「本能寺の変」ですら面白くならない『どうする家康』にガッカリ
23日放送の第28話「本能寺の変」では、史実通り家康が堺入りする。その堺で待ち受けていたのが、信長の妹であり、過去には自分の夫である浅井長政が非常に雑な形でドラマから退場させられたお市(演:北川景子)であった。
お市は家康に対して、信長がたった1人信頼している友人は家康だけ。そしてその家康も自分と対立しようとしているというような話を言って聞かせる。ドラマを観ている視聴者にとっては、この関係性が理解できるし、信長の屈折した愛情表現も嫌と言うほど見せつけられてきた。
だけどそれを、これまでろくに出番がないお市が知っているというのは、どういうことなのだろうかと首をひねってしまった。
あの信長が、別の場面でお市に家康への情愛を語るなんてことはしないだろうし。で、家康も家康で、そんな話を聞かされると稲妻に打たれたみたいな表情になってしまい、なんと、これまで茶屋四郎次郎(演:中村勘九郎)や服部党、伊賀者たちに散々襲撃の準備をさせていたにも関わらず、本能寺への攻撃を戸惑うのであった。
ほんとこのドラマの家康って、優柔不断と言うか最後に意見を聞いた人間の意思に流されると言うか、煮え切らないお殿様だよね。2話前に「わしは信長を殺す」って凄い目つきで主張していた男はどこに行ったんだよ、キャラが違うじゃないか。
「本能寺の変」の演出がやっぱり変
本話ではとうとう、信長が本能寺で倒れる描写も用意されている。家康に、天下を背負う覚悟があるなら本能寺に来いと誘っていた信長は、就寝中に敵の気配を察知して起床。しかしこの際に負傷してしまう。が、一見致命傷に見えるこの傷を負ってからの信長の、強いこと強いこと。
体に刺さった刀を抜き取ると、血まみれの寝巻のまま襲撃に対して打って出るのである。槍を持てば圧倒的な殺陣を披露し、まとめて甲冑を着込んだ敵を3人一緒に串刺しに。この殺陣こそ、本話最大の見せ場である。
とにかく暴れて暴れて、なかなか死なない信長。寝巻はどんどん血に染まるが、それでも信長は倒れない。なぜなら信長は、今宵の襲撃相手が家康だと思っているからだ。家康は、前回の放送で「弱きうさぎが、狼を食らうんじゃ」と信長の耳元で囁いていたので、信長も実際に仕掛けてきた敵を徳川軍と思っているのである。なのでなかなか倒れない……ということらしい。
が、結果としてこの夜に本能寺を襲ったのは明智光秀(演:酒向芳)。史実だとたしか、敵襲の際の旗を見て明知が攻めてきたと察知した信長は「是非に及ばず」と発言したとされている。
しかしながらこのドラマでは、恐らく家康が攻めてこないと「是非に及ばず」と言っても仕方がないという判断だったのだろう。だからこの名言もない。「人間五十年~」もない。さらに襲撃も終盤。いよいよ追い込まれた信長たちだが、その寺の敷地内に何故か光秀がわざわざ立ち入って憎まれ口を叩くシーンがあった。
謀反の首謀者が後方指揮を取らずに、いちいち敵将の目の前まで肉迫するって描写はまあ漫画とかなら面白いっちゃ面白いけど、普通に考えればあり得ない。まして光秀は当代きっての教養人。兵法にも理解のある人物だったわけで……。
結局、襲撃が家康の主導ではないと悟った信長は、燃え盛る本能寺の中に引きこもる。
なんで「本能寺の変」と「伊賀越え」が同時進行みたいになってるの?
一方で堺に逗留していた家康は、「本能寺の変」の発生を知り、既に明知軍が家康の首を取るための号令を発したことを知ると、慌てて浜松に戻るための逃避行に移る。……え、ちょっと待って。
「本能寺の変」は1582年6月2日に勃発している。対して家康の「伊賀越え」については、堺を出立した日にちこそ同じ6月2日であるが、家康がその第一報を聞いた時点で、既に信長は命を落としていたと考えるのが自然。
なのに本話では終盤、本能寺で家康の名を呼ぶ信長と、「伊賀越え」の最中に襲って来る追手と格闘しながら信長の名を心の中で呼ぶ家康。これが本当に何度も何度も演出されていて「え。なんで同時進行みたいになってるんだ。あとお互いの名を呼びすぎじゃない?」と冷めてしまった。
時間軸を行ったり来たりするのがこのドラマの特長だけど、さすがにこれは行き過ぎてて冷める。延々お互いの名を呼び合うって演出もちょっと冗長でダレてたし。別に「絶対に史実通りの演出をしてほしい」とまで言う気はないけど、それでも最低限、時系列を追ってドラマを作って欲しいなぁ。
次回は本格的に「伊賀越え」を描くことになる。家康三大危機の大トリを飾る逃避行。来週は面白いといいなあ。