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接客サービスの現場では、ときに客の無理な要望にも応えようと奔走することがある。
「おい、食べにくいから箸くれんかな。日本茶も熱いのを頼む!」
本格フレンチレストランの静寂を破る、高齢男性の場違いな大声。大阪府に住む内藤さん(仮名、40代女性)は、接客業歴15年以上のベテランだ。彼女は過去に、お店のコンセプトを無視した要求をする「困ったお客様」に幾度となく遭遇してきたという。
理不尽な要求に対し、現場のスタッフはどう切り抜けたのか。編集部は内藤さんに詳しく話を聞いた。(文:篠原みつき)
「私は和食店へ走りました」
その出来事は2012年頃にさかのぼる。当時内藤さんが働いていたのは、現地式のマナーを大切にする伝統的なフレンチレストラン。客単価もディナーで8000円から1万5000円とそれなりの価格帯の店だった。
ある日の昼どき、高齢の夫婦が来店した。ランチコースを注文した男性は、無料の水とおしぼりでは満足せず、冒頭のように日本茶と箸を強い口調で要求してきた。
「お店の雰囲気に合わない大声で、たまりかねた上の人が、近くの和食店に急遽連絡を入れて、お箸を借りることになったんです。私は他のお客様に見えないように、トレーに白ナフキンをかけた物を手に、和食店へ走りました」
湯呑みや茶たく、ティーパック、さらに先を見越して爪楊枝まで隠して持ち帰ったという。それを提供された男性の反応はどうだったのか。
「待たされたことに文句を言われましたが、ご婦人は黙って目を伏せていました」
理不尽な要求だったが、その後のスタッフの反応は意外なものだった。
「海外のお客様も試したいかも知れないし、日本茶のティーパックとお箸は少しストックしておこうか、と決まりました。爪楊枝も専用のトレーに置いて、ご要望があればお出しできるように備えました。スタッフ誰1人、高齢男性の悪口を言わなかったのは、さすがだと感心しました」
クレームを前向きなサービス向上へと繋げたのだ。ちなみに、箸の調達に走った件は店内で伝説になったという。
「タバスコとバターをくれ」イタリア人シェフの店で起きた攻防
時は流れ、2017年頃。内藤さんはイタリア人シェフが仕切るリストランテで働いていた。ランチが2000円、ディナーは6500円ほどする店だったが、ここでも高齢男性による「場違いな要求」が発生する。
「ピッツァを注文された方が、タバスコが欲しいと言われました。でもシェフは、『ここはアメリカンダイナーでは無いから置いてない』ときっぱり。その代わり、唐辛子を漬けたオリーブオイルを提案しました」
「次にフォカッチャに対してバターをくれと言われ、これもオリーブオイルにデュカというナッツ類を砕いてブレンドしたものを添えて提供し、さりげなく説明の機会を作りました」
この対応に、お客の反応はどうだったのか。
「想像もしていなかった様子で、それならと楽しんで手に取っていただけました」
突発的なトラブルも「経験のうち」
当時、ホールスタッフで中堅バイトだった内藤さん。現在は販売職を6年、レストランを8年以上経験してきたベテランだが、一番困るのは「代案が用意できない時」だと語る。
「過去には、外国人観光客に牛乳の代わりに豆乳が欲しいと言われたのですが、近隣のどこにもなくて、お待たせしたあげく謝罪したこともあります。それでも、トラブルも経験のうちとして、個性的すぎるお客様の応対も結構楽しめました」
無理な要求すら柔軟に対応することにやりがいを感じている様子の内藤さん。接客の仕事をについて、こうまとめた。
「最初の1年くらいは予期せぬトラブルに耐性がなく使い物になりませんが、1人でほぼ全て対応できるレベルになる3年くらいは続けた方が良い気がします」
もちろん、理不尽な要求はクレームとして拒否したほうがいい場合もたくさんあるだろう。しかし内藤さんのように、理不尽さを受け止めることで成長できる、と感じて前向きになれる部分もあるのではないだろうか。
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