「逃げるが勝ち」とはよく言ったもので、あまりにも劣悪な環境からは、戦うより早々に逃げるのが正解ではないか。関東在住の30代女性は3年ほど前、コンビニの製麺工場で夜勤を始めたが、わずか3日で“逃げるように”辞めたという。時給は1300円だったというが、一体どんな職場だったのか、女性が編集部の取材に応じてくれた。
面接では悪い印象は無かったが、不穏なことは初日から起こっていた。案内してくれた日本人の中年女性は、挨拶した早々「物凄く嫌な顔」をした上に、工場で働く専用の靴が用意されていなかった。
「白い靴でしたが、真っ黒というかグレーに汚れていて、どの靴も悪臭がしていて、24センチなのですが仕方なく27センチを履きました。案内してくれた女性に『面接でサイズを聞かれ用意されるとの話だったのですが』と言うと、『貸してもらう立場で文句言うんじゃないよ!』と怒鳴られました」
案内の女性は別の持ち場に行ったためほっとしたそうだが、仕方なく汚くて歩きにくい靴を履いて仕事をすることに。しかし理不尽な事はこれだけではなかった。
「ここは日本?」と思うくらい外国人ばかり
工場内に入った女性の前には、異様な光景が広がっていた。
「現場に行くと、『ここは日本?』と思うくらい外国人ばかりで驚きました。体育館くらいの広い部屋に70人くらいはいたと思います。他にももう2つか3つ小さめの部屋があったので、全体では150人ほど働いていたのではないでしょうか」
驚いたものの、初日は日本人スタッフも数人いて感じの悪い人もおらず、仕事を教えてもらえたと振り返る。
「昼休憩も4時間働いた後に取るように言われ、脚が疲れたこと以外問題ありませんでした。外国人の方々には、挨拶がてら話しかけたので出身地が聞けました」
しかし問題は2日目からだった。周りに日本人が誰もいなかったのだ。女性は英語はそれなりに話せたが、「中国人、ベトナム人がほとんで、日本語はおろか簡単な英語も通じませんでした」と不安なスタートとなった。その日は「冷やし中華の具を、流れてくる入れ物に入れる作業」に入ったが……。
「2人でやらないと間に合わないほどのスピードで、初めてやる私には無理でした。片言の日本語を早口で話すバイトリーダーのようなフィリピン系の女性に『もっと早く!量が多い!汚い!なにやってんだ!』といちいち怒鳴られ、言い返すと『生意気だ!』と言われる始末でした」
まさか初勤務の翌日からハードな持ち場で罵倒されながら働くとは、思いもよらないことだった。
「きゅうりのやつは誰だ?汚いし量が多かったり少なかったり、何なんだよ」
女性は日本人の社員を目で探しながら冷やし中華の作業を続けた。すると、
「日本人の男性社員から『きゅうりのやつは誰だ?汚いし量が多かったり少なかったり、何なんだよ』と怒られました」
これに謝罪し、新人で昨日の担当はうどんだったことや「冷やし中華は初めてで、このスピードで正確にやるのは難しいです」と話すと「舌打ちされ、2人配置の所に異動させられました」と振り返る。
「私が見た限り、夜勤の社員は男性しかいないようでした。かったるそうにして、威圧的でした。バイトを馬鹿にしたように扱います。いきなり『おまえ何人?』とだけ聞かれたこともありました」
その後もさらに働く気持ちを萎えさせる出来事が続く。労働条件は週5で1日8時間、1時間休憩の契約だったが、休憩がなかなか取れなかった。
「驚いたのが、その日の休憩が7時間も作業した後だったことです。トイレにも行ける状況ではなく、お腹も空き立ちっぱなしで脚も疲れてくるので、ひどいと思いました」
しかも、終業間際に「人がいなくて」と社員に頼まれ、疲れきった身体で1時間残業することになってしまった。
終業時刻に抜けると「うどんの女何やってんだ!戻れ!」
そして迎えた3日目、またも言葉の通じない外国人スタッフに囲まれ、うどんを作る作業に入った。今回は途中から日本人女性と話す機会があり、
「ここはおかしな人しかいない。おかしな会社だよ。うどん踏んで滑って転んで骨折したこともある。でも私は歳だし、他の仕事を探してはみたけど、どこも受からなかったから仕方なく続けてる」
とネガティブな話を聞かされた。しかもこの日の休憩は7時間半後で、「さすがにあり得ない」と辞める決意を固めた。終業時刻が近づき「やっと終わる」と思っていたが……
「5時を過ぎても私の代わりの人が来ません。片言を話せるベトナム人に『社員さんを呼んで』と伝えましたが、『無理!無理!』としか言われず、『何が無理なの?』と聞いてもわかりませんでした。仕方なく持ち場を抜け出して社員を探すと、放送で『うどんの女何やってんだ!戻れ!』と言っているのが聞こえました」
放送で悪態をつかれながらも社員を見つけ、「5時までだから帰ります」と伝えた。すると
「『勝手なことするな!』と怒鳴られました。私は『労働基準監督署に通報する!残業してもらえませんか?とまず聞くものでしょ?』と言い、その場から逃げ、出口に走りました。着替えて事務所に行き、『今日で辞めさせて下さい。誰に言えばいいですか?』とその場にいた人に聞きました」
話を聞いた人物は、インカムで先ほどの男性社員に「○○さん、辞めたいって人がいるんだけど」と伝えたが、
「私は『その人と話すことはない!労働基準監督署に通報します!』と制服を置いて逃げて帰りました」
それ以上関わるのを徹底して避けたのだった。
「コンビニで冷やし中華やうどんは買わなくなりました」
給料は普通に振り込まれ、しばらくして源泉徴収票も郵送で届いた。結局、労基署に通報はしなかったという。ただ、たくさんの外国人がブラックな環境で働いていることを思うと胸が痛むそうで、こんな風に語っている。
「日本語がわからないから文句も言えず、助けも求められないのかもと思いました。まともな日本人は『やばい』とすぐ辞めるでしょうね。嫌なことを思い出すので、コンビニで冷やし中華やうどんは買わなくなりました」
劣悪な労働環境が人手不足の悪循環をもたらしていることがうかがえた。
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