Hagexさん刺殺、中川淳一郎氏が容疑者の動機分析 「はてなという居場所を奪われると恐れ、復讐を考えたのでは」
ネットウォッチャーのHagexさんが6月24日、福岡市内で刺殺された事件はネットに衝撃を与えた。容疑者(42)が同氏と「ネット上でトラブルになっていた」と話していることから、殺害に及んだのは、はてな界隈で荒らし行為をしていたユーザー「低能先生」ではないかという見方が強い。
しかし、2人の間にあったやりとりは「トラブル」と言えるか疑問が残る。Hagexさんが「低能先生」に言及したのは今年5月のブログ記事で一度だけ。内容は、荒らし被害に遭った人向けのアドバイスが中心で、殺害を決心させるようなものには見えない。
Hagexさんと親しく、『ネットは基本、クソメディア』などの著書があるインターネットニュース編集者の中川淳一郎さん(44)は、容疑者の動機について「秋葉原通り魔事件の加藤智大死刑囚に似ていると感じます」と語る。
ユーザーを大事にする「はてな」だからこそ複アカ取り放題になってしまった
加藤死刑囚は、2ちゃんねるのスレッドで馬鹿にされたことをきっかけに無差別殺人に至ったと言われている。Hagexさんを殺害した無職の容疑者も「ネット漬けになっていたのだと思う」と分析する。
「大事な居場所である『はてな』でボコボコに通報されまくり、運営さえも自分に牙を向いたと思ってしまったのではないでしょうか。容疑者は自分の2、3つ下でほぼ同世代。僕らの世代は子どもの数が多くて競争が激しく、正社員になれない人もいる中でやっと見つけた居場所が『はてな』だった。それを奪われるのが怖くなり、奪った連中に復讐しようと考えたのではないでしょうか」
事件当日、はてな匿名ダイアリーには犯行声明文のようなものが投稿されていた。そこには、はてな本社を襲撃に行く計画だったと記されている。
「普通は、運営会社に乗り込むという発想にはならないと思うんですよ。これは同社がユーザーを大事にし、ユーザーとの意見交換なども昔からやっている会社だったから生まれた発想だと思います。襲撃してやるという思いもあったかもしれませんが、運営に、自分の思い通りのサービスにするよう改善しろと伝えたかったのでしょう。普通の会社ならそんなことは通用しませんが、同社は『やってくれるんじゃないか』と期待を抱かせる会社です。ただ、その大らかさは今後、改めたほうが良いと個人的には思います」
事件を巡っては、同社が荒らしユーザーのアカウント停止以外にも措置を講じていれば、未然に防げたという意見も広まっている。こうした意見が出るのもまた、同社の企業風土に依るものと中川さんは分析する。
「『はてな』は基本的に、ネットユーザーを信じている会社です。一人一人のユーザーを大切にし、『ユーザーは善である』というのが基本姿勢。同社ならではの性善説が『複数アカウント取り放題』を招いたと見ています」
「同じことを、相手を目の前にして言えるか」 基本的なことを心がけるべき
今回の事件を受け中川さんは、「人に期待しないってことを改めて実感した」と言う。
「24時間テレビ的な優しい世界はないってことです。自分の仕事仲間や友達以外、あまり期待しない方がいいんじゃないかと。ネットは、本来出会うべきでなかった人を繋げてしまいます。結局のところ、9年前に『ウェブはバカと暇人のもの』で書いた『日常を大切にしろ』という結論に戻ってしまいます」
今後、情報発信する際にはどのようなことに気をつければいいのか。
「ベーシックなことですが、それ、当人を目の前にして言えますか?ということを心がけておいたほうが良いでしょう。画面の向こうで相手をしているのは感情を持っている人間だから、受け手の感情をきちんと考えようということです」
「萎縮は当然するでしょうから、情報発信は慎重にやれよってことですね。ただ、今回のように常識では理解できない人に会ったときは、運が悪かったとしか言えない。出来ることは無いと思います」
中川さんが最後にHagexさんに会ったのは今年4月。イベントの打ち上げでのことだった。次のイベントの企画や、当時炎上していたネットのネタなど、ごく普通の会話をしたという。「今後はリアルな場でのネット専門家での活動も増やしたいと仰っていました。(本名の)岡本顕一郎としてばしばしやっていこうという考えがあったんだと思います」と無念さを滲ませた。