母性愛の発祥は2億5000万年前? 手がかりは卵を産んで母乳で育てる「ハリモグラ」
先日、思わず釘付けになってしまうテレビ番組が放送されていた。6月7日(日)放送のNHKスペシャル「生命大躍進」の第2集「こうして”母の愛”が生まれた」(NHK総合)である。冒頭からめちゃくちゃリアルなCGで3億年ほど前に現存していたとされる古代生物の動く様子が惜しげもなく披露される。
かと思えば、男性なら9割がファンといっても過言ではない新垣結衣が一人二役で登場。太古にロマンを馳せながらガッキーを見ることもできるという、このコンセプト! 一発で気に入ってしまったよね。(文:松本ミゾレ)
進化の過程で「母と子の関係」が様変わり
この放送のテーマは、母性愛の発祥時期について。元々は卵を産んでいた哺乳類の祖先にDNAの異変が起き、お腹の中で子を育て、出産してからは母乳を与えるように。それによって母と子の関係が様変わりして、深い「母性愛」が生まれたというストーリーだ。
番組ではその時期を、2億5000万年ほど前であったと説明していた。手がかりを探しに行ったのは、南アフリカ共和国のカルー盆地。ここには恐竜時代が全盛期を迎える以前から繁栄していて、数多くの古生物の化石が発掘されているという。
その古生物の一種キノドンは、現在の哺乳類のご先祖さまともいえる動物だ。発掘されたキノドンの化石の中には、親と子が寄り添うような姿のものがある。まるで哺乳類の子育てのようにも見える化石だが、番組でもキノドンが今の哺乳類のように子育てをしていた可能性は高いと説明している。
なぜそう仮定付けられるのか。そのヒントとなったのが、ハリモグラだ。オーストラリアに生息しているこの動物は、モグラなのかネズミなのかよく分からない見た目をした、ちょっとブサカワな哺乳類だ。
このハリモグラには、面白い特徴が備わっている。分類としては哺乳類でありながら、なんと出産ではなく産卵をする。しかもハリモグラには乳首がなく、授乳の方法も一風変わっている。卵のカラを割って誕生したわが子を抱く母親の腹部全体から、母乳が汗のように湧き出るのだから。
殺菌成分を含んだ「母乳」が母性愛の原型
ハリモグラの卵生という性質と、乳首を持たずに授乳を皮膚から直接染み出る母乳で行うという特長は、哺乳類のご先祖さまのとった子育ての方式と大きく違いがないのではないか。
科学的な証拠もある。哺乳類の母乳に含まれる、甘みをもたらすαラクトアルブミンと酷似したDNA配列の物質に、リゾチームという殺菌成分を含有した物質があり、これをハリモグラが分泌していたのだ。
いまだに卵生で、進化を途中で放棄したような奇妙な生態を持つ原始的な哺乳類のハリモグラ。そのハリモグラの体内から検出される2つの物質のことを鑑みると、2億5000万年の昔に生息していたキノドンの体内で、リゾチームがαラクトアルブミンに派生したと考えても不思議じゃない。
しかもリゾチームは前述のように殺菌成分を含んだ物質で、卵を抱える母親が体外に分泌してばい菌から卵を守るために役立つ。卵を大事に抱えて外敵から守るその性質こそ、まさに哺乳類としての母性愛の原型だろう。
次回は7月5日放送予定
長い間急激な進化をすることなく、限られた地域でひっそりと生きてきたハリモグラだけど、実際には哺乳類の歴史を調べる上で、とても貴重な生き物だったようだ。
生きた化石として知られるシーラカンスや、非常に原始的な形態のまま生き延びているカブトガニ、オウムガイなどは僕らもよく知っていた。しかしまさかハリモグラが哺乳類のご先祖さまとよく似た生態を持つ動物だったとは……NHKスペシャル、ありがとう。なお、次回第3集の「ついに”知性”が生まれた(仮)」は7月5日(日)放送予定とのことだ。
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