「裸でも生きる」のマザーハウス アジアの最貧国ネパールでビジネス展開
アジア最貧国のひとつに数えられるネパールは、ヒマラヤ山脈にそびえる世界最高峰エベレストが重要な観光資源だ。世界中から年間3万6000人もの観光客が訪れ、日本からも多くのトレッキング客がやってくる。
しかし国としては、観光や登山以外の「安定した新産業」の開発が課題となっている。2014年12月15日放送の「未来世紀ジパング」(テレビ東京)は、そんなネパールでビジネスを行っている日本人を紹介していた。
農業では「年間5万円にしかならない」厳しさ
ネパールは中国とインドに挟まれた内陸の山岳地域で、世界で一番開発が難しい国とされる。北海道の1.8倍ほどの面積に、オーストラリアより多い2720万人もの人口を抱える。主な産業は農林水産で、資源はほとんどなく、年間50万人が出稼ぎで出国している。
ネパールの観光収入は年間370億円にものぼり、本格的なエベレスト登頂には政府が1人100万円から250万円の入山料を設定。春の登山だけで20億円の経済効果があるが、今年春には雪崩事故で16名の犠牲者を出すという悲劇もあった。
荷物運やガイドを行う「シェルパ」を務める地元住民も犠牲となったが、助かったシェルパのひとり、ラクパさん(38)は生活のために登山の仕事は辞められないと語る。
「農業では年間5万円にしかなりません。登山は1回で30万円稼げるんです。子供の学費を稼がなければなりませんし、生活のためには仕方ありません」
観光や登山以外の安定した新しい産業が求められるが、そこで紹介されたのが山口絵里子さん(33)が起業した人気ブランド「マザーハウス」だ。山口さんは著書『裸でも生きる』でも知られ、25歳で起業した。
価格は1~3万円と決して安くはないが、「途上国で作られた製品を、最高の品質で売る」というコンセプトが受け、わずか8年で国内外20店舗にまで拡大した。山口社長が次の進出先として考えているのが、ネパールだという。
女性たちに「ビジネス」を教える日本人たち
ネパールの小さな村で、マザーハウスの田口ちひろさん(28)は伝統産業である草木染めを復活させ、シルク製品を新たな産業として根付かせようとしていた。
製品を作るのはもっぱら女性たちだが、ネパールではこれまで女性がビジネスに関わる機会がなかったため、まずビジネスとは何かを教えなくてはならない。
シルク生地に不具合が出た際、工場を訪ね、これでは商品にならない旨を伝えた。すると責任者の女性は「機織りしている彼女たちが、たまたまご機嫌ななめだったんじゃないの?」と悪びれずに笑っていた。そこで田口さんは、
「あなたがしっかりチェックしないと、彼女たちの技術は向上しないんですよ」
と言い返した。指摘された女性は「このレベルでは日本のお客様は満足しないということが徐々に分かってきた」と神妙な表情で語っていた。
番組ではこのほか、エベレストトレッキング客に大人気の「ホテル・エベレスト・ビュー」を43年前に作った宮原巍(たかし)さんを紹介した。現在80歳の宮原さんは、若い頃エベレストに魅せられ単身ネパールに渡り苦労の末ホテルを建設、観光客を呼び込むだけでなく、雇用も生み出した。
最貧国だが「すごく恵まれている」という見方も
さらに2005年、ネパール国籍を取得し、国政選挙にも立候補。当選こそしなかったが、世界最貧国の状況を変えたいという思いは多くの支持者を得た。いま宮原さんは、アンナブルナ連峰を望むポカラに新たなホテルを建設中だ。
「これだけの場所はそうあるものじゃない。ネパールはすごく恵まれている」
ナビゲーターの後藤康浩氏(日本経済新聞社・編集委員)は、ネパールについて「目指せ、アジアのスイス」と未来予測。「大国に囲まれ、山岳国家であり中立国」というスイスとの共通点を挙げた。
スイスもかつては牧畜中心で貧しかったが、時計産業や金融の分野で発展してきた。時間はかかるかもしれないが、ネパールもアジアのスイスになる可能性はあるという。
マザーハウスの田口さんも、エベレスト・ビューホテルの宮原さんも、自分たちのビジネスや信念を守りながら、ネパールのポテンシャルを生かして発展に関与していることが印象的だった。(ライター:okei)
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