日本グリーフ専門士協会のペットロス専門士で獣医師の先崎直子さんは、「ペットを亡くした人であれば、個人差はあるものの誰でもペットロスを体験するものです」と話す。
精神的には悲しさや、絶望、孤独、不安などを感じるだけでなく、「自分のせいだ」と責任を感じたり「◯◯のせいだ」と他人を責めることもある。
その上、不眠、食欲不振、頭痛、めまい、動悸、嘔吐、過呼吸など身体的な症状が出ることも珍しくない。ただでさえ心身的に参っているのに、集中力の低下からミスを頻発するなど仕事に影響が出る人もいる。
しかし、実際のところ、万人がペットロスのつらさを理解できるわけではない。ペットを飼ったことがない、動物が嫌いという人の中には「たかがペットが死んだぐらいで大げさな」と思う人も少なくはないだろう。
先崎さんは、「相手が人でもペットでも、喪失経験は大きなストレスになります」と話す。元から仕事や周囲に理解してくれる人がいないなどでストレスや重なっていた上にペットが亡くなると、ペットロスもひどくなる可能性もあるという。
「ペットは裏表がなく、無償の愛を示してくれる存在です。対人コミュニケーションでは得られない安心を得ている人も多いはず。仕事や人間関係などでのストレスを癒やしてくれていた存在が失くなると、さらにつらさが増すでしょう」
ペットロスになったら、まずは無理をせずに「自分はペットロスだ」と自覚して、自分をいたわることが大事だという。供養をしたり、アルバムを作成したりすることも気持ちの整理になる。最近では羊毛フェルトで生前の様子を思い出しながらペットのぬいぐるみを作る人も増えている。
「最も大切なことは、心を許せる人にペットロスでの悲しさやつらさなどを聞いてもらうことです。ペットが生きているうちから信頼して話せる相手との関係を築いておくと、亡くなった後も支えや癒やしになります」
ペットロスは誰しもがなるものだ。ただ、「その度合いはお別れが迫った時、納得がいく看取り方が出来たか否かが大きく関わってきます」と話す。
「最期は自宅で過ごさせる、可能な限り最高の治療をしてあげる、対症療法で痛みを取ってあげるなど家族で話し合って決めてください。その内容を動物病院に共有することも大切です。そこがうまく行かなくて後悔したという人も多いので」
「誰しもがペットロスになると思い、心の準備をしていてください」
ペットロスカウンセラーの川崎恵さんも「”ペットロス”という言葉が広まってはいますが、中々理解はされていません」とコメントする。
「”ペットは家族”と考える人も増えています。ペットを失くすことは大切な家族を失うことです。そのため、ペットと一緒にいる人をみるだけで怒りを感じる人もいるぐらいです。中には、持病が悪化したり、ペットの幻覚・幻聴を見たり聞いたりする人も。一度も死のうと考えたことがない人が希死念慮に駆られることもあります」
程度は人によって異なる。数か月で回復する人もいれば、1年以上かかる人もいる。ペットロスを軽減するために「誰しもがペットロスになると思い、心の準備をしていてください」と話す。
「ペットのほうが人間より寿命は短いと頭でわかっていても、うちの子はずっと一緒にいてくれると思ってしまいがちです。でも、タイムリミットはあります。一日一日幸福を感じて過ごしてください」
ペットロスになった人に、周囲の人は「次の子を飼ったら?」「そんなに悲しんでいたらあの子も成仏できないよ?」という言葉をかけがちだ。発言者からしたら励ましのつもりの言葉ではあるが、それでも川崎さんは「悲しむことや泣くことを我慢しないでください」という。
「それができないと余計悲しくなってしまいます。一人で抱え込まないことも大切です。もし周囲にペットロスになった人がいるのであれば、その人が亡くしたのは”最愛の存在”ということを覚えておいてください。自分の子どもを亡くした人に『早く元気になって』『がんばれ』とは言わないでしょう。相手の心境を想像して接してあげてください」
別れは絶対にいつか来る。それでも「ペットロスは悪いだけのものではない」と川崎さんは話す。「最愛の子だからペットロスになるんです。ペットを飼えない人もいる中、出会えたことが素晴らしいんです」とも語った。