島根県江津市×JR西日本が取り組む「オンデマンド交通・MaaS実証事業」とは | キャリコネニュース
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島根県江津市×JR西日本が取り組む「オンデマンド交通・MaaS実証事業」とは

江津市地域振興課 千代延明氏(左から2番目)
西日本旅客鉄道株式会社 デジタルソリューション本部WESTER-X事業部 片岡祐太氏(左から3番目)
西日本旅客鉄道株式会社 デジタルソリューション本部戦略企画(地域ソリューション)森岡愛祐美氏(右)
インタビュアー:クリプトコンサルティング ディレクター 木田聖矢(左)

江津市地域振興課 千代延明氏(左から2番目)
西日本旅客鉄道株式会社 デジタルソリューション本部WESTER-X事業部 片岡祐太氏(左から3番目)
西日本旅客鉄道株式会社 デジタルソリューション本部戦略企画(地域ソリューション)森岡愛祐美氏(右)
インタビュアー:クリプトコンサルティング ディレクター 木田聖矢(左)

地方での公共交通の縮小、人口減少などが深刻化する中、自治体では交通手段の確保への取り組みが求められている。そのような時代に注目を集めているのが「AIオンデマンド交通」だ。島根県江津市では、2024年12月から西日本旅客鉄道(以下、JR西日本)、クリプトコンサルティングとともに他の自治体に先駆け、「オンデマンド交通・MaaS実証事業」に着手したが、その取り組みや反響について、江津市の地域振興課 千代延明氏と、西日本旅客鉄道株式会社 デジタルソリューション本部WESTER-X事業部 片岡祐太氏、デジタルソリューション本部戦略企画(地域ソリューション)森岡愛祐美氏にご報告いただいた。(以下、敬称略)

木田 本日は2024年12月より、江津市、JR西日本、クリプトコンサルティングで取り組んでいる「AIオンデマンド交通」について、江津市の千代延様、JR西日本の片岡様、同じくJR西日本の森岡様にお話をお伺いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

「AIオンデマンド交通」導入の背景は?

江津市地域振興課 千代延明氏

江津市地域振興課 千代延明氏

木田 今回江津市で「AIオンデマンド交通」を導入するに至った背景について教えていただけますか?

千代延 地域の高齢化が進む中で、交通手段が限られていることが背景にありました。市内を走る路線バスは廃止や減便が進んでおり、今後も深刻化していくことが考えられます。持続可能な交通手段としてルートが柔軟に変更でき、効率化が期待できるAIオンデマンド交通が最適だと考えました。

木田 JR西日本さんではいかがでしょうか?

片岡 私たちの主たる事業は鉄道事業ですが、地域課題を解決すべく鉄道以外のソリューションもいろいろ提案させていただいています。この度は、江津市さんが新たな方策として、新しい持続可能な交通網を模索されているということをお伺いしまして、オンデマンド交通をご提案させていただき、採択いただいたというところです。

「AIオンデマンド交通」現在の運行形態

木田 AIオンデマンド交通は現状どのような運行形態で実施されているのでしょうか。特に車両や運行時間についてお聞かせいただけますか?

千代延 現在は試験運転という形で、ドライバーを含めて7人乗りの乗用車を使い、年末年始を除いて朝8時から夕方5時まで運行しています。運行に関しては地域のタクシー事業者に市から委託をして行っています。

森岡 利用時には予約が必須となります。予約の際にはスマートフォンアプリまたは電話予約で受付をしています。利用者層としてはやはり高齢者が多いので、電話での受付は必須と感じております。

「AIオンデマンド交通」サービス導入前の障壁や不安

西日本旅客鉄道株式会社 デジタルソリューション本部WESTER-X事業部 片岡祐太氏

西日本旅客鉄道株式会社 デジタルソリューション本部WESTER-X事業部 片岡祐太氏

木田 「AIオンデマンド交通」のサービスの導入を決めるまでに特に大きな障壁になったことや、不安に思われたことはございましたか?

千代延 運行を行う地域で住民説明会を行ったのですが、やはり住民のみなさまからの理解が得られるかというところが大きな不安でした。しかし、取り組みに対しては好意的なコメントが多く、とても安心いたしました。

片岡 この住民説明会にはJR西日本も同席させていただきまして、直接住民のみなさまの感触やご意見を伺うことができました。我々としても住民の皆様からAIオンデマンド交通について運行時間の問い合わせなど、活発に議論をいただきまして、その場で非常にたくさんのご意見を頂いたので非常に感謝しております。

「AIオンデマンド交通」理解を得るために工夫した点

西日本旅客鉄道株式会社 デジタルソリューション本部戦略企画(地域ソリューション)森岡愛祐美氏

西日本旅客鉄道株式会社 デジタルソリューション本部戦略企画(地域ソリューション)森岡愛祐美氏

木田 サービス導入にあたって、住民や地域の事業者から理解を得るために工夫された点はございましたか?

