若鶴酒造の担当者は、同商品の発売に至った経緯について
「全国的に高濃度アルコールの需要がひっ迫している中で『酒造会社としてできることはないか』と模索しました」
と説明。同社では、長年の付き合いから度数95%のサトウキビ原料のアルコールを仕入れることが可能で、加水して消毒液と同じ77%に薄めてボトリングする。77%はこれまでに同社が発売したアルコール飲料の中でも最高に近い数字になるという。
また、香料は使っておらず、無味無臭とのこと。「飲んでいただくこともできますが、飲用に適するアルコール濃度に希釈することをお薦めします」としている。
では、なぜ”消毒液”ではなく、同等のアルコール分を含んだ”リキュール”として発売するのか。担当者は「効果効能を謳うと、薬機法(旧薬事法)に抵触する恐れがあるためです」と語る。
効果効能を目的とする商品は、薬機法上「医薬品」と見なされ、厚労省の承認を得なければ製造、販売することはできない。担当者は「当社があくまで酒造メーカーであることに加え、即効性を何よりも優先したいとの思いからお酒として販売することにしました」と説明した。
同省は3月下旬、やむを得ない場合に限り、手指消毒用以外の高濃度エタノール製品を代替として使うように通知。ただし、アルコール事業法に規定された事業者から購入することや、エタノール濃度が原則70~83%の範囲内であることなどを条件としている。
外食需要減少で「酒の売上が軒並み不調」という背景も
同社が4月6日に発売情報を出すと、全国の医療機関から製品を求める問い合わせが殺到。担当者は「週1000本の製造を見込んでいる。まずは医療機関を優先して出荷した上で、地域貢献の意味も含めて、直営店や地元のドラッグストアなどに出荷したい」とした。さらに、
「少しでも力になりたいとの思いなので、なるべく早く必要な方にお届けしたいです」
と付け加えた。
一方、すでに3月中旬から「メイリのウォッカ65度」を販売している明莉酒類(茨城県)も「あくまで消毒液と同じアルコール分のウォッカを発売しただけ」と回答。これまで通りの問屋を通じて、全国の小売店に出荷しているという。
ここ2週間の売れ行きについては「まだ、良いとも悪いとも言えない」というが、他の商品の売れ行きについては、外出自粛などに伴う外食需要の減少などの影響で、軒並み不調だという。酒造会社がこぞって高濃度アルコール製品の販売に切り替えたのには、実はこうした背景もあるのかもしれない。