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「社会を変えるトップイノベーターに」中外製薬が挑むビジネス革新。基盤構築の要はプロフェッショナル人財の育成

デジタルトランスフォーメーションユニット長の志済 聡子さん

国内大手医薬品メーカーの中外製薬株式会社は、2020年3月に発表した「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」において、「デジタル基盤の強化」「すべてのバリューチェーン効率化」「デジタルを活用した革新的な新薬創出」の3つの基本戦略を掲げ、デジタルを活用したビジネス改革を推し進める。

ヘルスケア産業のトップイノベーターを目指して取り組むのは、AI創薬を始めとしたデジタル技術による革新への挑戦やデータ利活用基盤の構築、そして企業風土変革と人財育成だ。取り組みの実態を、デジタルトランスフォーメーションを牽引する執行役員でデジタルトランスフォーメーションユニット長の志済 聡子さんに話を聞いた。(文:千葉郁美)

未来志向の革新的なサービス提供を実現したい

――御社はデジタルを活用したビジネス変革の具体的な戦略を掲げて取り組みに邁進し、東京証券取引所と経済産業省が定める「DX銘柄」に2年連続で選出されました。
国内有数の製薬会社として業界のDXを牽引している御社が基本戦略に掲げた「デジタルを活用した革新的な新薬創出」「すべてのバリューチェーン効率化」「デジタル基盤の強化」について、それぞれの取り組みを教えてください。

製薬会社にとっては薬を作ることが一番のコア業務ですので、デジタル技術を一番活用したい領域は新薬創出です。
実際に新薬を創出しようとすると、国の承認を得るまでに通常10年程度という長いプロセスがありますが、それをAIやデータ活用、デバイスの活用という革新的な技術を使うことで創薬プロセスの大幅な短縮や効率化になり、承認までの期間を短くできる。そういった可能性が出てきていると思っています。

それが実現すれば、現在の日本で遅れていると言われる治療薬の開発等一気に加速しますし、患者さんが適切な治療を受けることにつながります。健康寿命を延伸すること、ひいては国全体の社会保障制度に役立つことを目指しています。

基本戦略に掲げた「バリューチェーンの効率化」「デジタル基盤の強化」は、それを下支えするための大きな動きです。バリューチェーンを効率化することによって新薬創出に関わるR&D投資を生み出すと共に、デジタル技術の活用を促進するためのデータ基盤の整備やデジタル人財の育成・獲得等を進めていくわけです。そうした社内イノベーションの取り組みも積極的な姿勢で取り組んでいます。

下支えとなる基盤があり、創薬やサービスに直結するAIをはじめとしたデジタル技術がかけ合わさって、最終的には色々なデータを活用しながら、未来志向の画期的なサービスに結びつけていきたいと考えています。

――創薬においてAIはどのような役割を担うのでしょうか。

専門的な話になりますが、「抗体医薬品」を作る上では、アミノ酸の最適な結合ができるような「抗体配列」があり、それは研究者が長年の経験をもとに最適配列を考えるものだったのですが、そういった部分に機械学習を用いて、ある一定のクライテリアを満たす候補をAIが提示するというところまで成果を上げています。
これは一日二日でできるようなものではなく長年の取り組みの成果でもありますが、やはり機械学習を活用することによって非常に高い生産性を実現できるということがポイントになります。

また、リアルワールドデータ(RWD)は薬の承認をするときに一部データの補完や参考資料という形で使い始めています。ウェアラブルデバイスや治療アプリといったもので患者様のバイタルデータなどを可視化する「デジタルバイオマーカー」を臨床試験等に生かしていくといったこともプロジェクトとしてスタートし、AI以外にもさまざまなデジタルを活用して、新薬創出に邁進しています。

こうした領域では、いわゆるデータサイエンティストが活躍しています。もともとサイエンス力の高いR&Dメンバーが、さらに機械学習などのテクノロジーを活用して、進化を続けているというところです。

