人材の高度化を加速させるキヤノンMJ 人材育成施策。イノベーション人材の創出に注力 | キャリコネニュース
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人材の高度化を加速させるキヤノンMJ 人材育成施策。イノベーション人材の創出に注力

キヤノンマーケティングジャパン株式会社 総務・人事本部グループ人材開発センター部長の佐伯若奈さん(左)と企画本部・事業開発部オープンイノベーション推進室 室長の木暮次郎さん(右)

キヤノン製品や関連ソリューションの国内マーケティングを担うとともに、ITソリューション事業に注力し取り組んでいるキヤノンマーケティングジャパン(以下、キヤノンMJ)は、2025年ビジョンに「社会・お客さまの課題をICTと人の力で解決するプロフェッショナルな企業グループ」を掲げ、社会課題解決を実現するべく新たな価値創造を推進する。

重要な戦略と位置付けているのは「人的資本」への取り組みだ。日本国内で経営戦略における人的資本への意識が年々向上している今、「人材の高度化」に着目したキヤノンMJはどのような人材育成に取り組んでいるのか。キヤノンマーケティングジャパン株式会社 総務・人事本部 グループ人材開発センター部長の佐伯若奈さんと、企画本部 事業開発部 オープンイノベーション推進室 室長の木暮次郎さんに話を伺った。(文:千葉郁美)

社会課題解決に向けたキヤノンMJの人材の姿

――御社は、2021年に策定された長期・中期経営計画において「人の力」をビジョンの中心に据えられ、人材育成を重要な戦略に位置付けました。まずは人材育成にどのように取り組んでおられるのか、お聞かせください。

(佐伯さん)キヤノンMJグループでは、2025年ビジョンとして「社会・お客さまの課題をICTと人の力で解決するプロフェッショナルな企業グループ」を掲げています。経営戦略と人材戦略を融合させていく動きの中で、改めて求められる人材像を明確にし、社内外に明らかにすることが必要と考え、設定することとしました。

キヤノンのDNAである「三自の精神(自発・自治・自覚)」、自ら役割を自覚し、自発的に動くという認識は、社員の中で共通して漠然と根付いていましたが、私たちが人材育成によって目指す『人材のありたい姿』とはなにか、もっと具体化して、具現化して、言語化する。これを定義するため、2021年3月ごろに各グループ会社の人材育成担当者や各事業部門で事業の人材育成を担当しているメンバーで集まって、さまざまな言葉を紡いでいきました。

そうして定義された人材のありたい姿が、「進取の気性を発揮し、新たな価値創造で選ばれ続けるプロフェッショナル人材」です。

この一文を構成する言葉一つ一つには深い意味があります。

「進取の気性」、これはキヤノンの行動指針の一つでもありますが、「過去のことに捉われず、新しいことに果敢にチャレンジしていこう」という気持ちを発揮するということ。

「新たな価値創造」。グループ各社がそれぞれの立場で、既存の事業だけではない新しいものを作り出す。

「選ばれ続ける」。選ばれるということは、すなわちお客さまに信用され、頼られる存在であり続けること。

最後に、「プロフェッショナルな人材」。単に基礎的な知識があるということではなく、その道のプロフェッショナルになるということを意味してこの言葉を選びました。

この「人材のありたい姿」を北極星のように道しるべとして掲げて、それに向かって人材育成をやっていこうと。グループ各社がさまざまな取り組みを施策し実行に移しているというところです。

さらに、実行していく上でもう少しわかりやすい人材育成における指針を提示しました。それが「学ぶ・挑む・変わる」の目指す行動変容です。

自ら学び、得た学びによって新たなことに挑み、挑んだことで何かを変えていく、あるいは自分自身が変わる。それによって「人材のありたい姿」に近づけていくんだという思いを込めています。

ベースのマインドセットは新入社員研修から

新人社員研修グループワークの様子

――具体的な人材育成の施策についてお伺いします。「人材のありたい姿」に向けて、実際にはどのような人材育成を行っていくのでしょうか。

注力して行っている取り組みの一つは、新入社員研修です。

新入社員研修は「社会人へのトランジション」をテーマに掲げ、4月・5月の2ヶ月をかけて行っています。

4月はまずは社会人になるために、いわゆる一般的なビジネスマナーも習得しますし、製品を作る工場やデータセンターの見学、キヤノンらしくカメラ教室も行います。この1ヶ月は、会社を知るともに仕事をスタートしてもしなやかな対応ができるメンタルを持てるようにと、自己肯定感を高めることにポイントを置いています。

