そもそもこの漫画、きくちゆうき氏によるぬくもりのある絵柄と、何気ない日常の4コマに添えられる「死まであと○日」という一文のギャップが面白い作品。最初から応援していた人がどれだけいるかは不明だけど、メディアでも話題にされるようになって、回を増すごとにファンが増えていった。
そして先日予定通りワニが死んで最終回となった。桜の花びらの描きこみが丁寧で「さすがプロ」と思った。ところがこの最終回直後、ファンから一斉に「え~?」という反応を受けることとなる。
作品が完結し、ワニの最後についての余韻めいたものが冷めやらないうちから、突然リアル店舗のオープンが告知されたのだ。その名も『100ワニ追悼POP UP SHOP』。追悼とグッズ展開。全然しっくりこない組み合わせなのでちょっと笑ってしまった。無理やりが過ぎるだろ、と。
そしてまた、ワニが死んですぐにこういう展開するのは悪手では? と心配した。さらに、いきものがかりとのコラボムービーまで登場し「ワニだからっていきものがかりと掛けて動画かよ」と微妙な気持ちにさせられた。
何故このコラボなのかについては、いきものがかりの公式サイトにおいてこう説明されている。
「近しい死生観を持つ4人の想いが重なり、異例の急ピッチで制作が進行され、作品がラストを迎える3月20日(金)の公開が実現しました」
正直「死生観がそんなに重なることってある?」という感想を抱いたんだけど、まあこういう商業展開やらメディアミックスは、ビジネスとしては悪くない。でもこういう漫画って、結局はファンありきで話がスタートするものだ。
元々『100日後に死ぬワニ』が最初から仕込み企画だったとしても、この急な展開はTwitterで純粋にワニを応援していたファンの気持ちを無視しているとも感じる。
「無料で楽しんでいたのになんか冷めちゃった」となるファン
そして、次々とコラボグッズが出ているついさっきも100ワニ靴下の販売を告知するプロモーションがTwitterに流れてきたし、100ワニラバーストラップがガシャポンで登場とも告知されていた。
この性急なグッズ展開だのコラボ動画だのの応酬で、結構少なくない数のファンは興ざめしたことだろう。だってそりゃそうだ。ワニの死を目の当たりにして、少しばかり自分の人生について振り返りたくなる人だっていたはずだし、死について意識したくなった人もいたはずだ。少しこの作品を咀嚼する時間というか、猶予が必要だったはずなのである。
だけど実際には漫画が完結した直後に、”余白の時間”もあたえずに「追悼!」とか言ってグッズをロフトで売りますよ~とか言い出したわけで。これでは作品の扱い方があまりにも、あまりにも雑で、きくちゆうき氏に対してもリスペクトが足りてないと思う。
Twitterって、商売っ気を出すとファンの一部が暴徒化する傾向が昔からちょいちょいある。少し前には、Twitterで人気の漫画家数名が『アナと雪の女王2』のプロモーション案件であるという説明を、なぜか全員うっかり失念してPR漫画をアップし、大炎上していた。
SNSで作品をバズらせたり、商業案件の漫画なりをアップするというのは、仕掛け人が想定している以上にリスキーで難しいのかもしれない。
きくちゆうき氏は別にTwitter発のクリエイターではないし、『100日後に死ぬワニ』だって当初から仕掛け人がいたとは、僕は思っていない。それでもTwitterでバズった作品が商業展開しちゃうと、これまで無料で楽しんでいたファンの中には「なんか冷めちゃった」ってなっちゃう人も出てくる。そうしてアンチに転換しちゃう元ファンも、どうしても発生する。これはまあ仕方がない。
だけど『100日後に死ぬワニ』の場合はちょっと違う。あくまでも死をもって完結した漫画なんだから、他の作品よりも商業展開に気配りが必要だったはずだ。見方によれば、死を軽んじているようにも受け取れちゃうので。
『100日後に死ぬワニ』がいきなりのメディアミックス連投によって本当に100日後に死ぬワニになっちゃったように感じるファンの気持ちは、察するに余りある。しかし同時に、メディアミックス自体否定はしないし、SNSでバズったコンテンツでお金儲けをするのは、正常なことだとは思う。
要は題材に対してのやり方がおかしい部分があり、そのせいで批判の声があったけども、それって当たり前の反応だ。好きなキャラクターが死んだ直後にグッズ販売だの動画のアップだのされて喜ぶ人なんていないのが原則なんだし。