革新的な創薬を支える基盤となる社内イノベーション

――デジタル技術で創薬が革新的な変革に期待が高まります。一方で、それを下支えする社内イノベーションにも注力されているかと存じます。

社内イノベーションに対しても積極的に取り組みを進めています。具体的には、業務手順を見直して効率化を図る「リコンシダープロダクティブアプローチ/Reconsider Productive Approach(RPA)」、社員のアイデアを募集し業務改善を促進する「デジタルイノベーションラボ/Digital Innovation Lab(DIL)」、デジタル人財を育成するプログラムである「中外デジタルアカデミー/Chugai Digital Academy(CDA)」などの各種取り組みを推進しています。

業務改善の効率化を図るRPAは、全部門が自分達の業務をしっかり見直して、削減できそうな業務時間を目標設定し実現していこうというプロジェクトです。2023年にはRPAとAIによる業務変革が当たり前に行われるようにして、10万時間の業務削減時間創出を目標に、全社を挙げて取り組みを強化しているというところです。

また、DILは社員が日々の仕事の中から発想したアイデアを企画として提出してもらい、いいアイデアには予算を付けて約3ヶ月程度でPoC(Proof of Concept:実現可能性や効果の検証・実証)を実施するというものです。社員のアイデアに対しては様々なパートナー企業と一緒に実現の手段やソリューションの有無などを検討し、うまくマッチングできたものに関しては企画が進んでいきます。

パートナーには大手のIT企業やヘルスケア関係のソリューションを提供する企業、AI関連会社などのDX特化型ソリューションを持つ企業などバリエーションも豊富にあります。

アイデアは1回の募集に対し150件ほどの応募があり、すでに累計400件以上のアイデアが上がりました。そのうちPoCまで行き着くものは必ずしも多くはありませんが、ここではデジタル化やDXの大きな成果を求めるというよりも色々なアイデアが生まれ、自分で考えて企画してみようという社員のチャレンジ精神の醸成や、組織の風土改革の観点にも重きをおいて実施しています。

プロフェッショナルの幅を広げる人財育成にさらに注力していく

――既存業務の変革や風土改革に戦略的に取り組まれているのですね。社内イノベーションには人財へのアプローチも大変重要かと思いますが、デジタル人財育成を担う「中外デジタルアカデミー」はどのようなプロジェクトなのでしょうか。

推進基盤となるデジタル人財の育成強化を目的に設立されたCDAは、先進DX企業と協働で体系的かつ最新の育成コンテンツを備えています。社内での育成に留まらず、社外での実践的な研修や人財交流なども積極的に行い、「製薬×デジタル」のナレッジを社会還元するという取り組みも進めています。

具体的な内容としては、全部門から育成対象人財を募集して職種共通もしくは職種別の専門講座で構成されるOff-JTと、実践的なOJTまでを含めた包括的な育成プログラムとなっています。期間は約10ヶ月、現在3期が始まったところです。技術としては、現在はデータサイエンティストとデジタルプロジェクトリーダー(デジタルプロジェクトのリード・マネジメントができるような人財)の2つを特に注力して教育しています。

――かなり高度で専門性の高いスキルを獲得することができるというのは、社員にとってもありがたい制度ではないかと思います。現在は2つのスキルに注力されているとのことですが、今後はどのような展望が期待できますか。

今後はデータサイエンティストのビジネス型やデータエンジニアなど、プロフェッショナルの領域を広げていきたいと考えています。社内のそれぞれの部門で遂行しているデジタルプロジェクトがありますので、それに見合う人財を今後も育てていきたいですし、それに対する社員のチャレンジする意欲も非常に高いと感じています。

現在、アカデミーの1期生が卒業を迎えました。それぞれが所属する部門の中でそれぞれの能力を発揮し、新たな価値を生み出す人財として活躍してくれることを期待しています。

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