Mさんは子どもの頃からテーマパークが大好きで、中学時代に周囲になじめず保健室登校していた頃、母親と行った東京ディズニーランドで笑顔を取り戻したという。ディズニーランドで働くことが夢となったMさんは、高校卒業と同時にアルバイトとして働き始めた。
通勤は往復で4時間かかり、母親が重い病にかかったときは、「転職すれば4時間分の給料が増える」と葛藤した。しかし、母親に「あなたは好きなことを続けなさい」と言われ、「キャストとしての自分磨き」を誓った。地面にキャラクターを描き初め、はじめはぎこちなかった絵も努力して上達し、今ではすべてのキャラクターを描くことが許された数少ない人材だという。
TDRには接客のマニュアルが存在せず、客を楽しませる方法はキャスト次第だ。雨の日には、屋外テーブルのパラソル下にイスを集めて拭くなど、客の動向を先読みして動く。同じ作業の繰り返しの中でも、常に笑顔を絶やさないプロフェッショナルぶりだった。
視聴者には、「これだけ優秀でも15年もアルバイト」と驚かれていたMさんだが、2月1日付けで正社員として採用され、番組は「この場所を支えているは、誰かを笑顔にしたいと願うキャスト2万人の夢」と感動的にまとめた。
従業員の8割以上が「準社員」というオリエンタルランド
この密着取材を見た視聴者からはネット上で、「やりがい搾取」との声が多数上がった。TDRに限らず、テーマパークは労働者の多くがアルバイト・パートなどの非正規雇用だ。
TDRの運営会社であるオリエンタルランドの従業員は、社員3411人に対してアルバイトなどの準社員が1万9697人と約85%を占める。(2019年4月1日時点)。ネット上では、運営会社がこの「夢の国」で働きたい人たちを安く使って、大きな利益を上げていると捉える人が多かった。ツイッターでは
「そこまでのスキルと根性があるのに正社員になるまで15年アルバイト、地獄ですね……」
「15年バイトで最近正規になりましたというオチでしたね。15年ね」
など、女性キャストの苦労の日々に思いを馳せる人が相次いだ。
3月21日の朝日新聞によると、新型コロナウィルスの感染拡大防止のため2月末から臨時休園しているTDRでは、非正規雇用のキャストたちが「賃金補償が6割では生活できない」として、休業補償の引き上げを求めている。何かあったときの調整弁にされるのが非正規だと思えば、視聴者の反応も一理ある。
しかし批判がある一方で、「本人が納得して働いているのならいいのでは」「外野が『ブラックだ、搾取だ』と騒ぐのは、ちょっと違う」といった意見も出ていた。Mさんの笑顔はゲストに安心感を与えるプロの接客そのもので、その働きぶりをネガティブに評するのも失礼な気がする。そもそも、同じ労働者なのに正規・非正規と差別が生まれてしまうような呼び方と働き方が多いことが問題かもしれない。