一方で人事経験者は世界中にいるという側面もあり、「超レッドオーシャン」でもあります。つまり生半可な経験では市場価値が高まらないという側面もあり、「人事で食べていく」のは大変な部分もあります。
既にその魅力に気づき、人事を志望されている方は「どんな経験が必要なのか」気になっていると思います。レッドオーシャンで競争の激しい人事の世界で大成するための能力について考えてみましょう。
“人事部長を目指す”という人
人事部長やCHRO(最高人事責任者)を目指す方はまずは清濁併せのむ力が求められます。経営者と従業員の板挟みになるのは必然であり、時には経営者から従業員寄りだと非難され、従業員からは自分たちのことを考えていないと糾弾される。
人事部長は意志を貫徹出来る強い気持ちが必要です。人事部員であるということで人に頭を下げる習慣がないと人事部長にはなれません。むしろ営業を通じて様々な交渉術を身に着けている方の方が向いていると言えます。社内で敵を作らず、意思を持って様々な改革を断交するには高い交渉力と忍耐力、そして頭を下げてでも意志を貫き通す力が求められます。
もう一つ重要な事に経営センスが挙げられます。これまで日本企業の人事部に所属している方々(私も典型的なその一人です)は経営とは無縁の「人事的な世界」にどっぷり浸かってきました。つまり経営と人事は別という感覚です。
従業員に向き合っている内に経営との乖離が大きくなり、従業員視点での全体最適を心掛けるあまり経営センスとは無縁になってきました。これから人事部長を目指すあなたは、人に大きな関心を持ち、活力ある組織を創りたいという希望をもってらっしゃるかもしれません。もしそうであるならば20代のうちは営業をしたり、経営企画やファイナンス等、敢えて人事以外のキャリアを選んでみるのも良いアイデアだと思います。
子会社で会社全体を俯瞰するのも良いかもしれません。そうすることで人事だけの閉ざされた世界に留まらず、経営戦略と人事戦略をつなぐ戦略人事の責任者として羽ばたけるはずです。
“人に寄り添う仕事をしたい”という人
企業で働いているけど、本当はキャリコンサルタントなどもっと人に寄り添い、キャリアを支援することを仕事にしたいという方もいらっしゃると思います。人に寄り添う仕事をしたいという方の動機や想いは素晴らしいものです。
相談相手としてのスキルは当然としても、人に寄り添う仕事をしていくためには、相手の経験や気持ちに共感するということが重要なポイントとなります。こういった能力やスキルは人事部でしか磨けないのかというと、意外にそうでもありません。
人事は経営と従業員の間に入っていますので、人に寄り添ってばかりはいられません。時には経営方針に合わない方や成果の出ない従業員に対し厳しい姿勢を取らざるを得ないこともあります。人に寄り添う=人事の仕事という訳ではないということです。
むしろ「寄り添う」という視点だけを切り取ると、人事から離れた仕事の方が鍛えられるケースも多々あります。共感力に加えて、人が相談したいと思える人間的な魅力や色々な方にアドバイスができるような幅広い経験を積んでおく方が大切だと思います。
“どちらもやりたい”という人
人事部長になり、人にも寄り添いたいというあなた。あなたの理想は素晴らしいと思います。そんな方は何のための人事か(人事としての大義は何か)をしっかりと持つことが大切です。全員にいい顔は出来ません。人事の仕事の難しさはそこにありますが、醍醐味もまた、そこにあると言えます。
正解のない中で自分自身の大義を持ち、人事を為すということが、人事パーソンには求められるのです。そんな魅力的な人事パーソンを志す人がもっと増えて欲しいと願っています。
【東野 敦】
SUBARU・本田技研工業・江崎グリコにおいて人事を担当。主に海外進出や現地法人・国内グループ会社の人事部門の支援を行い、担当した国は20か国以上に上る。2019年にPeople Trees合同会社を設立。大手企業の副業メンバーを束ね、企業の経営者と共に志の溢れる人・組織を作るべく奔走中。【企業サイト:https://peopletrees.co.jp/】