今から20数年前、自分が20歳そこそこの頃。社会人になって初めて1人で出席した会社の先輩の結婚式で、まさかの「ご祝儀なし」をやらかした。
恥ずかしながら、まったく悪気はなかった。ご祝儀を持っていくのが常識だということを「知らなかった・考えもしなかった」というのが正直なところだ。これぞ非常識の極みだろう。
芳名帳に名前を書いて手ぶらでお辞儀した私に、受付をしていた若い男性が、声にならない「えっ……」という戸惑いを示したことを覚えている。その直後、はじめてご祝儀というものを持ってくるべきだったと気が付いた。
見苦しいのを承知で言い訳をすると、当時はインターネットもなく「結婚式のマナー」や「ご祝儀の相場」を調べるという発想もなかった。当日は「何を着ていくか」「どうやって会場にたどり着くか」しか考えておらず、しかも、後から会社でご祝儀を渡すということもしなかった。先輩から何も言われなかったこともあり、そこまでやらかしても「ご祝儀」に対する認識が甘かったのである。
自分のやらかしを後輩に話したら、その後輩たちが……
思い返すと、日本はまだ景気が良い頃だった。自分がお金に困っていなかったこともあり、ご祝儀の金額うんぬんでそんな目くじら立てるものだとは、そのときもまだ思っていなかった。まあはっきり言えばポンコツであり、いま考えても先輩には申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
そして、数年後、この出来事が自分に返ってくることとなった。自分が結婚式を挙げた際、参列した会社の後輩4人からのご祝儀が「4人で1万円」だったのだ。つまり1人あたり2500円である。
受付に出されたのは本当に「後輩一同」とするご祝儀袋がひとつ。中身は「1万円が一枚」。たしか、ちゃんと新札だった。あまりのことに衝撃を受けたが、私は彼女たちを「非常識」と恨むような気持にはなれなかった。すべて私の人望のなさから来た結果である。むしろ「自業自得」とさえ思った。
結婚式の前、アホな私は先輩の式でのことを自分の失敗談として彼女たちに話したことがあった。「結婚式にご祝儀なしで出席する人だから、私達も少額でいいよね」と思ったのだろうか。
ただ当時は、大して世話にもなっていない先輩の結婚式に来てくれたというだけで感謝しかなかった。いやむしろ、1人2500円でもちゃんとご祝儀を用意してくれただけでありがたいのでは?という思いだった。なので、式の後でご祝儀について触れることもなかった。
常識を知らないと恥をかく上に、人望も得られない。その後も彼女たちとは職場で会ったときに軽く話すぐらいの関係性だったが、数年後会社を辞めた私は、彼女たちが結婚したかどうかすら知らないままだ。