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ストレス耐性が高い人しか入れない会社は、なぜ「採用力」が落ちてしまうのか?

ここ20年ほどで企業内のメンタルヘルスが社会問題化してきたこともあり、「ストレス耐性」(ストレスに強いこと)を採用基準とする企業が増加してきています。しかも選考初期の入り口の段階、例えば最初の適性検査などで「敏感性」や「自責性」「内向性」などの尺度の得点を用いて「足切り」をするところも少なくありません。

メンタルヘルス問題を「元から断つ」ということなのでしょう。背景には「ストレスに弱い人が会社に入らなければ、メンタルヘルスの問題は起こらない」という考えがあります。しかし、こういう選抜方法は「働きやすい職場」を本当に生み出すのでしょうか。私はいくつかの点で落とし穴があると思います。(文:曽和利光)

メンタル面で問題が起こる人は必ずしも無能ではない

繊細な人を排除して大丈夫なのか

繊細な人を排除して大丈夫なのか

私のまわりには会社の同僚や友人、親族も含めてうつなどの精神疾患を患ったことのある方が多く存在しています(今では珍しくもないと思いますが)。彼らは総じて真面目で優秀であり、それがゆえにストレスを溜めて、発症したというケースが大半でした。

責任感の強さゆえ、限界まで頑張りすぎてしまったり、感受性の強さゆえ、社内のステークホルダーそれぞれの相反する思いを一心に受け止めてしまい悩んだり、といった感じです。しかし、だからこそ彼らは社内で様々な価値ある仕事を成し遂げていました。

こういう人たちを入り口で排除してしまったら、もちろん彼らの仕事の成果もなかったわけです。そんなに才能を無下に見逃せるほど、よい人を採用できている企業は一体どれだけあるのでしょうか。

多くの採用担当者は、ストレス耐性を判別する尺度があると単純に思っています。もちろんストレスを必要以上に感じてしまう性格や純粋な体力、気晴らしできる趣味の有無など、ある程度ストレスに立ち向かうことができる能力やスキルは存在していると思います。

しかし、それがどれだけ決定的なものかというと、疑問を抱かざるをえません。私自身の経験で言うと、以前ある会社で、メンタル発症者とある適性検査との相関を見たのですが、どの項目においても明確な相関はありませんでした。つまり「誰でもうつになりうる」ということなのです。

メンタル問題は「組織への警鐘」と受け止めるべき

また、別のある会社では、高いストレスを抱えていると判定された人は、個々人のパーソナリティに特徴はなく、所属するチームの構成員同士の相性が悪いところばかりでした。つまり「個ではなく、組織(の組み合わせ)に問題がある」ということです。

このことからも、適性検査などで個々人の特性だけにストレス耐性の原因を見ようとする人は、もっと大きな組織要因を見逃してしまうように思います。本来なら組織を変えるべきところを、「そんな組織の問題があっても耐えられる人を採用」することで解決しようとしてしまうからです。

別のいい方をすれば、メンタル問題は組織からの警鐘であり、それがなければ組織の問題に気付けないということもあるということです。

ストレスに強い人は、裏を返せばあまり危機感を強く感じない人かもしれません。そして組織問題を放置すれば、必ずどこかで綻びが生じることでしょう。創造性の欠如、組織の一体感の喪失、モチベーションの低下、それらが最終的には売上の低下などに結び付き、「メンタル問題は起こっていないが、会社は傾いていく」ということにもなりかねません。

そこまでいかなかったとしても、ストレスに強い人ばかりどんどん入社してくれば、拡大再生産的にストレス耐性の強い人「しか」入れない会社になっていきます。

ストレス耐性が低い人でも働ける「多様性」が必要だ

ストレス耐性の強さの原因には本当は様々なものがありますが、わかりやすい例で言うと「鈍感な人」しかいない会社になってしまったら、敏感性の高い人にとってはいつも周囲の鈍感さにイライラしなければならない地獄のような職場になることでしょう。

しかし、世の中にストレス耐性の強い人は一定数しか存在しません。あるいは他の能力に目をつぶって、鈍感力を重視する採用をしなければならなくなるとすれば、それは優秀な人材がなかなか採れなくなるということです。

以上のようなことを考えてみると、当たり前の話なのですが、やはり組織には多様性が重要で、それは「ストレス耐性」のような一見すると「そりゃ、あるほうがいいよね」と思われがちなものについても当てはまるのではないでしょうか。極端に言えば「ストレス耐性が低い」人でも、一定数必要だということです。

重要なのは、いくつかの求める人物タイプがどのぐらいずつ必要なのかという「ポートフォリオ」で考えることです。その際、「ストレス耐性が低い人」というレッテルを恣意的につけて排除することなく、本当にそういう人が必要な役割が会社の中にないのかどうかを考えてみていただければと思います。

あわせてよみたい:「みんなちがって、みんないい」職場を実現するために

 

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