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「無痛分娩は痛くない」は嘘!人生最大の痛みだった “無痛分娩で産んでみた”レポ後編

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麻酔を使い痛みを緩和しながら分娩する無痛分娩。“無痛”という言葉が独り歩きして、世の中には「無痛分娩は痛くないから甘え」「痛みを感じてこそ母になる」と声高に叫ぶ人もいる。

筆者も昨年妊娠し、病院で説明を受けるまで、無痛分娩は最初から最後まで痛い瞬間がないと思っていた。しかし、まったくもってそんなことはなかった。「無痛分娩は一部痛くないだけで、陣痛や産後の痛みは自然分娩と同じ」と言いたい。後編では、実際に産んでみたレポをお伝えする。【文:市ヶ谷市子 / 医療監修:森女性クリニック院長 森久仁子医師】

銃で撃たれた腹を抑え、息も絶え絶えにゆっくり歩くようにPCR検査室へ

筆者は、計画無痛分娩で産むことにした。計画分娩とは、分娩する日を決め、その日に陣痛促進剤を使って陣痛を起こし、お産を始めるというもの。自然分娩では妊娠40週を出産予定日とするが、筆者は38週のある日に産むことにした。夫と「育休取り始める日の計画が立てやすくていいね~」と話していたのを覚えている。

計画無痛分娩の流れはこうだ。分娩日の前日に入院し、点滴をしたり麻酔の効きをチェックしたりする。当日に人工破水をさせ、陣痛促進剤を点滴で入れる。陣痛が始まったら、麻酔を開始する。麻酔法は硬膜外麻酔で、背中から管を入れ、脊髄すぐ近くの硬膜外腔に麻酔薬を注入する。麻酔用の管は背中から体外に出ており、持続的に麻酔薬を入れられる。

しかし初めての出産では、最大10センチほど開く女性の子宮口が、5センチ開くまでは麻酔を入れてもらえない。そして分娩。会陰が裂けたら縫って終了だという。

どうやら無痛分娩でも、陣痛は絶対に経験しなければならないようだ。でも、このとき筆者はまだ、「一番痛いのは産む時だろうから余裕っしょ」と思っていた。

それが誤りだと分かったのは、分娩予定日の10日前だった。規則正しい間隔で痛みが来て、だんだんその間隔も短くなり、これはもしや陣痛では……?と産院を受診した。その時点で子宮口は2センチほど開いていたが、先生は「初産婦だから今日は出産なさそうかな。前駆陣痛(本陣痛の前の陣痛)かも。帰ってもらって大丈夫」とのこと。

コロナ禍だったため「いつ入院してもいいようにPCR検査を受けて帰って」と言われ検査室に向かうが、中々たどり着かない。10歩くらい歩くたびに激痛が走るのだ。よく映画などで銃で撃たれた腹を抑え、息も絶え絶えにゆっくり歩くシーンがあるが、あんな気分だ。少し耐えると動けはするので牛歩のごとく検査室へ向かうものの、痛すぎてすぐに立ち止まってしまう。やっと着いて、PCR検査のために唾液を出そうにも痛すぎて出ない。呼吸すらどうすればいいのかわからない。冷や汗がダラダラ流れる。ひたすら痛みを耐えることしかできない。絶対これ陣痛じゃん。

結局、PCR検査が陰性なら入院できることになったが、結果を待っている30分が地獄だった。牡蠣にあたってひどい下痢でトイレから出られなかったときより、お腹の中を鬼のこん棒でぐちゃぐちゃにされたような生理の痛みより格段に痛い。「ウー、あ~~~……ッウウウウ!」といううめき声が止まらない。結果は陰性で、やっと麻酔してもらえる!と思ったが、麻酔を入れる時がまた痛い。すでに人生最大の痛みを味わっているはずなのに、背骨に針を刺された時に絶叫した。陣痛とは違う激痛が走った。神経に触れるというか、とても不快な痛みだった。

陣痛は1分間隔で来た。しばらく呻いたら少しマシになって、呼吸が整いそうと思った時には次の陣痛が来る。この繰り返しだった。麻酔が効くまでどれほど掛かったか覚えていないが、気が付いたら痛みは消えており、やっとまともに呼吸ができるようになった。効いた頃には子宮口は9センチ開いており、ほぼ全開だったようだ。

麻酔が効いた後は、さっきまでの堪え切れない呻きは何だったのかと思うほどケロっとした。赤ちゃんの様子をモニターしたり内診で確認したりしていたが、暇なので夫や友人にLINEしていた。当時のトークを見返すと、

「自然分娩した人ヤバすぎ」
「今後『産みの苦しみ』とか陣痛感じたことないやつが言ったらキレると思う」
「無痛の麻酔、クッッッッソ痛かった」
「お腹すいた」

と麻酔の前後での落差がすごい。

予定していた順番と異なるが、この後、人工破水をさせ、麻酔が効いてから約3時間後に筆者は分娩室へ向かった。

股を縫われたが何も感じない。麻酔ありがとう……と思った瞬間だ。

分娩では陣痛の波に合わせて腹圧をかける、つまりいきむ必要があるが、筆者は陣痛を感じないためタイミングがわからない。そのため先生に「はい今いきんで!」と言われたら力を入れるが、麻酔で下半身に力が入らないので、いきむのが難しかった。

