そのうち、将来の目標もなく言われるがままに働く日々と業界の先行きに漠然とした不安を感じ始めた。会社での仕事は未だに紙ベースで、「このままではAIに取って代わられるのではないか」という不安もどこかにある。同期も多かれ少なかれ悩んでいるように見えた。
今後どの方向に進むべきか。そう悩んでいた時、「AI」や「DX」というキーワードをよく耳にするようになった。ITエンジニアは将来性がありそうだし、働き方も自由に見える。
「リモートワークできたり、フレックスタイム制が導入されていたりして、朝早く起きて満員電車に乗らなくていいというイメージがありました。腕一本、実力主義の仕事だから、技術さえあれば仕事に困ることもありません」
そこでまず、プログラミング学習ができるWebサービスやチュートリアルで、2か月ほどプログラミング言語Rubyを独学してみた。勉強をしていると、ものを作るための技術を身につけているという実感が得られ、楽しかった。
しかし、次第に限界を感じ始めた。勉強を進めてはいるけれど、素人の自分がどうすればエンジニアになれるのかわからないし、困った時に質問できる環境もない。それ以上に孤独が辛かった。岩崎さんは同じ道を目指す仲間を求め、プログラミングスクールに入ろうと決めた。
自作した「エンジニアチェッカー」が界隈で話題に
そうはいっても、プログラミングスクールは現在山程ある。最終的に4、5社ほどの候補の中から、「ここなら実務がわかっていて安心できる」と面談で感じたスクールを選んだ。Web開発会社が運営する「RUNTEQ」だ。
そこで岩崎さんは半年間のコースでRubyを勉強した。カリキュラムは実際の業務と近い「ものづくり」が中心。公式ドキュメントを読まなければ解けない問題も多く、苦戦した。
学習や転職活動を進めるうえで大きかったのが、チャットツール「Discord」を介してつながっている仲間たちの存在だ。講師やスクール生に加え、エンジニアとして働くようになった卒業生やRUNTEQのエンジニアも遊びに来てアドバイスしてくれる。プログラミングに真摯に向き合い、いい刺激を互いに与え合える仲間がいたからこそ前向きに取り組み続けることができた。卒業後もスクールの仲間と付き合いが続く人が多いといい、一つのコミュニティになっているようだ。⇒【RUNTEQ「無料キャリア相談会」申し込みはこちらから】
この経験がTwitterアカウント解析サービス「エンジニアチェッカー」を作ったときにも生きたという。
「僕みたいに未経験からエンジニアを目指す人は、オンラインサロンや情報商材に踊らされがちなんです。仲間がいない人ならなおさらでしょう。そこで、一見ためになるような情報をTwitterで発信している人が商売目的のインフルエンサーか、本当に技術力のあるエンジニアかを簡単に見破ってくれるアプリがあったら騙されない。そう思って開発しようと決めました」
岩崎さんはこの時点で1年3か月勤めた銀行を退職。仲間や講師からのフィードバックを受けながら、夢中になって開発に打ち込んだ。結果として同サービスはTwitterでバズを生み、公開3日で1万人以上のユーザーを獲得。さらに、プログラミングスクールの合同コンテスト「editch」で最優秀賞とオーディエンス賞をダブル受賞した。
そして転職に向けた準備を開始。最も苦労したのは自己分析や業界分析だったという。技術は勉強してきたけれど、業界の研究が足りず、どのような領域でやっていけばよいかわからない。業界経験の長い講師陣を壁打ち相手にしながら考えた結果、「エンジニアチェッカー」の根底にある思想が自分にとって重要なのだと気づいた。世の中の問題を、技術の力で見破ること。その時に見つけた会社が現在働いている不動産ベンチャー、コラビットだった。
「事業の核が『AIで不動産の現在価値を推定する』というサービスなんです。不動産業界に渦巻く闇を技術の力で解決するという点が自分の志向と同じでした」
年収は当初50万円下がるも現在は前職よりも高給に
わずか2週間の転職活動を経てWebエンジニアとなった現在、不動産デベロッパー向けのソフトウェア開発でバックエンドとフロントエンドを担当している。仕様に基づき、どのようなアーキテクチャで機能を実現するか考え、プログラムを書くのが岩崎さんの仕事だ。顧客であるデベロッパーと直接話すことはないが、営業を通じて「新しい機能が非常にいい」という声を聞くと、やってよかったという喜びを感じる。
働き方も様変わりした。前職ではコロナ禍でもリモートワークは許されず、6時半に起きて満員電車で通勤し、夜は20~21時ごろに帰宅していた。現在は週に1、2日出社する以外はリモート勤務だ。コアタイムの11~17時までは必ず働き、残りは体調やモチベーションに応じて深夜や土日に働くという。
やりがいや生活スタイル、収入面にも大きな変化が生じた。日曜夜の憂鬱は、もはや感じることがない。技術面でも、ものを作るうえでも成長しているという実感が得られ、以前のような漠然とした不安がなくなった。年収は当初、50万円ほど下がったが、四半期ごとの評価面談で見直しがあり、現在は前職退職時よりも50万円上がっている。努力すれば結果もついてくるからこそ仕事にも打ち込める。
もちろん、よいことばかりではない。エンジニアの世界では技術力のみが評価される。休日でも自主的に勉強し、新しい技術にキャッチアップしていかないと取り残されてしまう。プレッシャーを感じていないと言えば嘘になる。それでもエンジニアという仕事を選んだことに後悔はないと岩崎さんは言う。
「プログラミングを学んでエンジニアになると決めたのは、僕にとって人生で最も大きな転機でした。いま、すごく楽しくやれています」