「就活生の親」が欲しがる3つの情報 会社は積極的に提供しよう
近年、新卒採用担当者が頭を悩ませているのは、就職生の親への対策です。自分の子どものことになると、人は誰でも保守的になり安定志向になるものです。そのため超人気企業や大企業でもない限り、親御さんの「もっと有名なところ、大きいところがいいのでは」という「助言」に採用活動を妨害されてしまいます。
日本では中小企業が9割をゆうに超えているわけですから、ほとんどの企業が就活生の親向けになんらかの対策をすべきということになります。要は学生に対してだけではなく、その親にとって必要な情報も同時に提供していくことが大切ということです。(人材研究所代表・曽和利光)
最初に心配するのは「お金」のこと
親にとって必要な情報とはなんでしょうか。親と一括りにしてもいろいろな方がいるでしょうから、単純ですが、どんな情報を知りたいかを親に聞けばよいと思います。
ほとんどの採用担当者は選考の初期の段階で、学生と「親の話」をしていないようです。学生といえども成人なわけですから、親の意向を聞くなんて、というのはもっともです。
しかし、現実には親と相談しながら就職活動をする学生が多いもの。「親からはどんなアドバイスを受けているのか」「親は自社や業界についてどんなイメージを持っているのか」「何を不安視しているのか」といったことは、できれば最初のうちから聞いておきたいところです。
基本的にはその返答に単に答えていけばよいのですが、たいていの場合、最初に親が心配するのは「お金」に関することです。
サラリーマンの平均年収は平成の間に数十万円も下がっていますし、多くの企業が業績悪化で倒産したり買収されたりしています。リストラもたくさんありました。周囲や自分自身がそんな辛酸を舐めたりした親御さんも多いことでしょう。
ですから、まずは「その会社が財務的にしっかりしているのか」「きちんとした給料がもらえる会社なのか」が心配になるのも当然です。親を安心させる第一歩は、このようなお金にまつわる情報をきちんと提供しておくことです。
次に気にするのは「労働時間」と「退職率」
親がその次に心配するのは「労働時間」に関することです。過労死やメンタルヘルスの問題など、ブラック労働に関する話が新聞やテレビなどのマスコミを賑わせているため、我が子がそういう目に合わないか心配になるのもこれまた当然でしょう。
渡すべき情報としては、平均残業時間や有給休暇消化率、育児休暇取得率などの「働き方」がわかるようなものはMUSTです。
これらの数字は具体的にオープンにすることが重要で、単に「うちはあまり残業がない」とか「女性が働きやすい」とかふんわりとした抽象的な説明だけでは、「何か隠している」という印象がぬぐえません。それほど企業は親からは信頼されていないのです。
優先順位の高いものを3つ挙げるとすれば、残りは「退職率」です。実際の退職にはポジティブな転身もありますが、親から見れば何か問題があったからするものという認識でしょう。そしてその問題とは、たいていは人間関係です。
転職理由のランキングを見ると、半数以上が人間関係です。高い退職率は、パワハラ、セクハラ、アルハラ(アルコールハラスメント)などが存在していることを匂わせます。退職率をオープンにし、背景を説明することも不安の解消に役立ちます。退職率が高くともステップアップな転職が大半であれば、好感とまでいかずとも不安は減るでしょう。
事業や仕事の中身は意外と気にしない
個々の親が気にすることは他にもありますが、ほぼこの3つが不安の大半です。これらの情報は、なんなら採用のホームページなどに最初からドーンと載せておいてよいぐらいです。自社を受験している学生を通じて、できるだけ早い段階から親に伝えてもらうようにするとよいでしょう。
この他、事業のことや仕事の内容は「よくわからない」「子どもがやりたいなら」と親はあまり介入してきません。たまに、金融やコンサルティングなど産業界全体のことをよく知っているところで働く親や、エリート意識が強く特定の業界や仕事にこだわりのあるような親は介入してきますが。
さて、このようにどれだけ情報提供をしても、それでもまだ「何か隠しているのではないか」と疑心暗鬼になる親は一定数います。これはもう、そもそもその会社に行って欲しくないという深層心理があり、それを肯定するために粗探しをしている状態です。
こういう親には、何を言ってもなかなか反対意見を覆せません。対策はズバリ「ノーガード戦法」です。つまり「何でも情報開示しますので、気になることは遠慮なくご質問ください」とオープンになることです。
会社によっては「いつでも会社訪問ウェルカムです」というところもあります。実際に来社する親は少ないですが、そういう姿勢が「大丈夫」という安心感を生むのです。
親への配慮は学生の好感度を上げる
少子化でひとりっ子の多い今の若者世代は親との結びつきも強く、自分の就職であっても親にきちんと認めてもらって歓迎されたいという気持ちがあります。親へ配慮することは、一昔前なら成人である学生を子ども扱いするようで、採用担当者も気が引けたと思います。
しかし、今はむしろ会社が自分を大事にしてくれていると学生が重要感を持つスタンスです。大切なご子息、ご令嬢を預かるのだから親への配慮や情報提供は当たり前と考えて、むしろ企業側から学生に「きちんと親御さんにも説明して納得してもらってくださいね」と伝えるべき時代になっているといっていいでしょう。それぐらい親への情報提供は重要なものです。
【筆者プロフィール】曽和利光
組織人事コンサルタント。京都大学教育学部教育心理学科卒。リクルート人事部ゼネラルマネジャーを経てライフネット生命、オープンハウスと一貫として人事畑を進み、2011年に株式会社人材研究所を設立。近著に『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)。
■株式会社人材研究所ウェブサイト
http://jinzai-kenkyusho.co.jp/