5月に入ってからは、キヤノンMJの2025年ビジョン「社会・お客さまの課題をICTと人の力で解決する」を体現するべく、「社会課題解決」に主眼を置いた「キヤノンMJ with SDGs研修」がメインになります。この取り組みは、実際にさまざまな社会課題に触れ、それを解決するための事業構想を模擬で体験するものです。

まず社会課題の実態を知るために、社会課題に取り組むNPOの方の講演を聞くほか、海や山、川、街に出て、社会課題を体感するんですね。例えば里山に入り、下草に日光が届くように蔓を切る作業をしたり、海ではゴミ拾いに参加したりといったことを行います。

さまざまな社会課題の実態を理解した上で、どの課題に対してどのような方法で解決を試みるのか、数人でグループを組んでアイデアを出し、事業化を検討していきます。

ただ闇雲に取り組むのではなく、事業構想に必要な思考、ロジカルシンキングをベースにマーケティングや会計など、必要なインプットを実施しアイデアを発想させていきます。当社の新規事業開発部門も参画し、社会課題を解決する事業構想にチャレンジしています。

最後はこうして作り上げた事業アイデアをスライドにして発表し、優勝を競います。この取り組みも2022年で3年目になるのですが、今年はスライドによる発表とともにアプリケーション開発にも挑戦しました。スマートフォンのノーコードツールを使い、アプリを作ってみるというところまでを5月の1ヶ月に取り組んでいます。

――新入社員の方々は入社から2ヶ月でとても密度の濃い経験をするのですね。この取り組みに対しての反応はいかがですか。

議論を戦わせているグループも多く、とても真剣に取り組んでくれているなという印象ですね。グループ内で考え方の違いから衝突する場面もあるようです。ある人は「思いついたことをすぐに試してみよう、動かしながら考えていこう」というタイプだけれど、ある人は「とことん考えて、仕上げてから動き出そう」という考え方をする。そういう衝突をしても、4月の段階である程度の人間関係が出来上がっているのでいい雰囲気でグループワークに取り組んでいます。最後は全員が優勝したいという負けん気も出てきて、ものすごく活気があります。

――事業アイデアを発表するだけではなく、アプリケーションにするというのはめずらしい取り組みですね。

そうですね。昨年まではパワーポイントで発表するまでだったのですが、実現性の低いアイデアになりがちでした。それらしい論文なんかを引っ張り出してくるのですが、実際に事業化ができるアイデアかというと難易度が高いものが多かった。少し地に足がついた事業アイデアを構想してほしい、しかもデジタルの発想も入れたいということで、今年からツールを作るところまでを盛り込みました。

――2ヶ月の取り組みを終えたあとはそれぞれ配属されていくことになるかと思いますが、燃え尽きてしまうようなことはないのでしょうか。

必ずリアリティショックが起きると考えていますが、それを低減させるための土台づくりやレジリエンス的なことも4月に実施しています。とはいえそれで終わりではなく、そのようなことにならないよう、後日フォローする体制も整えています。

スキルアップの施策には「通信教育講座」を活用。アナログな学習方法が魅力

――新入社員の段階で社会課題解決への意識をしっかりと根付かせていく、御社の目指すイノベーション人材として社内で活躍していくための礎ともいうべき施策ですね。

一方で、既存の社員の育成や教育も重要かと思います。どのような施策を実施してこられたのでしょうか。

既存の社員に向けては、これまでも人材育成体系を作り階層別の研修を実施するなどしてきました。内容は充実しているものの、昇進のタイミングでしか受けないものになっているんですね。すると、受講する機会が何年かに一度になってしまったり、そもそも昇進の機会がなければ受講するチャンスにも恵まれなかったりするわけです。それでは、全員に力を身につけてはもらえません。

そこで、既存社員のスキルの補強に対しては、社外の通信教育講座を取り入れる新たな人材育成施策を開始しました。

これは、いわゆるテキストを片手に勉強をして、課題に取り組んで提出すると人の手によって添削されて戻ってくる、そんな昔ながらの通信教育講座です。

具体的には、上司と部下の間にスキルチェックシートを設けまして、それに基づいて自分の弱みを洗い出すのと同時に、その弱みを補うのに適した講座も紹介されるようになっています。講座で学んで、しっかりと修了証を発行するに至れば、受講費用を全額会社負担としましょうという取り組みです。

