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「強烈な退職慰留」はなぜパワハラにならなかったのか? あるリクルートの事例より

「あ、そう」と簡単に受理しないメリットもある

「あ、そう」と簡単に受理しないメリットもある

リクルート出身者が語りがちな話のひとつに「退職時の強烈な引き止め」があります。リクルートは、どんどん辞めなはれと転職を奨励している会社のように思われていますが、実は全然そんなことはありません。任侠組織のような言い方で恐縮ですが、むしろ「足抜けしにくい組織」と言ってもよいくらいです。

私にも、そういうことがありました。入社4年目にいろいろ悩んで「こんな会社辞めてやる!」と転職活動をしました。そしてあるメーカーの人事部に内定をもらい、それをコソッと同期社員に伝えたところ、速攻で先輩に伝わり呼び出されてしまいました。(人材研究所代表・曽和利光)

深夜2時に人事部長まで呼び出して説得

その後は同期とともに、超ロングランの退職慰留のような、説教のような飲み会に連れ出されました。「なぜ辞めたいのか?」「辞めてどうするのか?」「そもそもお前は何のために入社したのか?」「それでいいと思っているのか?」という質問が続き、そのうち自分でもなぜ辞めたいのか分からなくなりました。

最後は浅草にあった私の自宅まで来ても話が終わらず、深夜2時頃、当時の人事部長であった村井満さん(Jリーグ前チェアマン)が埼玉から呼び出されてやってきてくれました。そこまでされたら、もう終わりです。私は、内定をもらっていた会社を辞退し、結局そのときはリクルートに残ることを決めたのでした。

このような経験は別に私だけのことではなく、多くの人が経験していることなのです。当時、リクルートの平均退職率は年10%弱で、決して退職率が低い会社ではありませんが、新卒者の3年間での退職率30%が何十年も続いている日本においては、それほど高い退職率でもありません。

人材流動性の高いIT業界やベンチャー業界などでは、退職率が年30%という会社すら珍しくないことを考えれば、似たような人材を求めて採用している会社としては、とても低いと言ってもよいかもしれません。

強烈な引き止めは「退職理由の熟考」を促す

入社時のアンケートで「定年までいたい」と回答する新人が1%もいない会社で退職率が10%弱だった理由は、このような退職時の引き止めも一因ではないかと思います。

強烈な慰留は、今ならパワハラと言われてしまいそうですが、当時のリクルートでは多くの社員にとって、そんな風には捉えられていませんでした。むしろ、退職したいと言って「あ、そう」と簡単に受理されるより、よっぽどよいことと思われていました(もちろん嫌な人もいたと思いますが)。

それは熱心に慰留をされることで、もたらされるよいことがあったからです。まず一つのよいこととは、強い引き止めにあうことを多くの人が知っているので、退職を決めるのも一大決心になるということです。あまり深い考えもなく退職を口にすればひどい目(質問攻め)に遭うことになると分かっているので、「自分はなぜ退職して別の道を選ぼうとするのか」ということをとても一生懸命考えます。

引き止めの結果、最終的に残留を決定する人もいますし、それでも明確な意思を持って退職を決める人もいます。いずれにせよ、最終的に選んだ結果に対して大きな決意が生まれ、出るにせよ残るにせよ、「自分で決めたからには頑張らなければならない」という覚悟が生まれるのです。

そういう覚悟をもって決めた道を歩めば、どんな道を選んだとしても一生懸命進むでしょうから、結果として成果がついてくるのではないかと思います。

退職申し出があった際の行動を考え直してみては

もう一つのよいことは、退職を強く慰留されることで、会社や上司や同僚が自分のことを重要に思っている、ということを実感できることです。他者から重要と思ってもらえることは、自己肯定感(self-esteem)、つまり自分を価値ある存在として尊重し認める気持ちを高めることにつながります。

人は自己肯定感が高い時は、精神的なエネルギーが湧き、物事に前向き、肯定的になります。環境の変化に対しても楽観的になり、柔軟に適応できるようになります。何か間違いをおかしてしまった時も、それを素直に間違いと認めることもできます。

そして、自己肯定感が強い人は、他者に対してもその存在を受容して重要感を与える人になることができるようになるため、自己肯定感は連鎖していきます。これらはすべて組織にとってはとてもプラスの要素です。

会社によっては、退職を言い出したこと自体を忠誠心やコミットメントが不足しているとして、言い出した社員を「ダメな人」と決めつけ、「去る者は追わず」を決め込むところもあります。

しかし、リクルートのように退職慰留をすることで得られるメリットも多々あります。退職を考えた人が、どのような環境でも「ダメな人」であるわけがありません。退職申し出があった際の行動について、御社でもいま一度考え直してみてはいかがでしょうか。

sowa_book【筆者プロフィール】曽和利光
組織人事コンサルタント。京都大学教育学部教育心理学科卒。リクルート人事部ゼネラルマネジャーを経てライフネット生命、オープンハウスと一貫として人事畑を進み、2011年に株式会社人材研究所を設立。著書に『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『コミュ障のための面接戦略 』 (星海社新書)、『組織論と行動科学から見た人と組織のマネジメントバイアス』(共著、ソシム)など。

■株式会社人材研究所ウェブサイト
http://jinzai-kenkyusho.co.jp/

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