住まい探しと資産運用が簡単にできる「RENOSY」を運営している株式会社GAテクノロジーズは、不動産業界のアナログな仕組みを変革するべく邁進する。
創業以来掲げるミッションである「テクノロジー×イノベーションで、人々に感動を。」与えるべく、顧客体験を最大化する透明でオープンな不動産取引の実現に向けてどのような取り組みを進めているのか。CMOの田吹 洋さんに話を聞いた。(文:千葉郁美)
アナログな手続き、分業制の不動産取引…煩雑さが課題
――不動産業界におけるDXの課題感はどのようなところにあるのでしょうか。
不動産業界は非常にアナログかつ分業制で、顧客体験の悪さが大きな課題だと認識しています。
不動産に関するプロセスは「知る・探す・比較検討・申込・契約」という4つで成り立っています。「知る・探す」の部分は、大手不動産ポータルサイトがたくさんの物件を掲載していて、多くの人がそういったところで物件情報を得ていると思います。便利な一方でお客様のジャーニーとしては、たくさんある不動産の中から何がいいのかがわからない。さらに、ポータルサイトで問い合わせをしようとすると、一つの物件に対して複数の不動産会社が紐づいていて、いろんな会社からいろんな電話がかかってしまうということがあります。
「比較検討」のために様々な物件の内見に足を運び、「申込・契約」の段になると契約のための必要書類がたくさん出てくる、金融の申込となると今度は金融機関が出てきて…という具合に、不動産取引にはプレイヤーが非常に多いですよね。顧客から見たときにまったくユーザーフレンドリーではない、というのが実情です。
この課題を解消するべく、全てオンラインで完結できるモデルを日本のユーザーに提供できる「RENOSY」というサービスをつくりました。基本的に、ユーザーがオンラインで全ての意思決定できる状態を作ろうと進めています。顧客に対してもフレンドリーですし、業界全体としても無駄なコミュニケーションがあったところに風穴を開けて、むしろ顧客に還元していくというような世界観を目指しています。
――「RENOSY」が顧客体験を変えていき、さらに業界を変えていくということですね。一方で、一気通貫にするためには「契約」の部分にも踏み込んでいくわけですが、それには金融機関との連携が不可欠で、容易くないとも思います。そうした課題はどのように解消するのでしょうか。
金融機関とのアライアンスは不動産において関連性が高くて重要度が高い部分です。僕らが不動産の販売をワンクリックで終わらせられるという開発を行っていても、連携する金融機関がまだ対応できていない、アナログな状態があります。
そういった金融機関に向けて、ローン手続きをはじめとする書類手続きを完全オンライン化し、非対面で実現できる「MORTGAGE GATEWAY by RENOSY(モーゲージ ゲートウェイ バイ リノシー)」というSaaSサービスを開発しました。大手の金融機関に実際に導入していただき、スピーディなローン手続きを実現しています。
社内の業務体制の変革にも課題
――アナログな業界かつプレイヤーが多い不動産取引において、サービスを展開していく上では様々な苦労があると思います。
不動産取引を一気通貫にする、と一言で話しましたが、これを実際にやるには一筋縄ではありません。不動産のビジネスプロセスはいわゆる業者側、社内のエージェントや、オペレーションをやる部隊があるのですが、ここの業務を全てデジタル化しなければいけないのです。現場からしてみれば、これまで慣れ親しんできたオペレーションを変えることは非常にストレスになりますし、本当はやりたくないのが本音だと思います。この業務改革はすごく大変でしたし、今も大変ですね。
――社内のデジタル化はどのように進められたのでしょう。
社内の変革に対しては、2つのアプローチを行っています。
1つは、ビジョナリーに理解をしてもらうこと。会社の創業以来の理念である「テクノロジー×イノベーションで人々に感動を。」というミッション、そしてRENOSYのプロダクトのミッション「住まい探しと資産運用を、もっとカンタンに。」。これらを、リアルとネットの人が一緒に達成するんだという会社組織の構築を経営的に取り組んでいます。
もう1つは、デジタル化による影響をデータで示す。経営理念やビジョンはわかるけれどなかなか実態感がないもので、コンセプトは理解できても納得はしないという状況があります。それに対しては、データがやはり、人を動かすには説得力がありますね。例えば、オフラインのものをオンライン(or デジタル)に変えたとき、実際にテスト的にいくつかやってどう変わったのか、インパクトと効果を皆さんに全て説明して、お見せしています。ここの変数がこうなるとこう変わるんだ、実際こうだったと。データをベースにすることで、変革への納得感を持ってもらい、みんなで取り組んでいこうという流れを作っています。
目指すのは「ワンクリックで完結する不動産取引」の世界観
――そうした取り組みによって、経産省と東証が選出する「DX銘柄2021」にも2年連続で選ばれました。今後のGAテクノロジーズはどのような展望をお持ちなのでしょうか。
大きく4つの展望があります。
1つ目は「ネットとリアル」の融合という部分で、顧客体験を最大化することをさらに突き詰めていくということです。
2つ目は、不動産売買の「ネットとリアル」を実現すること。マーケットプレイスという概念でいうと買い側と売り側とがありますが、今までの取引形態は不動産のオーナーが物件を売ろうとすると売り側の業者が出てきて、その後、買い側の業者が出てきて売り側・買い側の業者間で取引が成立するというモデルが一般的でした。これまで僕らは買い側のネットとリアルと強化してきましたが、今後は売り側のネットとリアルを強化していくことで、RENOSYがより透明性のあるサービス提供していくことができると考えています。
3つ目は、お客様からみてワンクリックで完結できるモデルをつくる、ということですね。ワンクリックとは時間的な意味合いというよりは、「全てをオンラインでやることで論理的にはクリック一個で終わらせられる」という状態を目指して進めています。当然、不動産なので高い買い物ですし、ライフスタイルを変える大きな買い物になるので、ワンクリックだけの選択肢を押し付けるのではなく、物理的・論理的にはワンクリックで完結する状態というのを提供したいと考えています。
そして最後に4つ目は、ファーストパーティでやってきた仕組みをサードパーティの人にも提供していくというモデルを考えています。
今はまず1つ目の段階です。4つ全てを実現することで業界全体を変えていく、それが僕らの掲げる「テクノロジー×イノベーションで人々に感動を。」というミッションの実現だと考えています。