千代延 今回実証の地域が江津東部の5地区で行われました。そんな中、我々は5地区にあるそれぞれのコミュニティ交流センターに赴き、住民説明会を実施させていただきました。また、地域内を走る複数のタクシー事業者とも事前に調整を行いました。

森岡 AIオンデマンド交通は「乗り合い」という事実を除けば、普通のタクシー運行と変わりませんので、地域内を走る運行会社から承認をいただくことは非常に重要です。弊社では他の地域におきましても同様の取り組みをさせていただいておりますが、他の地域と比較しても江津市様では運行会社からも非常に好意的なコメントをいただいております。

「AIオンデマンド交通」サービス開始後の反響

木田 サービスの開始後、住民や地域社会からの反応はいかがでしたか?

千代延 移動が便利になったという声を多く寄せられた一方、今回の実証実験では、江津市東部地域に限られているため、市の中心に位置する総合病院へ行きたいという利用者からの声は大きかったです。

片岡 現在は実証実験ということで車も1台に限られていますので、エリアを含めて限られたものとなっておりますけれども、今お声としていただいたような、「もっと中心部へ行きたい」というご要望や、「もっと便利に利用したい」といったお声があることは私たちも認識しておりますので、今後は江津市さんと検討を進め、より良い地域の交通体系にしていきたいと思っているところでございます。

「AIオンデマンド交通」印象深かった反響

クリプトコンサルティング ディレクター 木田聖矢

クリプトコンサルティング ディレクター 木田聖矢

木田 地域の方から寄せられた声で印象深かったものを教えていただけますか?

千代延 ご利用いただいた高齢者の方々から、「これまでバス停まで歩くのが大変だったけど、家の前まで来てくれるから便利になった」というコメントをいただきました。このようなお声をいただき、我々が支援したかった層にサービスが行き届いていることを実感いたしました。

森岡 このようなコメントは、我々としても非常にうれしく思います。弊社では電話予約を受け付ける際に、「こんなところまで来てくれるの?」といったような意見をいただくことができ非常にうれしい限りです。

「AIオンデマンド交通」地域経済への影響

木田 今回は2か月間の非常に短期間の実証ではございますが、移動の手段が増えたことで観光や飲食等の地域経済には影響はございましたか?

千代延 まだ運行を開始したばかりということもあり、観光や飲食等地域経済への影響まではデータとして目に見える形では取得できていないのが現状です。ただ、今後はそういったデータも活用して地域経済の活性化につながるようなプロジェクトにしていきたいと考えています。

片岡 オンデマンド交通で高齢者の方を中心に移動の利便性が高まることによって、観光や商業施設に訪れてみようという動機がプラスで生まれれば、我々としてもうれしいなと思っております。また、JR西日本といたしましては、これまでも観光や商業施設を巡るようなスタンプラリーを実施しており、こちらから需要を喚起するような取り組みもさせていただいておりますので、今後、こうしたオンデマンド交通の需要を喚起するような施策を組み合わせて誘因をはかっていければ、尚良いというふうに思っているところでございます。

「AIオンデマンド交通」サービスを根付かせるための次の施策

WESTER「配車予約サービス」が活躍

WESTER「配車予約サービス」が活躍

木田 このサービスをさらに根づかせるために、次に考えている施策はございますか?

千代延 利便性の向上と利用促進の2点を考えています。まず、利便性の向上につきましては、既存のバス停情報、また、この度のAIオンデマンド交通の乗降ポイント、これらについてのデータを活用して目的地への最適なルートが検索できるようなそういったシステムが構築できたらなと考えています。また、利用促進の面につきましては、アプリ予約や便利な使い方など、スマートフォンを使って予約をすることがなかなか難しい、スマホの操作に慣れていない高齢者を対象にしたスマートフォン教室のような取り組みを進めて、利用促進をはかっていきたいなというふうに考えております。

森岡 特に利便性の向上に関して、市内の中心地に行くには、JRの駅、あるいはバス停まで行き、そこで乗り換えていただく必要があります。ですので、家から直接行けるようになると利便性が向上するのではと思っております。一方では、公共交通をしっかりと利用していただくことも必要かなとも考えております。

「AIオンデマンド交通」今後の地域の未来

WESTER「配車予約サービス」

WESTER「配車予約サービス」

木田 今後このプロジェクトをすすめていくにあたって、どのような地域の未来を描いていきたいと考えておられますか?

千代延 10年先まで持続可能な地域公共交通の実現が目標です。地域住民、交通事業者、行政が三位一体となって移動サービスを提供していくことができる地域社会を実現していけたらなと思っています。

片岡 JR西日本といたしましても、持続可能な地域社会づくりに貢献していきたいと考えています。その際にはJR西日本だけがWINになる関係性ではなく、JR西日本、地域の皆さま、行政が三位一体となって、WINになるようなそんな関係性をつくってまいりたいと思っております。そのためにも我々はさまざまなソリューションを持っておりますが、地域課題をしっかりとヒアリングさせていただき、地域課題にマッチするようなソリューションをこれからも提案し続けてまいりたいと思っています。

木田 これからも江津市、JR西日本、クリプトコンサルティング一体となって地域課題の解決にコミットしてまいりたいと思っておりますのでよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。
(2025年2月18日JR西日本本社にて取材)

 

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