「もうすぐ産まれますよー!」と言われ、何度目かのいきみでズルッと出た気がした。麻酔が効いてからは全然痛みもなく、なされるがままにしていただけだが、「元気な赤ちゃんです!」と顔を見せられたら泣きそうになった。子は助産師さんたちに体を綺麗にしてもらっている間、「よくがんばって産まれてきたねえ」「よかったねえ、かわいいねえ」と、たくさんの祝福の言葉をかけられていて胸がいっぱいになった。

その状態で裂けた股を縫われたが、麻酔が効いたままなので何も感じない。というか私の股は切られたのだろうか?自然分娩の友人は出産前に切ったというが「陣痛が痛すぎて痛くないって聞いてたけど普通に痛くて叫んだ」と言っていた。麻酔ありがとう……と思った瞬間だ。

分娩室から出て、改めて子と対面した。よくぞ無事に生まれてきてくれた!と嬉しかったし、これからよろしくねと伝えた。筆者はまだ起き上がれないので、助産師さんたちが子をお世話してくれた。

筆者が出産した病院では、計画無痛分娩を選ぶ人がほとんどだという。帝王切開の人は歩行器を使ってしんどそうだったが、そうではない人は比較的元気のように見えた。見えるだけで、産後の体は交通事故と同等のダメージがあると言われているだけに、全然元気ではないのだが。

筆者も一定時間経ったら歩行ができるかの確認、食事、授乳……と産後の生活が始まっていった。その間も麻酔の管は背中に刺さったままで、翌日まで抜けない。産後は母体が急変し、激痛や手術などで麻酔を使う可能性もあるためだ。この背中に何かが刺さっている感が筆者は苦手だった。

大きかった子宮が急激に元の大きさに戻ろうとして痛みが生じる後陣痛もあったが、筆者が特に苦しんだのは股が裂けた痛みだ。まともに歩けないからゆっくり歩くし、まともに座れないので円座クッションが必要になる。トイレもしみるし、大をしたらまた裂けるのでは!?という恐怖もある。産後1か月経っても違和感があった。この状態での育児はしんどかった。

無痛分娩でも痛かったと言うと、親は「ほぼ普通のお産と一緒だったのね、よかったね!」

陣痛は経験したが、産んだ瞬間の痛みはわからない。でも陣痛の後、麻酔がなければ何時間も痛みが続いたと思うと怖すぎる。自然分娩の友人は分娩までに32時間かかったという。「叫びすぎて声が枯れた」「産むの辞めます!って言おうかと思った」とも聞いたので、産後は非常にお疲れだったのではないだろうか。

その友人は「陣痛で子宮口8センチから全開になるときが一番痛かった」と言っていた。それならば無痛分娩の筆者も、最も痛い瞬間の経験はしたのかもしれない。また無痛分娩に使う陣痛促進剤も、筆者は経験しなかったが、非常に痛いし苦しいという声も聞いた。無痛分娩の経験のない人が「無痛分娩は甘え」と言いたくなる気持ちもわかるが、無痛分娩が痛くないというのは誤りだ。

結果として、無痛分娩でよかったと思っている。筆者の場合は幸い大きな問題はなく、無痛分娩のおかげで比較的ゆったりした気持ちで出産できた。分娩前の実況中継LINEも楽しかったし、初めて子を抱いた時も疲れてヘトヘトではなく十分に生まれたてを堪能できたし、産後ハイもあるが怒涛の育児開始もやってやるぜ!と臨めた。育児が始まった時も、無痛分娩で疲労やダメージを少なくできてよかったと改めて思った。それにより「子に愛情を感じない」とも「母親になれていない」とも、子が生まれる前から1歳になった今までに一度も感じたことはない。

産前、筆者が無痛分娩にすると伝えた時には何も言わなかった筆者の実親・義実家だが、「計画無痛分娩のつもりが前倒しになっちゃって、ほぼ子宮口全開まで麻酔効かなかったんですよ~」と言うと、両者ともに「ほぼ普通のお産と一緒だったんだね、よかったね!」と言われ、モヤってしまった。親世代にはいまだに自然分娩至上主義というか、痛みを感じてなんぼという考えを持つ人も少なくはないのかもしれない。

とはいえ産むのは筆者なので、今後出産することがあり、金銭的・設備的に許されるのであれば迷うことなく無痛分娩を選ぶ。ただ、誰彼構わずに勧めたいわけでもない。考え方、体質や事情などもあるだろうし、メリット・デメリットを加味した上で、妊婦本人が納得のいく選択をしてほしい。

何よりお産に絶対はないので、無痛分娩を希望していても実際は自然分娩になったり、自然分娩を希望しても帝王切開になったりすることがある。どの妊婦もなるべく心身ともにストレスをかけずに出産をしてほしい。外野が「お腹を痛めて産まなきゃね」「無痛分娩だから楽だったよね?」「帝王切開って痛くないんでしょ?」とかいうのはお門違いにもほどがある、と心から思う次第だ。そもそも無痛分娩、自然分娩、帝王切開、どれであっても子どもを産むということには変わりはないのだから。

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