ビニ本とは、かつてポリ袋やビニール袋に入れられ、販売されていたアダルト本の総称。一般の流通ルートを通さず、直接書店に持ち込まれるゲリラ的な手法で販売されるのが特徴だ。
ビニ本は1970年代半ばから爆発的なブームとなり、最盛期には30~40の出版社が月120冊ほどを刊行してたという。ビニ本という名前の由来は、今も神保町にあるアダルト専門書店「芳賀書店」が立ち読み防止のためにビニール袋に入れて販売したのが始まりだという。ちなみに、ビニール袋に入れて立ち読みできなくしたことで売上は増加。今も神保町にある芳賀書店のビルはこの売上で建った。
立ち読みが当たり前だった時代、ビニール包装で中身が「見えない」と、どんどん見たくなってくる。そんな読者のハートをくすぐったのは包装だけではない。発行点数が伸びる中で、ビニ本を制作する出版社は、アイデアを駆使してヘアをギリギリまで見せることにしのぎを削った。
現在と異なり、警察がヘアヌードを「わいせつ」だと取り締まっていた時代。そうした中で、下着からうっすらと見えているのに始まり、生地の薄い下着を使ったり、濡らしたティッシュで隠したり、はてはセロハンを貼り付けたりと、いまとなっては実にアホくさい「挑戦」が続いた。
こうした「過激」な画像に加え、販売店舗や発行部数が限られていたこともあり、その聖地・神保町は新作を求める人々でごったがえしたという。
さて、ビニ本は1980年代に入ると、警察が積極的に取り締まるようになり「強制終了」となった。つまり文字通り、前世紀の遺物である。その後、1991年に篠山紀信氏による女優・樋口可南子の写真集『water fruit』以降、警察の取り締まりが緩和され事実上の「ヘア解禁」が実現。その後の「ヘアヌード」ブームを経て、瞬く間にありふれた存在になっていった。
ここまで説明してきて疑問に思うのが、「ビニ本」は、合法前提(発行元は表記。一応「隠す意志」はある)で売られていたものなのに、なぜ摘発されたのか、ということ。いわゆる無修正のものは「裏本(発行元表記なし。隠す意志もなし)」と呼ばれて全く別の流通経路で売られていた。すると、今回摘発されたモノが「ビニ本」として売られていたモノだったのか、それとも「裏本」として売られていたモノだったのかには若干疑問も残るのだ。
ただ、独自すぎる流通経路で売られていたうえ、大半は国会図書館などにも収蔵されていないため、その検証は今となっては難しいだろう。まあ、このインターネット全盛時代、ビニ本も裏本もとっくに絶滅しているので、どっちでもいいか。