高齢者介護事業を全国展開している株式会社ユニマットリタイアメントコミュニティ(以下ユニマットRC)。シニアの生活がより充実する社会を目指し介護事業を展開する一方で、事業領域を超えた取り組みにも果敢に挑戦している。
超高齢社会に突入したいま、介護業界が抱える人員不足や業務改善といった課題。それらを解消するべくユニマットRCはAI技術による介護業界全体の改革に前向きな姿勢を見せる。
「介護のイメージを変えていきたい」。経営企画室兼新規事業推進室部長の北郷 利幸さんはそう話す。介護業界全体を変えるDXとは。ユニマットRCの取り組みを伺った。(文:千葉 郁美)
ICT化の必要性が叫ばれる介護業界
国の総人口の21%以上を65歳以上が占める「超高齢社会」である日本。シニア層の増加やシニアの生活スタイルが多様化し、介護ニーズはますます高まっていくなかで、慢性的な人員不足の介護業界はデジタル化による業務の効率化が喫緊の課題だ。
介護業界においてデジタル化を推し進めるには課題が多い。介護福祉は行政主体であるために手書き書類によるやり取りが慣習化していることやシステム導入の費用など、デジタル化の一歩目を踏み出せない要因はさまざまだ。
「介護の現場は施設利用者の介助だけが業務ではなく、介護記録の作成や行政への申請書類の作成といったことも行っています。こうした業務を効率化させる必要性はもとより、現場の情報やデータがシステム化されていないことで、データの利活用ができていないということも課題でした」(北郷さん)
アナログな作業や管理をシステムで一元化する。そして有益なデータをしっかりと利活用する。そうした介護業界の課題解決に向け、ユニマットRCは2017年より業界の先陣を切ってデジタル化に踏み切った。
現場のITリテラシー向上とシステム化を同時並行で実施
ユニマットRCでは、膨大の書類作成業務や職員の勤怠などの業務管理を一元化して管理できるよう、システムを導入。これまで表計算ソフトで個別に管理されていた帳簿や手書きで作成していた書類のフォーマットがパソコンやタブレット端末で管理され、入力内容を標準化することで効率化も格段に向上した。
「システムを導入するにあたっては、職員のITリテラシー向上も行いました。介護の現場はパソコンやタブレット端末といったIT機器が得意ではない職員も多くいるため、業務運用ルールの変更なども職員の教育とすべて並行して進めました」(北郷さん)
介護現場ではシステムを導入しても使える人がいない、もしくは導入するための研修などに時間をかけられないという場合が多く、多くの介護現場がシステム導入に踏み出せない一つの要因にもなっている。ユニマットRCは人材の育成とシステム導入を同時にやり遂げた。
「システム導入は職員と歩調を合わせることに注意して進めました。IT機器に苦手意識を持っていた人も、いざやってみれば何度も手書きしていた作業がなくなり手間が減ることを実感します。システムを導入することで、自分たちの業務がどう変わるのかを同時に理解してもらうことができたと思います」(北郷さん)
基盤となるデジタル化を推進し、システム導入が完了するまでにおよそ2年。今ではしっかりと現場に定着しているという。
AIやロボットを活用して介護業界は次の世界観へ
システム導入によって得られたデータを利活用していくことも重要だ。ユニマットRCはデータの利活用に向けてAIの開発に積極的な姿勢を見せる。
2019年にはマクニカ社と介護ビジネスアプリを共同開発。AI技術を活用した「予約管理アプリ」や「持ち物記録アプリ」はショートステイの現場において業務効率化に寄与している。
また、NTTレゾナントとの共同開発した高齢者の行動パターン情報から生活機能の低下リスクを推定する機能「でんきゅうAIレポート」も興味深い。高齢者の行動パターン情報に着目し、認知症発症を予見するサービスの開発を目指している。
「こうしたデータは認知症発症の予見に限らず、さまざまな病気や生活機能の低下リスクなどを予見することなど、人の未来予測に役立ちます」(北郷さん)
データの利活用で人々の生活を支援することはもとより、AIやシステム化によって介護の現場で働く人たちの負担軽減につながることも大きな意味を持つ。
「介護の現場はどうしても人間がやらなければいけない業務はあるものの、そうではない部分はシステム化されて業務の効率化を実現できています。職員の働き方にも変化が生まれました。最終目標としては、働く人たちの育成やマネジメントといった部分もAI化していきたいですね」(北郷さん)
人々の生活をより豊かに、そして介護に従事する人々がより働きやすい環境に――。ユニマットRCはまだまだ進化し続ける。介護業界はデジタル化によって、もっと働きやすく、魅力的に変わっていくに違いない。