――昨今ではオンライン受講や動画による研修なども盛んに行われているかと思いますが、そうした通信教育を選択されたのはどのような理由があったのでしょうか。

通信教育はテキストが手元に残ることや、提出課題に人の手で添削をしてもらえることが魅力だと感じています。実際に、取り組みを開始する前には総務・人事本部の若手社員に試してもらったのですが、非常に評判が良かったんです。Eラーニングのように見終えてしまったらそれきり見返す機会がないものに比べ、手元にテキストとしてあることや手厚いフォローがあることで、学習意欲が高まるようです。

通信教育講座の種類も非常に豊富にあります。例えば「エクセルのマクロ入門」「思考力強化」といったものや、「漫画で読んでわかる会社の会計」なんていうものもあります。社員がそれぞれの立ち位置で、個々に合うスキルを選べる幅の広さもあります。

今後、多くの社員に利用してもらえるように、取り組みやすい環境も整えていきたいと考えています。

新規事業開発と人材育成の連携でイノベーション人材の創出を目指す

本社オフィスの様子

――御社はグループ横断で新価値創出に向けたイノベーション人材の育成により、新規事業の創出を加速させようという取り組みにも注力されています。そもそも、御社の求めるイノベーション人材とは、具体的にどのような人なのでしょうか。

(木暮さん)劇的なスピードで社会が変化し、VUCA(ブーカ)時代が進む中、社会課題も複雑化しています。そうした中でも、課題解決のために自ら行動し、新たな価値を生み出したり、各現場の中で変革の中心を担ったりする存在というのが、イノベーション人材のベースとなる考えです。

イノベーション人材は、今後すべての企業で必要となる人材だと考えています。顕在化している課題に対して解決方法を出すというソリューション型の人材というのは以前からありましたが、昨今ではそれだけでは不十分で、新たな解くべき課題の発見やその解決を実現させる力が重要であるという考えから、当社グループでは、「高い感度で違和感を持つ力」「多角的な視点を持つ力」「課題設定できる力」という3つのスキルを設定し、育成を図っています。

――具体的にはどのような取り組みが実施されているのでしょうか。

イノベーション人材の具体的取り組みの一つとしては、「イノベーションアカデミー」という学びの場を設け、アート思考やデザイン思考を組み合わせたアイデア創発ワークショップをはじめ、誰でも繰り返し学習できるプログラムを内製で運営しています。こうしたプログラムを人事部門が主催する階層別研修にも展開し、年間600名以上がイノベーションに触れられる機会をつくっています。また、こうした育成環境を社内に整えること自体が、組織全体の変革へのマインド醸成にも良い影響を及ぼすと考えています。

もう一つの取り組みである、社員発の新規事業創出をめざす社内起業プログラム「Canon i Program」は、グループ社員であれば誰でも起業への挑戦ができる制度です。特徴的なのは、新規事業の立ち上げ支援を専門とする事業開発アクセラレーターを社内で育成することで、再現が難しい新規事業創出をナレッジとして蓄積しているところです。今年4期目に入るプログラムですが、ようやくサービスローンチする案件も出されるようになってきました。

一方で、当然ながら求める人材すべてを社内で育成しようとは考えておらず、社外からの採用も行うことで、イノベーション人材の多様性の充実も図ろうとしています。

――既存社員の育成や新たな能力開発にも非常に積極的に取り組まれているのですね。独特な新入社員研修もあり、御社への入社を希望する人も少なくないかと思います。イノベーション人材の育成を掲げる御社にとって、必要とする人材像はどのような人でしょうか。

(佐伯さん)採用の観点ではこういう人物という定義はしていません。本当に多様な人を、偏りなく採用しているというのが正直なところです。実際の採用過程においても、面接官には大学名を伏せた状態で面接をしています。

ただ、一方で目指しているところは「進取の気性を発揮して新たな価値創造で選ばれ続けるプロフェッショナルな人」ですので、そういう意味合いではやはり自ら何かをやろうと、前のめりに物事に果敢にチャレンジしようという気概を持った方には期待しています。

【プロフィール】

佐伯若奈(さいき・わかな)
グループ人材開発センター 部長

1995年入社。インストラクターを経て2001年 マーケティング部門に配属。その後、事業計画部門(Salesforce担当)、IT本部配属ののち、総務・人事本部 人材育成担当 課長就任。2019年より現職。

木暮次郎(こぐれ・じろう)
企画本部 事業開発部 オープンイノベーション推進室 室長

1999年入社。大手法人向け営業を経て2006年よりキヤノン労働組合・執行委員。2015年から現職。

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