ウクライナの首都Київ(Kyiv)をカタカナでどう表記するかが、論争の的となっている。時事通信によると政府は3月29日、従来のキエフからウクライナ語の発音に近い「キーウ」に変更する方向で調整に入ったという。そんなタイミングだったので、現地出身の人がどう呼んでいるか、発音を聞いてみたのだが……あれ?「キーウ」は、そんなにウクライナ語に近くないのでは?(文:昼間たかし)
「キーウ」はどこからきた?
検索していて見つけたのが、こちらの動画(https://www.youtube.com/watch?v=cE1f6GUvG5Y)。ズバリ、キエフの発音を教えるという内容で、登場するのはアメリカの大学でスラブ語を教えているウクライナ出身の准教授というから、かなり信頼に足る情報だと思う。
さっそく結論だが「キーウ」なんて発音しているようには聞こえない。あえて読みをそのまま文字にすると「クィエィヴ」といったところか。日本語にない発音である。では、「キーウ」にしようとか言い出したのはどこの誰なのか。
調べてみると、キーウは「ウクライナの地名のカタカナ表記に関する有識者会議」が2019年9月に出した案に含まれていた。これは「ウクライナの地名はウクライナ風に表記すべきだ」というウクライナ大使館の問題提起を受けて、日本の学術団体「ウクライナ研究会」が主催した会合で、その場には政治家や官僚も参加していた。
有識者会議が、全会一致で出した結論は次の通りだ。
1:ウクライナの地名のカタカナ表記に関しては出来る限りウクライナ語に近づけることを目指す。
2:首都名について、キーウ、キイフ、キエフの3例の併用を可とする。
3:国号について、ウクライナの変更はしない。
もともとウクライナ大使館が提案していたのは「クィイヴ」だった。この案は採用されなかったわけだが、上記が全会一致の結論なのだから、大使館側もそれで納得したのだろう。
このうち「キーウ」は、東京外大の中澤英彦名誉教授が提出した「原案」に登場していた。その中澤原案では「クィ」や「ヴ」などは「義務教育では使用しないため、一般の日本人対象の表記の際には避けるのが好ましい」とされ、キーウ案については「クィーイウ→キーイウ→日本人が実際に発音するとキーウとなるので、キーウ」という説明がされていた。この案が提出された有識者会議でも、日本の一般人が表記しにくい、発音しにくいものはダメという結論になったのだろう。
さて、考えてみれば「Japan」だって「ニッポン、ニホン」とはまるで別物。ウクライナ語をカタカナで表記するのには、そもそも限界があるのだ。周囲に「ウクライナ語では、キーウと呼ぶのだ」などと、したり顔で言うやつがいたら逆に教えてやろう。「いや、ウクライナ語ではКиївだよ」と。