来日中のムヒカ前大統領、消費社会に支配される日本人に警告 「物欲よりも愛情豊かな生活が人を幸福にする」
ウルグアイ前大統領のホセ・ムヒカ氏(80歳)が来日中です。5年間の任期中、報酬のおよそ9割を寄付し、豪華な官邸ではなく農村の自宅で奥さんと共に質素な暮らしを続け、「世界一貧しい大統領」と呼ばれています。
「国のトップは国民と同じ感覚でなければならない」との信条から月10万円ほどで生活し、資産は中古のフォルクスワーゲンのみ。4月8日には「”世界でいちばん貧しい大統領”~日本人は本当に幸せですか?~」(フジテレビ)に出演。ジャーナリストの池上彰氏と公開対談を行いました。(文:篠原みつき)
貧しい人とは「いくらあっても満足しない人のこと」
ムヒカ氏が注目を浴びたきっかけは、2012年、ブラジルで行われた国連主催の環境会議「リオ+20」。持続可能な発展と膨大な数の貧困者対策を議題とする会議で、こんな率直な疑問を投げかけました。
「質問させてください。もしドイツ人がひと家族ごとに持っているほどの車を、インド人もまた持つとしたら、この地球はどうなってしまうのでしょう? 私たちが呼吸できる酸素は残されるのでしょうか」
「私たちは発展するためにこの地球上にやってきたのではありません、幸せになるためにやってきたのです」
さらにスピーチの中で、過去の賢人セネカや南米の先住民族の言葉を引用し、「貧しい人とは、少ししかものを持っていない人ではなく、もっともっとと、いくらあっても満足しない人のことだ」と訴えました。
大切なのは考え方であり、発展は幸福の邪魔をするものではなく、幸福をもたらすものでなくてはならないと、現代の消費主義社会に警鐘を鳴らしたのです。このムヒカ氏のスピーチは人々の共感を呼び、報道やネットで世界中に感銘を与えました。
日本人は「もっと働いてお金を稼ぐための時間」が欲しいのか
ムヒカ氏は貧困層の生まれで母子家庭育ち。幼いころから貧富の差に疑問を感じ、左翼ゲリラに身を投じます。しかし13年間の投獄生活の中で「暴力で世界を変えることはできない、文化を変えなくてはならない」と気付きます。出所後、農牧水産相を経て大統領に当選し、その清貧ぶりから「ぺぺ」の愛称でいまも国民に愛されています。
ノーベル平和賞候補にもなったスピーチは絵本になり、ムヒカ氏は出版社の招きで来日しました。池上彰氏は公開対談の場で、日本とウルグアイの人たちに独自に行ったアンケートの結果を発表しました。
それによると「今一番欲しいものは?」という問いに、ウルグアイ人は「治安のよさ」16.2%、2位が「健康」13.7%、3位「時間」次いで「お金」「子ども・孫の幸せ」「家」と回答。一方、日本人は1位が「お金」17.3%、2位が「時間」16.7%、3位「特にない」「健康(若さ)」「車」と答えました。
日本人が「時間が欲しい」と欲していることについて、池上氏が意見を促すと、ムヒカ氏はこう語りました。
「問題は、何のために時間を使うのかということです。子どもと過ごす時間? 家族、友人と過ごす時間? 自分の人生を生きる時間? もしも、もっと働いてお金を稼ぐための時間が欲しいなら、消費社会に支配されています」
「何もない状態」でも愛情があれば結婚できるはず
ブラジルでのスピーチの中でも、ムヒカ氏は同様の指摘をしていました。ローンを払い続けて幸せを逃し、あっという間に老いることのむなしさを示し、愛情や人間関係、家族や友人を持つ人生の大切さを説いていました。
ムヒカ氏は番組の中で、日本の若者に限らず、消費社会が支配する世界では「何もない状態で結婚することの難しさ」も承知した上で、物欲よりも愛情豊かな生活が人を幸福にすると、日本の若者たちにも訴えたのです。
「治安のよさ」ですら確保されないウルグアイの人に比べ、日本人が不幸とは言えないのも事実です。その一方で、長時間労働にあえぎ、恋愛や子育ての時間もないと嘆く日本人に、ムヒカ氏の指摘はとても耳の痛い言葉ではないでしょうか。
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