まず気になったが、業界の6割を超える「小さなアニメ制作会社」が、とても厳しそうな点だ。アニメ制作会社は、ざっくりいうと「元請け」「グロス請け」「下請け」という規模感に分かれる。
たとえばテレビアニメの場合、製作委員会から1シリーズまるごと仕事を受注する大手「元請け」。そしてTVシリーズなどの仕事を1話単位で請け負う「グロス請け」。そして、元請けから仕事を回してもらう「下請け」の専門スタジオという感じで、どんどん会社の規模感が小さくなっていく。
元請けの中でも、人気のある自社版権を持っている「大手」はまだいい。全体としてはやや減収だったものの、動画配信やグッズ販売などで持ちこたえ、黒字・増収のケースもあった。しかし、「中堅」以下はアニメーターの採用・育成コストやCG対応の設備投資などの負担が重くなってきているという。
日本動画協会の「アニメ産業レポート2020」によると、近年、大人向け作品の増加や地デジ化などでアニメ作品に高いクオリティが求められるようになっている。それに加え、高スキルのクリエイター不足や働き方改革などの影響で、制作費は上昇傾向にある。
下請けとしてアニメ制作に携わる「専門スタジオ」の多くは、シビアな現実と向き合っている。帝国データバンクのレポートによると、専門スタジオの2020年の平均売上高は3億800万円(前年比マイナス600万円)で、48.9%が「減収」となり、過去10年間で最悪の数字。さらに、42.6%のスタジオが「赤字」で、赤字割合は過去最高だったという。
アニメ制作会社は約300社あるが、6割超の会社が従業員20人以下。5人以下の会社も約100社ある。他のスタジオで経験を積んだ人たちが独立開業し、小規模で船出するというケースが多いのだが、今回の場合、積極的な人材登用やデジタル化への投資などを行っていたところをコロナによる受注減が直撃してしまった、ということのようだ。
中国の台頭もヤバい
もうひとつ、帝国データバンクの報告書で大きく取り上げられているのが、「中国」の台頭だ。日本アニメの制作に参加してノウハウを学んだ中国企業が高いクオリティの作品を出すようになり、これが「日本アニメと遜色ないレベル」になっているという。
実際、2019年に公開された映画『羅小黒戦記(ろしゃおへいせんき)ぼくが選ぶ未来』をはじめ、TOKYO MXで放映された『兄に付ける薬はない!-快把我哥帯走-』、『魔道祖師』、『天官賜福』、NETFLIXで配信されている『紅き大魚の伝説』などをみていると、中国アニメのクオリティが一昔前では考えられないレベルになっていることがわかる。
日本の業界も変革を続けている。日本アニメーター・演出協会(JAniCA)によると、2014年のアンケート調査では月平均262時間労働、平均年収332万円だった(平均34歳)のが、2018年の調査ではそれぞれ230時間、440万円(平均39歳)となっていた。しかし、2018年調査でも回答者の7割近くはフリーランス・自営で、正社員は14.7%しかいなかった。
日本に進出している中国のアニメ制作会社の中には、日本人を「同等以上」の待遇で、正社員として雇うケースもあるようだ。こうなってくると日本のアニメ制作会社はうかうかしていられないだろう。前出のJAniCAの報告書で「安心して仕事に取り組むために必要なこと」として、72.8%もの人が「報酬額が増えること」と回答していた。日本のアニメ業界はファンが知らない間に、変革待ったなしに追い詰められているのかもしれない。