オンライン採用でさらに進む「東京一極集中」 それでも地方企業はあきらめてはいけない
コロナ禍でも、東京への一極集中は進んでいます。総務省統計局「人口移動報告」の2022年3月期報によると、東京都は約3.3万人、東京圏(一都三県)では約5.5万人の流入超過でした。その他の流入超過地域は、大都市圏の大阪、愛知、福岡のみで、残りの40道府県はすべて流出超過でした。
マスコミでは「コロナ禍で仕事のオンライン化が進み、リモートワークがしやすくなったことで、東京など大都市圏から郊外に移住する人が増えてきた」と報道がなされていました。しかし、一部そういう例はあったとしても、全体的に見れば実態は真逆なようです。(人材研究所代表・曽和利光)
結局、若者の多くは「大都市圏で働きたい」
なぜこういう現象が起こっているのでしょうか。調査時期が3月ということもありますが、これは就職によって若者が大都市圏に移動しているからです。東京だけを見てみても、流入超過約3.3万人のうち3万人程度は20歳から24歳の若者です。
マイナビ「2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査」によると、働く場所が自由になった際に【東京の企業に勤めたい】と答えた人は31.5%でした(「東京に住みたい(13.7%)」+「都市(東京以外)に住みたい(9.3%)」+「地方に住みたい(8.5%)」)。
【都市(東京以外)の企業に勤めたい】と答えた人は32.0%で(「東京に住みたい(2.7%)」+「都市(東京以外)に住みたい(16.8%)」+「地方に住みたい(12.6%)」)、東京と都市の企業を合わせると63.5%にものぼります。
特に伸びが大きかったのは「東京の企業に勤め、東京に住みたい」で、前年度比6.0%増。結局、若者の多くは大都市圏で働きたいのです。そういう背景の中で、東京の企業が全国の人材を対象として広く採用活動を行ない、それが成功した結果として、若者が東京に就職・転職しにやってきているということです。
オンライン採用が「全国採用」の追い風となっている
実際、東京の企業の多くが自社の拠点に関係なく、日本全国あるいは海外までも視野に入れて採用活動を行い始めています。新卒採用においては、地方有力大学は採用先進企業に人気で、北海道から沖縄まで網羅的にアプローチを行う企業が増えています。
中途採用では、スカウトメディアを使って東京圏出身の地方在住者を狙い撃ちしています。エンジニアなど超売り手市場のIT業界では、関西などの優良市場に東京の会社が採用拠点を設けたり、オフィスを拡充させたりする動きも広がっています。
これにさらなる追い風となっているのが、コロナ禍で急激に浸透した「オンライン採用」です。渋谷に本社を置くITメガベンチャーのサイバーエージェントは、年間100回以上行なっていたリアル場における説明会を全廃し、すべての企業情報の提供をすべてオウンドメディア「サイバーエージェント・ウェイ」で行うことにしました。
すると、地方の就活生の入社の割合が、2割程度から5割以上に増加したとのことです。前述したマイナビの調査でも、地元企業(Uターン先企業含む)がWEBセミナーを実施している場合、その企業への「志望度が上がる」と答えた学生は62.4%で前年度比5.3pt増。WEB面接を実施している場合に「志望度が上がる」と答えた学生は37.4%で前年度比18.9pt増と大幅に伸びています。
そう考えると、全国採用を行いたいのであれば、オンライン採用は絶対にやめてはいけない、ということになります。コロナ禍が落ち着きを見せた際、「これでリアル場での対面の採用に戻れる」と言っていた企業は少なくありませんでしたが、候補者からみれば、ハードルの低さ、負担の低さの魅力は依然として大きいです。
「ワークライフバランス」でIターンに魅力感じる人も
オンライン採用をやめてしまえば、その企業を受けることに躊躇する就活生が増えてしまうことでしょう。地方企業であれば、東京(圏)の大企業、有名企業、人気企業がオンライン採用を継続し、全国採用へ進出しているのですから、ここでオンライン採用をやめれば、みすみす地元の人材を取られてしまうだけです。
ここまで東京(圏)の企業による全国採用を述べてきましたが、これを脅威としてだけとらえる必要はありません。前述のマイナビの調査でも、地元(Uターン含む)就職を希望する学生は、前年比4.8pt増の62.6%で2年連続増加しています。
また、Iターン就職のように「地元以外の自然が豊かな地方で働いてみたい」という人も48.3%にのぼり、2年連続で増加しているのです。Iターン就職を希望する理由のトップは「趣味と仕事のバランスをとりたいから」が49.2%。「住む場所には特にこだわりがないから」「自然の中で楽しめる時間を持てるから」「見聞を広げたり、新たな発見ができるから」といった理由も上位に並んでいます。
つまり、全国に目を向け、オンライン採用をすることは、なにも東京企業の特権ではなく、地方企業にも実施可能な戦術なのです。どこの地方でも、大都市圏に人材を奪われるだけでなく、大都市圏や他の地方から人材を集めることができる可能性があるはずです。
採用に苦労する地方企業も、座して負けるのを待つのではなく、むしろ攻めに出て全国採用を成功させるよう、考え方を変えてみてはいかがでしょうか。まさに「ピンチはチャンス」です。
【筆者プロフィール】曽和利光
組織人事コンサルタント。京都大学教育学部教育心理学科卒。リクルート人事部ゼネラルマネジャーを経てライフネット生命、オープンハウスと一貫として人事畑を進み、2011年に株式会社人材研究所を設立。著書に『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『コミュ障のための面接戦略 』 (星海社新書)、『組織論と行動科学から見た人と組織のマネジメントバイアス』(共著、ソシム)など。
■株式会社人材研究所ウェブサイト
http://jinzai-kenkyusho.co.jp/