『どうする家康』にまたガッカリ 秀吉の「中国大返し」を丸ごと省く駆け足展開
戦国時代を舞台とした大河ドラマにとって、一番の見せ場はやっぱり合戦シーンではないだろうか。しかし今年の大河『どうする家康』では、局地的な小競り合いは描かれても、歴史にも名高い合戦シーンの再現となると、武田信玄相手に大敗を喫した「三方ヶ原の戦い」ぐらいしか記憶に残っていない。
そうかと思えば序盤の「三河一向一揆」はめちゃくちゃ丁寧に描かれていたので、なんかバランスが悪い。既に本作では家康にとって有名な合戦であるはずの「金ヶ崎の戦い」が、“なんやかんや”というナレーションの一言で片づけられてしまったことで一部ファンの不興を買ったが、同じようなことがまた起きた。
天王山の戦いとして知られる、羽柴秀吉(演:ムロツヨシ)と明智光秀(演:酒向芳)の対決が、丸ごとカットされちゃったのだ。(文:松本ミゾレ)
せめて光秀の動静ぐらいしっかり描こうよ…
7月30日放映の第29話「伊賀を越えろ!」は、徳川家康三大危機として今も語り継がれる絶体絶命のピンチをドラマでもしっかり再現したものになっていた。
甲賀衆、伊賀衆それぞれの派閥もちゃんと出て来るし、家康(演:松本潤)が命の危機に瀕した際には家臣の安堵を要求するなど、一端の主君らしい姿を見せるところもあった。これまでずぅっとウジウジ泣き言を吐いては家臣に庇護されていた姿を思うと、これだけでも観た甲斐があったと感じる。
一方で残念だったのが、信長の死を知った秀吉が、攻略中であった毛利と速やかに停戦し、京に引き返して光秀打倒を狙う「中国大返し」が一切描かれていなかった点。
光秀が決起し「本能寺の変」におよんだのは1582年6月2日。本作でもわざわざ日付をテロップ出ししてから謀反のシーンが描かれていたので、光秀が死んだとされる6月13日ごろまである程度はしっかり描くと思っていた。
というのも、今回のメインは家康と家臣団の決死の伊賀越え。伊賀越えで1本使うなら、光秀の死については、勝手に翌週に持ち越すものと考えていたのである。
ところが蓋を開けてみれば、終盤に海に出て浜松への帰還の目処が立った徳川勢たちのほのぼのシーンの直後、山中を光秀が単身でうろうろしている。ここで、超絶ヤバい予感が頭をよぎった。
こういう嫌な予感って、大概当たるもんだ。直後に光秀は落ち武者狩りによってめった刺しにされてしまい、その首は秀吉の実検を受けることとなる。家康らが海路での帰還に及ぶのは6月5日ごろのことなので、丸々1週間近い時間短縮が、この一瞬のうちになされたというわけだ。
つまりこの時点で、秀吉が大軍を率いて信じられない速度で光秀討伐に打って出た一連の動きや、光秀も安土城に入って、その財宝を謀反に加担した味方に配ったり、朝廷の使者に銀を献上して自分の世づくりを狙っていた動きなんかも、カットされたのである。当然、そんな両者の直接対決もカットだ。
「山崎の戦い」、家康には関係ない戦だけど観たかった…
秀吉と光秀はそれぞれ大軍を率いて激突している。有名な「山崎の戦い」だ。この戦いにあたっては秀吉が、主君への忠誠を改めて誓い、なおかつ自ら退路を断つ目的で髻を切り落として背水の陣で挑んだとされている。
一方で光秀も、ここに至るまでに筒井順慶への協力を仰ぐも見限られたりと右往左往していた。ところが本作の光秀はランジャタイを吸ってご満悦だったり、家康の首実検のために山中にいつまでも陣を置いていたりと、危機感が薄い。
しまいには落ち武者狩りに囲まれたとき、聞かれてもいないのに自分が明智光秀ではないと主張するなど、徹底した小悪党っぷりを見せていた。
僕、個人的には本作の光秀のキャラクターって大好きで、演じている酒向芳のファンになっちゃったぐらいなんだけども、それでもやっぱり、しっかりと合戦で秀吉と根競べをしたうえで敗れ去る光秀が見たかったなぁ。
せっかくの戦国大河なのに、こんなに大規模な合戦シーンを見せてくれないなんて、フラストレーションが溜まる。