京都の老舗のベテラン社員に強烈ダメ出し 再生ファンド「ダサいですよね」「玄人ばかりが買いに来たら苦労しない」
業績が悪化している会社でも、何が問題なのかが明らかになっていることは多い。しかし社内に人間関係を優先する雰囲気ができてしまうと、誰も偉い人にダメ出しができなくなってしまう。そうなったら「外圧」を頼るしかない。
12月8日放送の「ガイアの夜明け」(テレビ東京)は、「よそ者は老舗を救えるか?」をテーマに、老舗企業を外部の人間が改革する様子に密着した。そこで陶磁器ブランド「たち吉」のベテラン社員が、再生のプロにとことんダメ出しをされる場面があった。
創業家の社長は退任、263年続いた同族経営に終止符
「たち吉」は、創業264年の歴史を持つ京都の陶磁器販売店。昭和30年代から上質の和食器を売る店として人気を博すが、バブル崩壊後に高級品が売れなくなり、海外からの安い食器に押された。
対抗策として低価格路線へ走ったものの、かえってブラントイメージが落ちて客離れを招く。経営は悪化し、ついに今年2月、大手投資ファンド「ニューホライズンキャピタル」の傘下に入った。創業家の社長は退任、263年続いた同族経営に終止符が打たれた。
役員の交代はあったが、300人の従業員はほとんどそのままだ。商品開発の責任者で、たち吉ひとすじ29年のSさん(52歳)は、投資ファンドからやってきた幹部たちに新商品の説明をしていた。当然、役員たちのチェックは厳しいものだった。
Sさんは、レンコンに見立てた模様の小皿を「縁起物」として売ると説明したが、商品パンフレットにはその記載がない。すかさず幹部の1人に「そういうところですよね」とツメの甘さを指摘された。
「そこが訴求ポイントなら、訴求しないと分からないところですよね。一般(客)のレベルはSさんの100分の1しかないから」
自分が分かっているだけで、客への説明が足りないというのだ。さらに「玄人ばかりが買いに来たら苦労しないんだから」とあきれた口調でたたみ掛けられると、Sさんは恐縮しきって頭を下げていた。
指摘されたベテラン社員は不満顔「言いたいことはある」
20代から30代の新婚夫婦に向けたカタログギフトのセットを見せると、またしてもダメ出しが出た。パステルピンクと白の角皿に「これがダサいですよね」とズバリ。
「本当に20代30代の女性が買いたいかと言われたときに、デザインも古いし、色使いも形も古いし。昭和の食器に見えちゃう」
Sさんは、たまりかねたように「それは…、要するに…、額が稼げる(ので)。良い悪いは別ですよ?」と反論。低価格路線で利益を出すために、色々と苦労があるのだと言いたげだ。しかしすぐに「額が稼げるって、どういう意味ですか?」と突っ込まれた。
Sさんが「3000円のマーケットで、どの商品を発売しても、一定の…」という説明も、「それは全然いいんです」と容赦なくさえぎられ、「ただ、この柄とか形だったら、たち吉の名前出すのはどうなの、って感じだけなんです」と決定打を食らう。
生え抜きのベテラン社員は根本的な問題で、外部からやってきた再生のプロに太刀打ちできなかった。「たち吉」を立て直したい思いは同じはずだが、Sさんは明らかに不満顔で「言いたいことはたくさんありますけど…」と言葉を濁した
映像を見た筆者も同感。よそ者の指摘は正しかった
もちろんこのようなやりとりに対し、「ベテラン社員への敬意を欠いている」「言い方というものがあるだろう」といった批判をする人もいるかもしれない。「感じ悪い」と反発し、仕事のやる気が失せるという見方もあるだろう。
しかし失礼ながら、映像をみた筆者も、ダメ出しをした幹部の「古い」「ダサい」に全面的に同感だった。商品を見た瞬間に、ひとりの消費者としてガッカリしてしまったのだ。この段階で「とってもいいんだけどね、ちょっとここが」などと内輪の気遣いをしても、会社はよくならないのが現実だろう。
Sさんは腐らず、「言われたことは受け止めて、良いものをもう一回再生していきたい」と語っていた。もともと素直で従順な方なのだろう。これまでも会社の方針にきちんと従ってきたのだが、その結果、業績悪化を招いてしまったことにサラリーマンの悲哀を感じる。
強いダメ出しをされていたSさんは、大量生産で見失っていた老舗ブランドのプライドを取り戻すべく、つきあいが途切れていた職人たちに新商品の生産を依頼していた。職人の手仕事で生まれた「火色の大皿」は、どこに出しても恥ずかしくないような立派な品物だった。よそ者のダメ出しは正しかったのだ。(ライター:okei)
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