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日野自動車「お立ち台」の戦慄 多人数の会議で担当者を吊し上げ……犯人探しはなぜ起きるのか?

Comyu, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

日野自動車のデータ改ざん不正を調べた特別調査委員会の「調査報告書」が話題を呼んでいる。日野自動車はトヨタグループのトラック・バスメーカーで、「HINO」は世界的なブランドだ。しかし今年3月、排ガスや燃費試験のデータを長年改ざんし続け、国にも嘘の報告をしていたことが発覚。事件の原因究明と再発防止に向け、外部有識者による調査が始まっていた。

そして8月、この報告書が公開されたのだが、読んでみると、「よくもまあ、ここまで……」というぐらい赤裸々に、日野自動車の問題点について、現役社員たちが熱く語っている。まるで長年マグマのように溜まっていた現場の不満が、ここに来て一気に噴出したかのような様相だった。

「日野自動車の風土は、助け合いではなく、犯人捜し」

気になる点は山程あったのだが、ヤバさが際立っていたポイントの一つが「お立ち台」という言葉だ。

どんなものなのか、報告書は次のように説明する。

日野社内において、「お立ち台」とは、問題を起こした担当部署や担当者が、他の部署も数多く出席する会議の場で、衆目に晒されながら、問題の原因や対応策について説明を求められる状況を指す言葉である。

一言でいうと「吊し上げ」だろう。

報告書には、日野社員たちの言葉が引用されている。それは次のようなものだ。

日野自動車の風土は、助け合いではなく、犯人捜しと思う。責任はどこか?が最優先となる。

我々は『お立ち台』と呼んでいたが、問題が発覚して日程内に間に合わなければ、開発状況を管理する部署の前で状況を説明させられ担当者レベルで責任を取らされることになっていた。

全体的にお客様のためではなく役員や上役のために仕事をしている。納期を守れないと怒られる、事情があっても寄り添ってもらえない、困っている人がいても役員や上役から言われた仕事以外には手を出さない・助けない、結構末期症状だと思う。

声を上げた人が自分でやらなければいけない風土がある(数年前の会社スローガンが「私がやります宣言」だった)。是正した方が良い事があっても、声を上げると自分が動かなければならなくなる為、結局、自分に影響が無い限りは敢えて指摘をしないような雰囲気になってしまう。問題点に気付いていても教えてくれる人がとても少ない。

問題やミスは必ず起きる。ただでさえミスの報告は気が乗らないのに、こんな形で責任追及していたら、ミスを申告せず、隠蔽するようになるのではないか。

「撤退戦が苦手」

報告書は、日野自動車が問題があったとき、ダメージを最低限に食い止める「撤退戦が苦手」だとも指摘している。企業風土に問題があるという。

こうした風土の組織においては、失敗や非を認めた場合に予期される社内での批判や非難の苛烈さを考えると、時代の変化に伴う自己修正の必要性を訴えたり、戦略の過ちを認めて「撤退戦」を敢行するよりも、時代の変化をあえて直視せず現状を維持することに固執したり、ミスであることを隠し通せなくなる限界まで「撤退戦」に抗う方が合理的であるという判断に傾きやすい。

社員の個人戦略としては、大変な思いをして改革・改善をするより、見てみぬフリをすべき、という判断になりがちということだろう。報告書によると、日野自動車は少なくとも2003年からデータの捏造を続けてきたという。期間の長さや不正の規模を考えると、ヤバさに気づいていた人は、当事者や関係者にはそこそこいたはず……。それにもかかわらず長期間是正できなかった原因は、こうした「事なかれ主義」にありそうだ。

別の社員たちが、こんな意見を述べている。

事なかれ主義でいても時がきたら昇格、チャレンジや意見を主張してもプラスの評価がないため、自分で意志を持たない、考えない、言わない、といった人材が量産された会社となっている。

上の意向に従うだけのイエスマンが重用され出世している、(その結果として)経営層は部下からの耳触りの良い報告や見せかけの成果を鵜呑みにするだけの「裸の王様」になっている、達成困難な目標について正直に「できない」とか「達成困難である」と報告すると能力が低いと評価されてしまい、「頑張ります」といった精神論で乗り切ろうとしたり、あたかも目標達成したかのように要領良く振る舞える者が評価されるという実態がある。

記録の残し方。トレーサビリティ能力が低い。(中略)その時に不正な判断で発売したとしても、何年かしてしまえば、「私の判断でない。知らない。」と言えば、逃げ切れる可能性が高い。

上司に従い、見てみぬフリ。そして根性論。なんとも悲惨な状況に思えるが、それでも今回、現場からこうした意見が出てきたなら、まだ希望は感じられる。職場を良くしていきたい、いい製品を作りたいという熱意を持った社員がまだ残っていそうだからだ。彼らが去ってしまう前に、日野自動車は風土を一新できるのだろうか……。

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