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「モノ売り」から「コト売り」へ。重工業大手のIHIが挑む事業変革

常務執行役員・高度情報マネジメント統括本部長の小宮 義則さん

創業168年、国内の総合重工業を代表する株式会社IHIは、近年のDXの進展に加えてカーボンニュートラルなどの急速な市場変化によるビジネスモデルの変革やDXの加速に伴い、本来は2019~2021年度を対象としていた「グループ経営方針2019」を急遽見直し,基本コンセプトは継承しながら新たに2020~22年度を対象とした「プロジェクトChange」を発表した。

事業構造の変革から成長事業の創出に向け、とりわけ重要となるDXへの全社的な取り組みについて、常務執行役員・高度情報マネジメント統括本部長の小宮 義則さんに話を伺った。(文:千葉郁美)

事業変革にはDXが欠かせない

――御社では事業環境の急速な変化を受け、中期経営計画を一部見直し「プロジェクトchange」を発表されました。どのような背景があるのでしょうか。

もともとIHIは江戸時代に石川島造船所という社名で造船業から始まったのですが、現在に至るまでに立ち上がってきた事業部門というのは、基本的に造船の技術を展開していったという歴史的な経緯があります。航空機のエンジンやダムの水門のように大きなものを作って、B to Bで収めるという基本のビジネスモデルがありました。

世の中のデジタル化を受け、そうした製造業というのは「モノ売り」から「コト売り」へと転換をしていかなければいけない局面を迎えています。それがこのコロナ禍によって劇的にスピードを増しているという状況です。

ここ10年ほどの間に、当社と似たような事業部を持つ企業が製造業からエンジニアリング、もしくはソリューションビジネスの方に展開をしています。重工業という形態は、DXによってその方向にいかざるを得ない、ほとんど既定路線と言えるでしょう。

また、航空機エンジンやターボチャージャーといった燃焼系技術を扱う我々にとって脱CO2は、要は商売のネタがなくなりかねないという切迫した課題です。直近、そして将来に向けて数段階の転換、変革をしていかないと会社として生き延びることができないという危機感も抱えています。

そうしたことから中期経営計画を年度途中で改定し、基本コンセプトを継承しつつも環境変化に即した事業変革を実現するべく「プロジェクトChange」を発表しました。

「プロジェクトChange」の力点となるのは「成長軌道への回帰」「環境変化に打ち勝つ事業体質への転換」「財務戦略」「成長事業の創出」です。
これらの実現にはDXが欠かせないと考えています。変革をするには、これまで以上にデジタルの力を使わなければいけないというのは自明の理ということです。

DX推進を阻む「3つの壁」

――「プロジェクトChange」の実現に、DXの推進はとりわけ重要度が高いと感じます。取り組みを進める上での課題はありますか。

IHIグループの事業構造や業務プロセスを阻む3つの壁があります。一つは、感覚に基づくアナログな業務スタイル、もう一つは従来の「モノ売り」への固執、そして、事業ユニットや業務プロセスのサイロ化です。

IHIという会社は製造業にはありがちな村社会構造で、3つの壁を突破してDXを推進しやすい形に変えていくことは、歴史が古いだけあって難しさを感じているのが正直なところです。

それでも、6年前は40あったSBU(戦略的ビジネスユニット)を統合して、18にまで数を減らしました。しかし現在もなお、SBUごとに業務プロセスの「方言」が存在していて事業に関連するシステムが統一されていなかったり、専門性を重んじる人事政策によってSBU内部でも業務プロセスごとにサイロ化されていたりする。そうした部分をとにかく解消していく、ということがDXを推進する上でも重要になります。

