「蜷川演出」はパワハラなのか? 加藤浩次は擁護「真剣にぶつかることが、どれだけ大切かを教えてくれた」
5月12日、日本を代表する演出家の蜷川幸雄さん(80歳)が亡くなりました。彼の演出によって大きく飛躍した俳優たちは数知れず。訃報を受けて各界から喪失の衝撃や悲しみと感謝の意を表す言葉があがっています。
蜷川さんは一切の妥協を許さず、俳優に容赦ない罵声を浴びせることでも有名でした。13日放送の「スッキリ!!」(日テレ)は、生前の蜷川さんが最後まで「稽古場の鬼」を全うした姿を紹介。一昨年12月、藤原竜也さんの舞台稽古でもこう叫んでいました。
「ゆっくり言え!」「声が汚い! ヒキガエル!」
「バカ! 才能なし!」
ネットは批判「美談にしてるけど、ただの暴力だし最低」
他の俳優の追悼コメントにも「よく怒られましたが、その熱さにいつも心を揺さぶられました」(渡辺謙さん)、「どうぞ天国にいらしても私たちの心にゲキを飛ばし続けて下さいますように…」(宮沢りえさん)など厳しい指導ぶりを伺わせる言葉が並びます。なかでも女優の寺島しのぶさんのコメントは、インパクトがありました。
「19歳で主役に抜擢していただいたこと、そこで容赦のない灰皿と靴と罵声が飛んできたこと。『お前はブスだから、誰もが黙る演技力を身に付けろ』と言われたこと…」
ただし、こうしたコメントに違和感を抱いた人もいるようです。亡くなった方の批判をしないのが日本人ですが、ツイッターにはこんな匿名の投稿がありました。
「何で蜷川幸雄の『灰皿を投げた』『暴言を吐いた』行動が、美談扱いされているのだろう。単なるパワハラというか暴行だし、指導方法としては完全に間違っている。『演出家としてこのように優れていた』と言えよ、褒めたいなら」
「『仕事ではこういう暴言を吐かれたけど感謝してます』がテンプレ化してて上限まで気持ち悪い。演出家であろうがパワハラなど許されないのは当然で、生前から灰皿だの靴だの暴言だのを投げていたことを美談の一部にしてるけど、ただの暴力だし最低じゃないか」
厚労省のパワハラ定義を引用し、「罵声などの『精神的攻撃』も含まれる。もし演劇スタッフが訴えたらどうなってたか」と疑問を呈する人もいます。
寺島しのぶは「思いっきり本音が言い合える人」と評す
一方で、これらの批判に対して「被害者でもない第三者が批判する風潮がおかしい」「当事者がどう思うかだけ」と反論するツイートも見られます。「スッキリ!!」MCの加藤浩次さんも「怒るとか怒鳴るとか、合理的じゃないって言う人もいるかもしれませんけど」と前置きし、こう擁護していました。
「蜷川さんを見ていると、怒るっているのは情熱だったり愛情だったり、そういうことを伝えてくれてるんだなって。真剣にぶつかるってことが、どれだけ大切かを教えてくれた感じがするんですけど」
愛があるかどうかは、実際に罵声を浴びた人にしか分からない心情ではあります。しかし寺島しのぶさんのコメントも、最後まで聞けば「思いっきり本音が言い合える人が又居なくなってしまった」と、感謝と故人を悼む気持ちしかないことがよく分かります。
蜷川さんは、お金を払って批判しようと待ち構えている意地悪な観客に罵倒されないよう、厳しく指導していたのかもしれません。とはいえ他の人が同じようなことをして、「愛があるから大丈夫」で通じるかどうか。演出家なら許されるという理屈も弱く、こういうスタイルは時代の産物だった気もします。(文:篠原みつき)
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