しばしば「ださいたま」と揶揄されることのある埼玉県(主に同県民から自虐の意味で)。映画『翔んで埼玉』では埼玉県民は通行手形がなければ東京に行くことは出来ず、強制送還されるなど”埼玉イジリ”満載で話題になった。
しかし、鉄道事情にも詳しい恋愛コンサルタントの鈴木リュウ氏は、「埼玉はひとつではありません」と話す。都心への交通アクセスや利便性だけでなく、文化面も違うため、埼玉県をひとまとめにするのは内実を大きく見誤ることになるという。
「埼玉は『都心のベッドタウン』と言われますが、中でも京浜東北線、埼京線の川口・戸田・蕨・浦和・大宮与野は東京へのアクセスも良好。その近辺に実家がある人、特に女性は、ひとり暮らしをせずに実家から通勤・通学するケースが多いですね。その中でもひときわ異彩を放っているのが浦和です」
「出身地を聞かれると、県名ではなく『浦和です』と答えがち」
浦和駅には湘南新宿ラインと上野東京ラインが通っているので、東京の東西エリア両方に簡単にアクセス可能だ。新宿・渋谷・東京といった主要駅まで30分前後で到着し、都心なら大抵の場所に1時間以内で行ける。
鈴木氏は、そんな浦和に「浦和問題」があると指摘。通常、地価は都心から同心円状に安くなるが、浦和だけ例外で高くなっている。それもあり「浦和在住者は『浦和だけは特別』とアンデンティティを感じる人も多いようです。この現象を浦和問題としています」という。
「『浦和ってさいたま市の一部でしょ?』と思うかもしれませんが、そう言われると不満な浦和民もいるでしょう。一言で言えば、浦和は『埼玉の横浜』。出身地を聞かれると、県名ではなく『浦和』と答えがち」
浦和に住む人々は、横浜市青葉区と”在住者の収入面”で似た特徴を持つという。ライフルホームズによると、青葉区民の平均世帯年収は699万円、浦和区は665万円で、文京区(684万円)や世田谷区(655万円)、渋谷区(646万円)など都心に匹敵する。鈴木氏は、
「浦和には、都心にあえて住まないという選択をした高所得者が多いんです。さらに一部地域は都内の板橋区・北区よりも土地の価格が高いです。それほどブランドとして確立されている街なのです」
名門「常盤中」「岸中」に子どもを通わせたくて引っ越す人も
通常、都心のアクセスを考慮すると浦和より東京寄りの川口の戸田のほうが地価は高そうだが、そうはなっていない。鈴木氏は次のように説明する。
「神奈川県の鎌倉と川崎の関係を考えればわかりやすいです。たしかに川崎は都心まで20~30分で、鎌倉は1時間ほどかかります。それでも、湘南の海が見下ろせる高台や、その土地の歴史や風土、そして何よりそこに住む人の文化資本の高さから”あえて”鎌倉を選ぶ人がいます」
浦和には、さいたま市立中央図書館などの大きな図書館、埼玉大学、埼玉県近代美術館などがあり、文教地区としても栄えている。
「商業都市の大宮に対し、官公庁や文化施設が多いのが浦和です。鎌倉同様に文化資本が充実しているためアクセスは川口のほうがよくても、子どもの学習環境などを考慮して”あえて”浦和という人も多いです」
浦和は、東大進学率が毎年全国トップレベルの浦和高校のほか浦和第一女子高など、首都圏の中でも存在感のある公立高校を擁する。そうした高校に合格者を送る”名門公立中学”の存在も際立っている。
「浦和高校生の出身中学は、公立中だと浦和エリアにある常盤中や岸中が目立ちます。こうした中学は、中学受験のときに都心の私立中高一貫校に不合格だったリベンジ組が多いのが特徴です」
そのため、子どもを両校に通わせたいと通学区域内に引っ越す親もいる。鈴木氏は「これが結果として地価を上げることにつながっていますね。浦和に一軒家を建てて住宅費が高くなっても、公立なので教育費は抑えられます」とコメントする。
浦和は”隠れ金持ち”エリア?「大宮が埼玉の新宿なら、浦和は広尾であり永田町」
そんな浦和には、投資家や経営者、マスコミなど大手企業の会社役員が多く住んでいるという。都心では目立ちたくない「隠れ金持ち」が集まっており、「浦和在住者が『埼玉でもほかと一緒にしないで』と口にするのも、この点があるのではないでしょうか。大宮が埼玉の新宿なら、浦和は広尾であり永田町でもあります」と語る。
「今都心に住んでいて、遊ぶのは飽きたし、仕事もテレワークが増えたという人で子どもがいる人は浦和に引っ越してはどうでしょう。家族で快適かつ文化的な街に住みたいという人は”埼玉のエスタブリッシュメントが集う”と言っても過言ではない浦和移住をおすすめします」