現代の子どもは漫画も音楽も”タダ”が基本、お金を使うのは「応援」したいとき 博報堂生活総研「タダ・ネイティブのマーケティング」
「最近の子どもは……」「子どもはいつの時代も変わらない」――どちらも耳にするが、実際の”いまの子ども”はどんな傾向があるのか。博報堂生活総合研究所は11月1日、講演「『こども20年変化』調査結果から読み解く、『タダ・ネイティブ』のマーケティング」を開催した。
同研究所は1997年から10年ごとに子どもの特徴を定点調査している。今年は2月から3月にかけて、小学4年生~中学2年生、合計800人を対象に実施。6月に「こども20年変化」として結果を公開した。
その中で、現在の子どもたちを「物心ついた頃から、費用や手間、労力をかけずとも、情報もコンテンツも自由に利用できることが当然の世代」として、”タダ・ネイティブ”と名付けた。
国勢調査によれば、2015年時点で15歳未満の子ども人口は1589万人。この1997年から400万人以上減少したが、子どもの行動や思考に変化はあるのだろうか。
いまは不良より「星野源」 一方、流行は「あえて追わない」傾向に
酒井崇匡上席研究員は、この20年で「人間関係」「消費」「情報」に関する質問の項目群の値が大きく変化したと指摘する。
「人間関係」については、「家出をしたいと思ったことがある」(38.8%)、「友達と絶交したことがある」(11.8%)など人間関係に関するネガティブな項目が過去最低となった。ある中1男子の母は「東日本大震災以降、より子どもの心配をするようになった」といい、親子関係が緊密化している。
「97年は大人に反抗する不良が多かったけど、今のこどもたちにとって大人は敵じゃないんですね。反抗する相手がいないから人間関係も『まるく、やさしく、つつがなく』なります。ちなみに今は不良系ではなく、星野源さんみたいな、優しくて清潔で頭のいい子がモテるようです」
「消費」については、「新しい製品が出るとすぐほしくなる」(41.6%)が過去最低になった一方で、「お小遣いの使い道は貯金」(53.8%)が過去最高となった。
理由としては、欲しいものは両親や祖父母に買ってもらえる子が増えていることや「毎日の生活は楽しい(94.5%)」などといった生活満足度に関する項目が軒並み過去最高になっており、現状ですでに満たされている子どもが多いからだという。
「情報」に関する項目でも大きな変化があった。「ネットを利用しない」という子どもは6.1%だけで極めて少数派になった。情報へのリーチも「(興味があったら)自分で調べる」(63.3%)が「人に聞く」(36.8%)を上回った。
「いまの小中学生は平均約2台のデバイスを用いて、ネットを利用しています。デバイスが普及し情報はいつでも引き出せるので、流行をあえて追わず、自身が興味のあることを楽しんでいる子が多いのです」
小4男子「好きな動画は三代目JSB、ビギン、来来キョンシーズ」
十河瑠璃研究員は、タダ・ネイティブの特徴のひとつに「放課後の集合場所がネットになっている」ことを挙げる。
「これまで子どもたちは、放課後には公園や友達の家など『リアルの場所』で遊んでいました。しかし今や、友人と音声通話をしながらオンラインゲームをしたり、LINE電話で何時間も話していたりします。外で遊ばないため『門限』はなくなり、お風呂に入ってまた友人とのゲームに戻るといったことも珍しくありません」
かつてはトイレや教室の隅で話していた”恋バナ”もLINEや、仲のいい友人同士しか閲覧できないSNS(ツイッターの鍵付きアカウント)で話すという。そのため、ネットはリアルと明確な区分がない、地続きの空間となっている。
2つ目の特徴は、コンテンツの入り口だ。新しいコンテンツに触れる場所はネットで、「ユーチューブの『あなたへのおすすめ』や関連動画などのレコメンテーションから好きなものを探していく」という。
「ある小4男子がユーチューブで何をよく観ているかというと、三代目J Soul Brothersや西野カナから、BEGIN、88年放映のテレビドラマ『来来!キョンシーズ』、までと幅広いです。この特徴は彼だけではなく、今の子どもたちは、過去のものを『古臭い』ではなく『昔からあるもの』と受け取っているようです」
お金の使い方にも特徴があるという。”タダ・ネイティブ”は「モノ(商品)」より「コト(経験)」に価値を感じる人が多い。ある中2男子は、スマホゲームには課金しないが、ゲーム中の音楽を演奏するライブには2日間参加し、親の分のチケット代も含め1万8000円使ったという。
さらに、好きなものを支えるためのお金も惜しまない。前述の中2男子は、好きな漫画家を応援するためにお金を使いたいと話す。
彼の好きなマンガアプリ「comico」では、無課金でも漫画を読めるが、課金することで好きな作品を応援できる「応援ポイント」という制度があり、この累計数が少ないと連載が打ち切られてしまうという。
「『無料で読み続けたいから、ポイントを購入して応援したい』という、目的と手段が逆転したような欲求が生まれてきています。このアプリでは作者のあとがきが読めるため『この人も大変なんだ、といった裏事情が分かって支えたくなる』のだそうです。いまの子どもにとって『消費は”好き”の表現手段』。”好き”なものに主体的に関わるために、お金を使いたいと考えているんです」
「子どもは10年後の大人。その意識と行動が日本のスタンダードになる」
こうした子どもたちの変化が導く未来を、酒井研究員は次のように分析する。
「まず、リアルとネットの区別がないという”空間軸の変化”から、ビジネスシーンでも『謝罪の時以外は会わないようになる』などの可能性があります。『これはリアルでやらなければいけない』とされていた常識が再編成されるのではないでしょうか」
また「古い」ではなく「昔からある」とフラットに受け止める”時間軸の変化”から、「温故知新」が見直され休眠資産が価値をもつようになる。さらに応援・協賛のために消費するという”価格軸の変化”から、「100人から100円ずつもらうのではなく、コミット度の高い1人から1万円もらう」というように収益の構造が変化する可能性を指摘した。
「子どもは10年後、大人になる。その意識と行動はいずれ日本のスタンダードになるため、彼らを守りつつ、彼らからも学んでいくのが我々の務めなのでは、と考えています」(酒井上席研究員)
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