DX推進を担う「LCBDX部」を新設し高い推進力で挑む

――全社的なDXに向けた改革の中でも、ビジネスモデル改革と業務プロセス改革におけるDXは、具体的にどんな取り組みをされるのでしょうか。

まずビジネスモデル改革においては、2021年4月にライフサイクルビジネスのDX推進役として「LCBDX部」を新設しました。社内外から人を集め、全社のライフサイクルビジネスの拡大を推進しています。
具体的には、各部門でお客様価値最大化のためのライフサイクル全体の包括的なサービス提供を実施、それを拡大していくこと、そしてお客さまや製品、稼働、保守情報を統合することで、新たな提案や効率化ができるようにする、という構想を進めています。

また、業務プロセス部分は「インデント系」「準量産系」「量産系」の3つに類型化し改革を推し進めています。

インデント系とは橋やボイラー、プラントといった設計や全てのスペックを一から作る事業です。製造する現場と建築現場とがきっちりと結びついていないと下振れを起こしてしまい、プロジェクトの遅れが出るということが起こってしまうんですね。デジタル技術を活用することで、そうした下振れの防止やリードタイムの短縮、生産性向上につなげていこうという取り組みです。

準量産系は、基本設計がある上でお客さまの要望に合わせたカスタマイズをする形のものです。カスタマイズ部分のすり合わせに時間をかけてしまって、結局コスト増になってしまったり失注してしまったりということがあります。共通する部分をできるだけ大きくして、お客さまに触れる部分はバリエーションを多くすることによってお客さまにとっての価値を上げていきたい。そのためには、ある程度の標準化をしていく必要があります。
全体のものの考え方やシステムについて、共通のものを使っていくことがポイントになります。

量産系においては、同じものを大量に作る上でスループットを上げることが重要です。そのためにはどのプロセスもなるべく同じキャパを持つようにすること、無駄なくリソースが活用されるということを実現したい。そのためには、どこでボトルネックが生じているかを見える化しなければ分かりませんので、それをデジタル技術によって見える化しながら即座に解消していくというところです。

ビジネスモデル改革、業務プロセス改革共に、データの利活用が非常に重要ですが、先にお話ししましたサイロ化した構造の中にデータが格納されてしまっていて取り出しづらい部分がいっぱいあります。それに加えて新たなお客様のデータも次々入ってくるわけですが、それをデータベースの形で収集して分析できるようにしておかなければ、インサイトに結びつかない。まずはお客さま関連のデータと業務プロセス関連のデータを収集し、これをうまく使えるような形まで持っていく必要があると考えています。データレイク構想について巷ではかまびすしいですが、まずはデータを揃えるところをしっかりとやっていこうというところです。

その時に縦と横のバリューエンジニアリング的な思想で、バリューチェーンを一気通貫にしたデータ連携を強化するのとともに、共通する部分を同じものとして捉えて標準化していく、それをしっかりと定着させたいと思っています。

――データの利活用がポイントになっていくのですね。成長事業を創出していく上ではどのような取り組みをされていくのでしょうか。

成長事業の実現には、お客様の捉え方の見直しも含め既存ビジネスモデルからの大胆な「トランスフォーメーション」が不可欠であると考えています。これにはデジタル技術が当然必要となりますが、各業務プロセスのデータやアフターも含めた顧客データを収集・分析するツールに加え、ビッグデータやAIなどを本格的に活用することも重要です。デジタル技術とビジネスモデルとの相互依存関係を検討しながら、具体化を測っていく必要があると考えています。

また、今後はIHIグループのデジタルアーキテクチャの構築が課題だと考えています。
従来のモノ売りからコト売りへ転換をするということは、お客さまの困りごとに対してどのようにソリューションを提供できるのかを瞬時に出せなければいけないということでもあります。我々はどんな情報やデータを持っているのか、それに対して何を自ら開発するのか、何をオープンイノベーションするのか、そういったことを整理する。そして図書館のように本棚に入れて、必要な時に誰もが取り出せる形にしていくことが必要になってくると思います。

これは最終的に、いわゆるデータレイクと呼ばれるものの基本的な構造になっていくんだろうと考えています。それを遠望、展望していますが、まだそこに行き着くまでにはいくつかのハードルを越えていかなくてはいけません。挑戦を続けていきます。

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