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会社は敵とは限らない 「社畜になるな!」に騙されるな

本当に敵は会社なのか

本当に敵は会社なのか

会社を悪者にして「社畜になるな」と煽る人は、ネットにたくさんいます。しかし、会社や経営者は本当に敵なのでしょうか。本当の問題はどこにあり、自分をサポートしてくれる人が誰か、見誤ってはいけません。人材研究所代表・曽和利光氏の連載第17回です。

会社に忠誠心を持って、私生活を犠牲にして仕事をしているような人を揶揄して「社畜」とよく言います。言うまでもなく「会社に飼われる家畜」という意味です。うまく動機付けして、やりがいを持たせることで、低賃金で人を雇って搾取する「やりがい搾取」という言葉もあります。

どちらも、背景に潜むのは「会社というものは、放っておくと社員からすぐに搾取しようとする敵である」というような性悪説です。この言葉を使う人の中には、会社を仮想敵に見立て、そこからどれだけ本来の取り分を取り戻せるかばかり考えている人もいます。

確かに、ブラック企業と呼ばれるような反社会的な会社もあるでしょうし、悪い経営者もいるかもしれません。実際に、今まではそういう人たちが相当数いたので「社畜」などという言葉が定着してしまったのだと思います。(文:人材研究所代表・曽和利光)

世の中は徐々によくなっている

しかし、このインターネット時代、これだけブラック企業や権力者のパワハラが告発される世の中、本当に悪質なものは徐々に減っていると思われます。というか、そんな会社はすぐに人が寄り付かなくなり潰れてしまうのではないでしょうか。

つまり、申し上げたいのは「そろそろ、そこまで会社を悪く思わなくてもいいのではないか」ということです。

人事コンサルティングをしていても、社員を離職させずに機嫌よく働いてもらうために、どこまで社員の待遇をよくできるのかを一生懸命考えている会社ばかりです。どこまで搾取できるのかというテーマなどほとんど聞いたことがありません。

今の世の中、一番の経営者の課題は「人手不足」です。アルバイトの時給でもどんどん上がっているのに、優秀な社員から搾取を目論んでいては、うまく経営できるわけがありません。

むしろ「社員の敵は社員」

もしも「敵」というものを想定するのであれば、それは会社ではないと私は思います。例えば、あなたの給料が成果に比して低いとすれば、確かに直接的には会社が低い給料を提示しているわけですが、それは根本的なものではなく、さらなる原因があります。

会社が報酬として支払う原資にはもちろん限界があります。そもそも報酬に回す金額、利益の中から人件費に支払える割合(労働分配率と言います)は、同じ業界であれば似たようなものです。

「内部留保が多過ぎる、社員に還元せよ」と、原資を増やすように要望するのもいいのですが、限度を超えると会社を弱体化させ、他社との競争に負けて、元も子もなくなってしまうかもしれません。

つまり、あなたの給料が不条理に低いのは、同じ報酬原資から不条理に高い報酬を得ている社員がいるということです。彼らがあなたの「敵」なのではないでしょうか。

敵の代表「働かないおじさん」

例えば、その代表例は大企業に多いとされる「働かないおじさん」です。いわゆる窓際族で暇にしているのに、年収2000万円ももらっている「Windows 2000」などと言われたりする、ある意味うらやましい立場ですが、彼らが若者の成果を搾取している人たちです。

繰り返しますが、原資は一度決まれば一定ですので、あとはそれを社員同士でどうやって分けて行くかということです。

社員個々人は見えている範囲だと、自分対会社と見えるので、会社を敵視する人もいるのでしょう。しかし本当は、会社は社員同士の分け前争いを仲裁しているだけとも言えます。

「働かないおじさん」が不当に得をする状況や制度を放置していることが会社の責任だと言うのであれば、それはそうでしょう。ただ、日本の労働法は待遇の不利益改定に厳しく、なかなか自由に彼らの報酬を下げることはできないのです。

「働き方改革」の隠れた目的とは

昨今の「働き方改革」は、少子化による労働力不足をカバーするとか、国民のワークライフバランスを健全化することで幸福な国を目指すとか、様々な目的を掲げています。

しかし、あまり喧伝されない目的の一つに、実はこの「働かないおじさん」問題を解決する意図があるのではないかと思います。

「働かないおじさん」が日本の生産性を下げ、若者に低賃金や非正規雇用を強いることがわかっており、「働く若者」へ報酬を徐々に移転しようとしているものではないかと。

一方、労働時間を減らして報酬を減らそうとしているのではないか、という詮索もあります。私もそれは意図しない「副作用」として深刻だと思うのですが、実際の経営者の多くの本音は「成果を出せる人にたくさん払えるような原資を捻出したい」でしょう。

政府も、残業代減少によって減る賃金は昇給によって補填せよという方針ですし、実際、残業を減らした分を報奨金にするような会社も出てきています。

会社の人事施策の本意を知ろう

このような社会的に推進されている「働き方改革」だけでなく(というより、コントールできない政治的な動きを待たずに)、多くの企業が自社内でいろいろ人事制度改革を行っています。

役職定年や早期退職制度、年功性の高い給与制度の改定、職務給への移行、高額インセンティブ制度の創出など、これらはほとんどの場合、成果を出した人に適正なお金を支払うことができるようにする原資を作り出すためのものです。

福利厚生制度の改革などは、一見すると住宅手当とか家族手当とかの削減に見え、待遇の改悪と思えるかもしれませんが、これもやはり目的は原資の創出です。

私が以前在籍したリクルートでは、もう20年近く前に福利厚生を全廃し、それをすべて成果貢献給に配分しなおすことで、若手の活性化を図った結果、うまく世代交代が進み、現在の姿があるように思います。

若者は目を見開いて適切な判断を

「俺たちは社畜じゃない」「会社はもっと俺たちを遇せよ」と不遇をかこつ若者たちは、その矛先を向ける方向を間違ってはいけないと思います。

上に述べたような会社の様々な改革に率先して反対しているのは、既得権益を持つ「働かないおじさん」だったりしませんか? 彼らはあなたからお金を搾取している張本人です。彼らと若手の皆さんは、利害関係が一致しているわけではないのです。

もちろん、これは話を極端にシンプルにしていますので、会社の置かれている環境によっては異なる事情もあると思います。しかし、世の中的に言われている「会社悪者論」「社員社畜化論」に簡単に流されるのべきではないことには変わりありません。

自分の目を見開いて、自分の会社においては、本当の問題はどこにあり、自分に害悪をなしているのは一体誰で、自分をサポートしようとしているのは誰なのかについて、適切な判断をされることを願っています。

【筆者プロフィール】曽和利光
組織人事コンサルタント。京都大学教育学部教育心理学科卒。リクルート人事部ゼネラルマネジャーを経てライフネット生命、オープンハウスと一貫として人事畑を進み、2011年に株式会社人材研究所を設立。近著に『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)。

■株式会社人材研究所ウェブサイト
http://jinzai-kenkyusho.co.jp/

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