カー用品販売店の国内最大手チェーンを運営する株式会社オートバックスセブンは、複雑化する自動車業界において「新たなカーライフ文化を創造し続ける」ためにデータドリブンな取り組みを加速する。
クルマを取り巻く業界全体の活性化にも寄与するべく、オートバックスセブンが構築を進める「6つのビジネスネットワーク」とは。執行役員でIT戦略担当 兼 オンラインアライアンス事業担当の則末 修男さんに伺った。(文:千葉郁美)
クルマの概念が大きく変わる変革期
――自動車業界は今どのような環境にあるのでしょうか。
昨今の自動車業界を表すキーワードに「CASE」が挙げられます。自動運転や車の電動化、あるいはシェアリングといったことがメインで進化をしていくと予測されています。
一方で「CASE」だけが全てではなく、その裏では自動車の保有年数がどんどん長期化していたり、かと思えば3年ほどの短いスパンで乗り換える人もいたりして、車の乗り方や生活スタイルに合わせたモビリティとの関わりが複雑化してきている、という変化もあります。
また、世の中の車が自動運転になれば車の整備頻度は上がっていくと私たちは考えています。例えば、飛行機は離着陸のたびにしっかりと整備をしますが、それは自動運転だからなのです。何かあったら困るから完璧に整備しないといけないということで、整備頻度は益々高まります。
業界を取り巻く環境は更なる変化への対応を求められ、同時に多くの課題が生まれています。全てのニーズを私たち1社で対応できるのか、メーカーあるいは自動車整備業者で対応できるのかといえば、そう容易いことではありません。
こうした課題をネットワークによる連合軍で対応していこうと、オートバックスセブンではグループ内外に関わらず連携し、ビジネスネットワークの確立を進めています。
業界を取り巻く環境に存在する6つのビジネスネットワークで課題を解決する
――「ビジネスネットワーク」とは具体的にはどのような取り組みなのでしょうか。
私たちが車に関わるさまざまなことですね。具体的には、カー用品販売、PITサービス、マルチディーラー、海外とのアライアンス、次世代整備技術の6つのネットワークです。
一台の車が生まれてからその役目を終えて手元を離れ、場合によっては海外への輸出も含めて、車に関するその履歴をしっかりマネージしながらお客さんとエンゲージさせていく。その基礎になるのがオンラインネットワークであると考えています。
――オンラインネットワークは他社との連携が重要な鍵となりますね。
そうですね、いくつかある事業ポートフォリオのうちの一つがオンラインアライアンス事業のポートフォリオとなっています。リアル店同士やアライアンスの繋がりに加えて、オンラインで繋がったビジネス関係、アライアンスを築いていこうとしています。
オンラインアライアンス事業において重要なミッションは、組織を横断する「データマネジメントセンタープロジェクト」の推進です。2019年にデータドリブンな会社への変革を目的に立ち上げられたこのプロジェクトは、名前の通り社内にころがっている素晴らしいデータを利活用していくというものです。
――データマネジメントセンタープロジェクトはどのように進んでいるのでしょうか。
まず土台として、社内の既存データの精度情報や各種マスターの統合や、顧客データ基盤の構築を実行しています。私たちだけでは足らないデータもたくさんありますので、様々なアライアンス事業の方々とも連携しながら一つ大きなデータレイク、データウェアハウスを作ろうとしています。
膨大なデータは私たちのビジネスに生かすこともできるし、もちろん協力した事業連携企業にもそのデータを共有して、お互い利益となるビジネスを考えていくというのが、データマネジメントセンターの大きなミッションですね。
――すでに他社とのアライアンスで実現した成果はありますか?
例えばタイヤのECサイトを運営する株式会社BEADとの連携があります。彼らはガソリンスタンドをタイヤ販売の中心拠点としていて、そのガソリンスタンドや整備工場を4000拠点ほど持っています。
一見して私たちに競合する企業となり得ますが、それぞれのビジネスネットワークから得られる顧客接点を情報化し流通させることにより、それぞれの共同戦線を張ることで相乗効果を狙った連携が実現しています。
そのほか、例えば旅行会社関係では、アウトドアのグランピング設備を持つ藤田観光株式会社とのアライアンスにも成果が出ています。
コラボレーション企画「おでかけ応援project」として、アウトドア系のコンテンツを共有しながら、ドライブ&ステイ+アルファ(プラスワン)ということで、アウトドア・ドライブ・どこかに泊まるというのをキーワードにランディングページを一緒に運営しています。お互い相互送客しながら、どんなお客様がどんな趣味趣向で回遊されるのかを見ていくということも実施しています。
このように様々な事業者さんとの連携が実現しています。これからも益々たくさんの事業者さんと連携しながら、いいエコシステムが作れたらと思っています。
カーライフという接点からさまざまな価値が生まれる
――アライアンスやデータ活用はどのようにマネタイズしていくのでしょうか。
マネタイズの方法は2つあると思っています。
まず、お客様の行動履歴や購買履歴を販促に生かす、チャネルで趣味趣向にあった商品提案をしていくというところは当然考えられます。これはステップ1として当然やるべきことですね。
新たな領域としては、『カーライフ情報バンク』がマネタイズのポイントになります。今の時代、購買履歴などの無数にあるお客様の個人情報の利用に際して、お客様にとって付加価値の高い何かと引き換えに預けていただけるかが、重要なポイントになってきます。例えば、お客様の購買履歴や購買パターンをどのように資産化して、ビジネスに生かすかという話です。
アライアンスやデータを連携し、お客様からご承認済のカーライフに関する接点情報を収集します。その結果をアライアンス企業にフィードバックする。そこがマネタイズのポイントになります。つまり、アライアンス企業は、得られた精度の高い情報から、ニーズなどを分析し、販売へと生かすことが可能となります。
――変革を起こすときというのは人材育成や採用に苦労する場合が多いと思います。オートバックスセブンでは何か工夫をされていることはありますか?
既存のビジネスを生かすこととデータを生かすこと、そして新しいビジネスをどう作り上げるか、この3つを考える必要があります。ですが、私たちは長年やっている既存の業務は深く理解しているものの、既存ビジネス以外の2つはなかなか理解に至らない部分が多くあります。
そうした部分は知見のある新しい方にきていただき推進していく方向性で、活発に採用を行っているところです。もちろん社内で育てていくことも大切ですが、私たちの理想を早く実現していくためにも、新たな力を求めています。