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サッポロホールディングスが取り組む「DXの下地作り」BPR・AIの活用でデータドリブンを目指す

改革推進部DX推進グループリーダーの安西 政晴さん

国内老舗ビールメーカーのサッポロビール株式会社を傘下に持つサッポロホールディングス株式会社は、2018年よりグループ全体のBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の取り組みを開始し、約2年をかけてDXのベースとなる業務改革やデジタル化を実現した。

グループ全体のDXに向けた推進力強化のために、2020年よりDX推進の場はサッポロビール社へと移された。BPRやAI活用に対する高精度な取り組みの裏側を、改革推進部DX推進グループリーダーの安西 政晴さんに伺った。(文:千葉郁美)

BPRはDXの下地作り

――サッポロホールディングス(以下、サッポロHD)はグループの長期経営ビジョン達成に向けた「グループ経営計画2024」において基本方針に「DX」を明記し、グループ各社の横断的なDXの取り組みを進めているかと思います。2020年のDX注目企業にも選定され、経営におけるDXの位置付けや業務プロセスの変革にRPAやAIを活用していることが評価されました。

これまで約2年かけてDXのベースになる業務の改廃や簡素化、デジタル化というBPRを推進してきました。
BPR自体は延々と続くものだと思っています。我々はオベレーショナル・エクセレンスを目指していますので、その活動自体は継続していきながら、その上にDXの戦略を講じていこうと考えています。

――まずBPRの取り組みについて、具体的にはどのように取り組んできたのでしょうか。

取り組みの特徴的な部分は、部門ごとではなく全社員の大きな傾向から無駄を発見していくというやり方にあると思います。業務効率の観点では、部署単独で解決できることばかりとは限りません。たとえば経理部門の業務に負担の大きい部分があったとして、前後全ての業務プロセスを可視化し繋がりを見て行かないと負担が大きい理由や問題点が見えず根本的な解決には至らないのです。

そのため、まずはビール社のほとんどの社員の一年間の業務内容と各業務の工数を調査しました。社員1人当たり規定時間内では1700時間強の労働時間になりますが、個人的に残業が多い社員は残業も含め、全労働時間の内訳を提出してもらい、各業務内容はヒアリングを実施し内容まで把握しました(これはRPAを使い集計しました)。

その中で、非効率的になっていそうな業務の大きな塊を見つけて、それに対してBPRを実施していきました。BRPのプロセスは、まずはその業務の「廃止」「標準化」「集約化」という『効率化できないか』という視点で進め、その後「外部化」「自動化(RPA等)」という『主体主の変更』と進めて行きます。

効率化できないのであればそれをデジタル技術でフォローするとかアウトソーシングするか、どうやったらその業務の負荷を減らし社員がコア業務(本来やるべき事)に取り掛かれるよう、業務工数全体をどう減らしていくかというところを実施しました。

――業務効率化にはどのような技術を導入しているのでしょうか。

主にRPAを活用しています。現在開発中のRPAを含め全体で5万5,000時間稼働していまして、かなりの稼働数になっています。これによって約30人以上の業務効率化を実現しています。

豊富なデータを活用しデータドリブン経営を目指す

――AIの活用についてはいかがでしょうか。

現段階でAIを活用して実施しているロジスティクス業務改革は試験段階といったところで、その他にも様々なことに挑戦しています。AIに対してはまだまだ勉強中な部分があります。

そもそもAIを使っていくために重要なのはデータであり、まずはデータを整理しなければいけません。実際に、AIを活用して小規模なPoCを実施していますが、小規模レベルのPoCでも入力するデータを収集するだけで170時間の工数がかかってしまったんです。それでは本末転倒であり、非常に大きな問題です。

AIを使うということは要するにそこに投入していくデータどう持つかであったり、いわゆる単純なIDやマスタ管理のようなコードの統一が必要性だったりと、そもそも整理できていない部分があるのではないか、というところに立ち返っています。

