行政の仕組みを理解することが必要なので、行政に興味があることは強みになると感じます。

中前:確かに興味があると良いのですが、私はむしろ興味がなくても飛び込める世界だなと感じました。なぜかというと、行政って、生活する上で誰もが関わっていて、そばにあるものなんですよね。

私自身、自分が公務員になることは想像していませんでしたが、意外とやっていけているのは、人と関わることやコミュニケーションが好きだからかもしれません。いろいろな人と話しながら自分で課題を見つけて、それを仕事にしていけることが大事かなと思います。

──最後に、今後の展望を聞かせてください。これから挑戦したいことや、思い描いているキャリアはありますか?

中前:自治体の方たちと共同で作り上げていく標準化を実現したいと思っています。

今、基幹業務システムをガバメントクラウドに移行する標準化が進んでいますが、それは型が決まった上で国から降りてきている事業です。でも、本来システムの標準化はボトムアップで進むべきものだと思うんです。

たとえば、近隣の区市町村で同じシステムを使っていれば、運用のノウハウを共有したり、困ったときは相談しあったりすることができます。もちろん、市民の方にとっても引っ越し先の自治体の申請方法が同じであれば利便性が高くなります。自治体ごとに制度面の違いはありますが、共通している部分を共同化していくことから始められたらいいなと思います。今取り組んでいるBPR支援が、その一歩になるとうれしいです。

西澤:私は、自治体に寄り添った支援ができるように、行政に関する知識を深めていきたいですね。GovTech東京は技術支援をする組織なのですが、行政で働く方に対する理解を深めることが大切だと考えています。

自治体の職員さんが業務を改善したいと考えている根底には、住んでいる方に喜んでもらいたいという想いがあるので、その想いを技術でサポートしていきたいです。

中前:行政に入ってからコロナ禍の話などを聞くことがあるのですが、職員みんなの想いを感じて本当に感動することが何回もあったんです。私よりも若い世代の職員さんもたくさんいるので、想いを持って働いている人たちがもっと働きやすくなる環境を作っていきたいですね。

※ 記載内容は2023年12月時点のものです

東京都デジタルサービス局

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