最終的にはデータドリブンな会社になっていきたいという思いがあるので、大きなデータレイク構想に向けた準備に注力している、という段階です。

――まずはデータの整備というところですね。どういったところから着手されているのでしょうか。

弊社のようなメーカーには各バリューチェーン段階(製造~販売まで)で豊富なデータがあり、活用の幅が広いのは確かです。
グループ全体の部署がデータ活用に課題を持っている状況ですが、まずは、メーカーとしての背骨に当たるサプライチェーン系のデータ整備からと考えています。それだけでも膨大なデータ量ではありますので、根気のいる作業となりそうです。

――こうした新しい取り組みを推進していく中で困難なことはありましたか。

データ活用をはじめとした新しい取り組みに対し、社内の理解度は低いのが実情です。しかし、一方で興味がある人にとっては、「打ち出の小槌」みたいに捉えている方もいるんですよ。「何でもできるんじゃないか」という期待度も高い。一方で全く興味のない人にとっては、「データは今でも見えているので不要」であるとか、「作業が自動化すると自分たちの業務がなくなるのでは」という防御反応も出てくるんですね。
デジタルと共存していきながらいい方向に進もうとしているわけですが、理解してもらうのは簡単ではないと感じるところです。

RPAの導入もそうで、1つ目が導入されるまでおよそ1年弱かかりました。前述の通り、RPAを導入したことで大幅な工数削減を実現したわけですが、それによって業務がなくなってしまうわけで、そこの抵抗はあったようです。これはすでに稼働しているものですから、今となっては皆さんむしろ喜んで使ってくれていますが。

BPRについても、最初はすごく苦労したんですね。目的としているのは業務の削減がゴールではなくて、無駄な事務作業を効率化して本来やるべき業務にシフトするということです。重要なのは、組織のマネージャーや管理者がそれに即したように組織や業務プロセスを変えられるか、なんです。
現在は、各部署の現場にBPR委員というのを置き、BPRの実行だけでなく、実施後にその組織のマネジメントをどう変えていくか、という事も担って頂き、今後は評価のポイントにしていきたいと考えています。

DXは現場で起こる。多くの社員にDX的な思考を

――テクノロジーの導入による業務変革やDXを進める上では、社員のリテラシーを向上させることも重要と感じます。

サッポログループには社員が6,000人ほどいるわけですが、企業全体をトランスフォーメーションしようと考えるのなら1,000人単位の人がDX的な知識や思考をある程度持っている人にならなければいけないと思っています。
大きなことは我々の部署の様なところで中央コントロールしながら推進していく必要があるとしても、DXは現場でどんどん起こしていくものですから。
デジタルはツールであって、会社が変わっていこうという空気が、工場の現場や営業現場に浸透することが大切です。

今年6月には、社内公募制度でDX研修を実施しました。公募制度自体は誰もが手挙げで参画できるという既存の制度で、DX研修は初の試みとなりましたが、定員20名に対して応募開始3分で定員に達しまして、社員の興味関心の高さが伺えました。

――DX研修はどのような取り組みなのでしょうか。

今回は外部と連携をしながら、ITの基礎知識のほか論理的思考といったことを座学で習得してもらうほか、チームに分かれて実際にDXで解決したい課題を出し、施策や具体案を基本的な計画書として作るところまで実施しました。実際にそこで生み出された計画の1つはPoCに持っていこうと思っています。

研修で学んで終わりではなく、実際に作ってやってみて、というのをやらないとDXの実感が持てないと思うんです。参画して初めてわかることってありますよね。PoCですので失敗するかもしれないですが、それもまた学びです。この機会に、いい経験をして欲しいと思っています。

――部署に関わらず見識を深められる、チャレンジできる環境があるというのは魅力的ですね。この取り組みは継続されるのでしょうか。

次回以降はスケールを大きく変えていこうと思っています。サッポログループはサッポロビールだけではありませんので、グループ全体のトランスフォーメーションをしていく上で何が必要か、といったところをさらに深化させていきたいですね。

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